昨今コンプライアンスが厳しくなり、後輩や部下に何を言っても「ハラスメント」になるのではないか……、自分の発言が老害として笑われているのではないか……、と不安に思う人も多いでしょう。

心理カウンセラーでもあり、「話し方のプロ」として、コミュニケーションについての著書は100万部超えという実績を持つ五百田達成さんの新刊『話し方で老害になる人尊敬される人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、若手と上手にコミュニケーションが取れ、静かに尊敬される話し方を解説しています。ここでは、職場以外での若手との正しいコミュニケーションの取り方について紹介します。これを実践すれば、趣味の場やSNSで若手と交流するのが怖くなくなり、ハラスメント・リスクを未然に回避して、世代を超えた良好な関係を築けるようになります。

文/五百田達成

×「何でも聞いてよ」とマウントをとる
〇「お互いにがんばろう」と励まし合う

「〇〇さんには顔が利くから、俺に言ってくれれば、すぐに話通せるけどね」
「うちの子ども、この春から〇〇高校に通うの。受験のことなら何でも聞いてよ」
「ロシア情勢ねー。まあ、俺は早い段階から、こうなるってわかってたよ」

若者と話すとき、自分の功績・手柄を偉そうに自慢したり、「何でも聞いてよ」とマウントをとったりする人がいます。ですが、これは不正解です。もちろん「そんなつもりは全然ない!」「むしろ親切で言ってるんだ」という場合も多いでしょう。「大きな顔をして自慢したい」「自分の立場・権力をアピールしたい」という人のほうが少ないかもしれません。ですが、ただでさえ「上」の立場の人から、さらにマウントをとられては、若者としてはぐうの音も出ません。「大したことない」と反論することもできませんし、「すごいですね」とおべっかを使い続けるのもストレスです。

年長者は、ちょっとしたことで「偉そうな人」「めんどくさい人」と思われ、妬みや誹謗の対象になりやすいのです。そういうリスクを抑えるためにも、自慢めいたことは口にしない、偉ぶらないにこしたことはありません。「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」とは、昔の人はうまいことを言ったものです。

「お互い」は便利ワード

若者と話すときには、功績を誇るのではなく、そこに至るまでの苦労話をするのが正解です。

「俺も相手の懐に入るの、苦手なんだけどさ」
「なんとか受かったけど、もうこりごり。子育て、お互いがんばろうね!」
「ロシア情勢、全然詳しくないから、わかりやすい本とかあったら教えてくれる?」

こうすることで「この人も大変なんだ」「悩みは一緒だ」と、同じ目線の親近感を持ってもらえます。これはなにも、卑屈になったり、バカを演じて自虐しろということではありません。下手に出すぎるのは、かえってイヤミになるでしょう。あくまで「私もあなたと同じ目線で取り組んでいる、悩んでいる、がんばっている」という「対等な同志」というスタンスを伝えられれば、それでOKです。そういう意味で「お互いがんばろう」「お互い大変だね」は使いやすい便利な言葉。たったひと言で、フェアでフラットでクリーンな印象を与えられます。

POINT:マウンティングせずに、「お互い」感を出す

×「あれある?」と常連ぶる
〇「また来ます」と再訪を約束する

「大将、いつもの出してくれる?」
「前に食べた裏メニューのあれ、あります?」
「あれ? テーブルの配置、変わった? え? 変わってない?」

長年通っている馴染みのお店に若者を連れて行ったとき、のっけから「いつものお願い」とか「あれあります?」などと言う人がいます。せっかくの馴染みのお店だし寛ぎたい。若者にもおいしいものを食べさせてあげたい。顔が利くこともアピールして見栄を張りたい。そうやってホーム感を演出するのもホストである年長者の役目……。ですが、それは不正解です。下手をすると「常連っぽく振る舞っている」「通ぶっている」と評価を下げてしまう可能性があります。また、あまりにホーム感を出すと、連れてこられたほうはアウェイに感じて萎縮してしまうというもの。

さらに、店員やスタッフに対して、本人としては気さくに、「ねえ、醤油がないよ」「生、3つ。大至急持ってきて」と乱暴に話すと、それはそのまま低評価に直結します。「普段どれだけ優しくても、本当はこういう人なんだ」と引いてしまうでしょう。繰り返しになりますが、そんなつもりはなくても、そういう目で見られる可能性があるのが年長者の宿命。若者を連れて行ったときには、いつも以上に謙虚に、マナーのいい客になるべき。リラックスしたいなら、別の機会に行けばいいのです。

ウザくない「常連アピール」のしかた

それでも、若者の前で、お店への愛情や親近感を示したいのであれば、会計が終わってからの去り際にするのがスマートな正解です。

「大将、ごちそうさま。来週もよろしくね」
「あのメニュー、おいしかったです。来月来るんですけど、そのときもありますかね?」
「新しいインテリア、いい感じですね。また来ます!」

それまでは普通のお客として飲食していたのに、帰るときになってちらりと常連感を出し、再訪を約束する。さりげないし、クールです。お店に迷惑もかかりません。そうすれば部下や後輩たちも「おお?」と驚いてくれるでしょう。お店側としても「〇〇さんには、いつもお世話になってて」と社交辞令も言いやすい。
「なんだか接待みたいで面倒くさいなあ」と思うかもしれませんが、相手を楽しませる、気をつかうという点ではまさに接待そのもの。なんならお店側に相談しておくなど、万全の準備をしてもいいぐらいです(笑)。

POINT:「裏メニュー」より、「また来ます」のほうがスマート

× 何でも親切にコメントする
〇 尋ねられていないことは答えない

「電源ボタン、チェックしました? たいてい、それで解決しますよ」
「すぐに警察に言ったほうがいいですよ。黙っていると他の人のためにもなりません」
「そこもまあまあだけど、〇〇とか■■とかもおいしいよ。超オススメ」

SNSの投稿に対して、自分の知っていることや思ったことを、アドバイスとしてコメントする人がいます。よかれと思って、相手のためを思って、真実・正義を信じて……。ですが、これは不正解です。もちろん、その投稿が「アドバイスお願いします」「どうしたらいいでしょう?」「どこかオススメありますか?」というものであれば、OK。OKどころか「ありがとうございます」「参考になりました」と、大歓迎されるでしょう。ですが、よく投稿を読むと、そうではないこともしばしばです。ただ書いただけ、ただ載せただけ、ただ報告しただけ。それなのに、実に多くの人がそれに対して「助言・アドバイス」をしたがるのは不思議な現象です。

相手としてみれば「そんなことはとっくに試した」「なんであなたに言われなくちゃいけないんだ」「尋ねてもないのにマウンティングしないで」と、気分を害することに(これをネットスラングでは「クソリプ」と言います。また、男性に多く見られるアドバイス癖のことを俗に「マンスプレイニング」と言います)。

「クソリプ」をする人のヤバい心理

SNSは相手の顔が見えないので、誤った距離感で言いたいことを言ってしまいがち。だから、上から目線でアドバイスする人が増えるのです。リアルだろうがSNSだろうが、相手が若者だろうが年長者だろうが、頼まれていないアドバイスはしないのが、人づきあいの正解です。仲のいい相手でない限り、「いいね!」ボタンを押すだけにする。リアクションをしたければ、
「突然の故障、困りますね」
「それは大変でしたね……」
「おいしそう!!」
と、共感のあいづちを打つのに止めましょう。

SNSは実際の人づきあいの縮図です。リアルの場でしてはいけないこと(暴言、マウンティング、ハラスメント、押しつけ、言いがかり)は、すべてしてはいけない。このことは毎朝SNSを開くたびに、自戒すべきです。

POINT:特にSNSではアドバイスをしない

*  *  *

話し方で老害になる人尊敬される人
著/五百田達成
ディスカヴァー・トゥエンティワン 1,760円

五百田達成(いおた・たつなり)
心理カウンセラー。米国CCE,Inc.認定GCDFキャリアカウンセラー。
東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て、五百田達成事務所を設立。個人カウンセリング、セミナー、講演、執筆など、多岐にわたって活躍中。専門分野は「コミュニケーション心理」「ことばと伝え方」「SNSと人づきあい」。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績に裏打ちされた、人間関係、コミュニケーションにまつわるアドバイスが好評。「あさイチ」(NHK)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「この差って何ですか?」(TBS)ほか、テレビ・雑誌などのメディア出演も多数。著書『察しない男 説明しない女』『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』『話し方で損する人 得する人』『超雑談力』『不機嫌な妻 無関心な夫』『部下 後輩 年下との話し方』(以上、ディスカヴァー)はシリーズ100万部を超えている。オンラインサロン「おとなの寺子屋~文章教室~」も好評。

 

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