「自由な空気の中」というキーワード

渡辺謙さん演じる田沼意次。(C)NHK

A:さて、大河ドラマファンの方の中には、「なぜ今、蔦重なのか?」と思う方もいるかもしれません。私も最初はそう思ったりしましたが、なかなか面白そうなのですよ。NHKの公式リリースからどうぞ。

18世紀半ば、人口は100万を超え、天下泰平の中、世界有数の大都市へと発展した江戸。蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)は、江戸郊外の貧しい庶民の子に生まれ、幼くして両親と生き別れ、引手茶屋の養子となる。

血のつながりをこえた人のつながりの中で育まれた蔦重は、貸本屋から身を興して、その後、書籍の編集・出版業をはじめる。

折しも、時の権力者・田沼意次(渡辺謙)が創り出した自由な空気の中、江戸文化が花開き、平賀源内など多彩な文人が輩出。蔦重は、朋誠堂喜三二などの文化人たちと交流を重ね、「黄表紙本」という挿絵をふんだんにつかった書籍でヒット作を次々と連発。33歳で商業の中心地・日本橋に店を構えることになり、「江戸の出版王」へと成り上がっていく。

蔦屋が見出した才能は、喜多川歌麿(染谷将太)、山東京伝、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九といった若き個性豊かな才能たち。その多くは、のちの巨匠となり日本文化の礎をになっていく。

しかし時世は移り変わり、田沼意次は失脚。代わりに台頭した松平定信による寛政の改革では、蔦重の自由さと政治風刺は問題になり、財産の半分を没収される処罰を受ける。周囲では江戸追放や死に追いやられるものもあらわれる…蔦重は、その後も幕府からの執拗な弾圧を受け続けるが、反権力を貫き通し、筆の力で戦い続ける。そんな中、蔦重の体を病魔が襲う……。

命の限りが迫る中、蔦重は決して奪われない壮大なエンターテインメント「写楽」を仕掛けるのだった……。

A:ここで注目なのは、「時の権力者・田沼意次(渡辺謙)が創り出した自由な空気の中、江戸文化が花開き」の箇所です。1987年の『独眼竜政宗』で政宗を演じた渡辺謙さんが田沼意次役で登場です。キーワードは「自由な空気の中」でしょうね。

I:ともすれば時代劇の悪役的な役回りとして知られる田沼意次の「実像」があらわになるという期待も大きいようですね。

A:はい。意次と蔦重がどう絡んでくるのか楽しみです。そして、リリース後半にある「しかし時世は移り変わり、田沼意次は失脚。代わりに台頭した松平定信による寛政の改革では、蔦重の自由さと政治風刺は問題になり」の部分にも注目です。

I:有名な「もとのにごりの田沼恋しき」の雰囲気がどう描かれるのかドキドキですね。

急坂を若さとパワーで登りきる物語

明和の大火に見舞われた江戸市中を走る蔦重と唐丸。(C)NHK

I:そういえば、物語の冒頭が明和9年(1772)の大火のシーンから始まるということが明かされたそうですね。明和(めいわ)9年は「めいわく」ということで、安永に改元されるきっかけになった大火ですね。

A:実は、取材会から帰ってきた翌日、自然に目黒に足が向いてしまいました。

I:あ! 明和の大火の火元ですね。

A:そうです。目黒の行人坂にある大円寺。日本橋、神田、千住など広範囲に大きな被害をもたらしました大火の火元が目黒とは、江戸の大火恐るべしを再確認しに行きました(笑)。

I:現代的な感覚でいえば目黒から日本橋など相当距離があるのにと思ってしまいますよね。

A:さて、その行人坂は、江戸有数の急坂で、有名な芸能プロダクション「ホリプロ本社」もあったりするスポットです。私事ですが、学生時代に近所に住んでいて、行人坂を自転車で登りきるのを日課としていました。今思うと若さのエネルギーとはなんと膨大なのだろうと改めてしみじみと思っています。

I:あの急坂を自転車で登りきるなんて……。

A:そしてふと思ったのです。蔦重の物語が行人坂が火元となった火事からスタートすることは、行人坂のような急な坂を若さとパワーで登りきるという物語になるのではないかと……。

I:司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』のような話ということですか?

A:『坂の上の雲』? なるほど、そうかもしれません。『坂の上の雲』は若い士族出の若者の話ですが、『べらぼう』は市井の町人の物語です。身分制度が窮屈だったと思われがちな江戸時代ですが、蔦屋重三郎は己の才覚一本で江戸有数の版元を築き上げ、喜多川歌麿、山東京伝、十返舎一九、そして東洲斎写楽などの文化人をプロデュースしていくわけです。

I:その蔦重の物語をNHKのエースが手掛けるわけですね……。

A:「喧嘩と火事は江戸の華」とよくいわれます。その火事が物語の冒頭に登場する。まず、注目したいのは、目黒が火元の火事を蔦屋重三郎がどこで遭遇するかです。

I:なんだか楽しみですね。第1回は2025年1月5日放送とのことです。

『べらぼう』のロケの様子。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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