昨今コンプライアンスが厳しくなり、後輩や部下に何を言っても「ハラスメント」になるのではないか……、自分の発言が老害として笑われているのではないか……、と不安に思う人も多いでしょう。

心理カウンセラーでもあり、「話し方のプロ」として、コミュニケーションについての著書は100万部超えという実績を持つ五百田達成さんの新刊『話し方で老害になる人尊敬される人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、若手と上手にコミュニケーションが取れ、静かに尊敬される話し方を解説しています。ここでは、職場での若手との正しいコミュニケーションの取り方について紹介します。これを実践すれば、職場の若手と話すのが怖くなくなり、ハラスメント・リスクを未然に回避して、お互いに仕事のしやすい良好な関係を築けるようになります。

文/五百田達成

×「今の若い子は」と世間ギャップを強調する
〇「あなたは」と個人に向き合う

「えー、今の若い子って、LINEとか使わないんだ!?」
「君たちの世代だと、こんな小説知らないか」
「24歳? 若いなあ。ウチの娘のほうが近いぐらいだよ」

若者と話していて、世代間ギャップに驚いたあまり「今の若い子って」「それぐらいの世代はさ」「息子と同じ」などと、世代でまとめて話してしまう人がいます。理解不能なものをなんとか既存の枠にはめたい、「若い人はそうなんだ」と決めつけてしまいたい、あるいは純粋に驚いただけ……。ですが、それは不正解です。そういった決めつけ・くくりは、目の前の相手の人格・個性をきちんと認めない失礼な行為。相手は「いや、人によりますけどね……」「うーん、他の人のことはわかりません……」というモヤモヤした気持ちに。また、そうやって反応すればするほど、世代間のズレ・ギャップ・溝を強調することにもなります。「私とは違う感覚の人です」「話が合いませんね」と、分断を深めても、何もいいことはありません。一緒に過ごす仲間に対して、物珍しい目を極力向けないようにすべき。海外旅行先で「へー、こっちの人は虫とか食べるんだ〜!」と無邪気に驚いていいのとはワケが違うのです。

これは、逆の立場で考えてみればわかります。
「確かに先輩たちの世代ってそうですよね」「それ母も同じこと言ってました」などと言われると、まるで話をさえぎられたような、それ以上何も言えないような、複雑な気持ちになりますよね。それと同じです。

「世代間ギャップ」を口にしない

若者と話していて感覚の違いを感じたときは、おおげさな「世代間ギャップ」にしないのが正解です。

「そっか、LINEとか使わないんだね。何を使ってるの?」
「この小説、おもしろいんだけどなあ。読んでほしいなあ」
「24歳ですか。お仕事は何をしてるんですか?」

内心はすごく驚いている気持ち、世代でくくって納得してしまいたい気持ちをぐっと抑え、極力、目の前の人とそのまま向き合い話を続ける。それは「若ぶっている」とか「かっこつけている」とかではなく、目の前の相手とスムーズに会話していくための、一種のマナー。これが若者との正しい話し方の基本です。

POINT:驚きはこらえて、会話を続ける

×「そうだっけ?」と、とぼける
〇「ごめん!」と素直に謝る

「これって、先週も教えましたよね」
「そうだっけ? おじさんだから覚えられなくてさ。いじめないでよ〜」
「ここの色、他と違ってますけど?」
「あ、だよね、だよね。でもさー、この指示わかりにくくない?(笑)」

若手からミスを指摘されたときに、「そうだっけ?」「あ、だよねー」と、とぼける人がいます。失敗して恥ずかしい、ショック。でもそれを表に出すのはもっと恥ずかしい。だからすっとぼけることで、「お茶目で憎めない人」「細かいことは気にしない大らかな人」と思われたい。だって、そのほうが相手としてもシリアスにならなくていいでしょ?……。ですが、それは不正解です。相手からすると、言いにくいことを指摘して、その挙句にヘラヘラされたら、それは当然頭にきます。よほどの愛されキャラでもない限り、「憎めない」とは思われないでしょう。「ミスを認めないダメな人」「成長のない人」というレッテルを貼られるのが関の山です。

逆の場合を考えてみてください。
何を言っても「そうでしたっけ?」ととぼけてきて、「ですよね、ですよね」とのらりくらりと話にならない若手。想像するだけで、「あー、もう、勝手にしろ!」とさじを投げたくなります。

「かわいいおじさん・おばさん」になる唯一の方法

若手の前で失敗したときは、言い訳したりとぼけたりしないで、まずは「ごめん!」と謝るのが正解です。

「あれ? これって、先週も教えましたよね」
「ごめん! うーん、なかなか覚えられないな……。もう一度だけ教えて!」
「ここの色、他と違ってますよね?」
「ほんとだ! ごめんなさい! 気づいてくれてありがとう!」

素直に謝る、感謝する、やる気を見せる。「オトナのかわいげ」というものは「舌をぺろっと出して開き直る」ではなく、「素直に謝る謙虚な姿勢」にこそ宿ります。「謝るのは沽券に関わる」「あっちの言い方もよくない」などというプライドを捨てて、ぺこりと頭を下げさえすれば、「器の大きい人」「偉ぶらない人」という評価につながる。そういう意味では年長者なんてラクなもの、ともいえます(笑)。

POINT:まずは謝る。とぼけない、言い訳しない

×「私たちの頃はさ〜」と内輪で盛り上がる
〇「昔話していい?」とエクスキューズする

「私たちの頃は、ほら、超氷河期だったから」
「そうそう。『100年に一度の大不況』とか言われて。マジかよーって」
「俺らが若い頃なんて、まだ今の管理システムになってなかったし」
「わー、懐かしい! 入力とか超めんどくさかったよね」

若者と話していて、「自分たちの頃と違うなあ」とショックを受けて、反射的に自分たちの世代で昔話に興じてしまう人がいます。懐かしいあの頃。楽しかった日々。苦い経験すら、今はいい思い出。ああ、自分たちはがんばった、よく生き抜いた……。そうやって互いの健闘をたたえ合い、信頼を確認し合う。悪いことではありません。職場・コミュニティに所属する醍醐味とも言えます。ですが、それを若者がいる場でやるのは、不正解です。

まず大前提として、内輪ウケはよくありません。若手としては、知らないことばかりだし、関心だってありません。「へー、そうなんですか?」「その頃のこと聞かせてください」と前のめりになってくれるわけがないのです(仮にそういう若手がいたとしても、レアケースと思っておいたほうがいいです)。さらに、そういう昔話が危険なのは「なんだかんだ言って、今の子たちは恵まれているよね」「そうそう。なんかエネルギーを感じない」など、若者世代への批判に発展しかねないところ。若手としては、昔話がつまらないことは百歩譲って我慢するとしても、いつ説教されるかわからないとなると、「早く終わってくれないかな」と祈るような気持ちに。

「昔話を始めます」と宣言

とはいえ、久しぶりに同期と話せて興奮することもあるでしょう。若者との世代間ギャップを共有したい気持ちもわかります。若者の前で昔話に興じる際の正解は「ちょっと昔話していい?」「同期トークしていい?」と、ひと言断ることです。私たちはこれからひとしきり、昔話をします。懐古してひたります。しばしの間、我慢してください。そうやってエクスキューズすれば、相手も心の準備ができます。「説教」に発展しないとわかっていれば、気もラクですし、その間、トイレに行ってもいいし、スマホをいじってもいい。若い世代同士で話し始めるのもいいでしょう。内輪ウケはなるべくしない。するときにはひと言断る。それが年長者の配慮というものです。

POINT:内輪ウケは極力しない。する場合には断る

*  *  *

話し方で老害になる人尊敬される人
著/五百田達成
ディスカヴァー・トゥエンティワン 1,760円

五百田達成(いおた・たつなり)
心理カウンセラー。米国CCE,Inc.認定GCDFキャリアカウンセラー。
東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て、五百田達成事務所を設立。個人カウンセリング、セミナー、講演、執筆など、多岐にわたって活躍中。専門分野は「コミュニケーション心理」「ことばと伝え方」「SNSと人づきあい」。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績に裏打ちされた、人間関係、コミュニケーションにまつわるアドバイスが好評。「あさイチ」(NHK)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「この差って何ですか?」(TBS)ほか、テレビ・雑誌などのメディア出演も多数。著書『察しない男 説明しない女』『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』『話し方で損する人 得する人』『超雑談力』『不機嫌な妻 無関心な夫』『部下 後輩 年下との話し方』(以上、ディスカヴァー)はシリーズ100万部を超えている。オンラインサロン「おとなの寺子屋~文章教室~」も好評。

 

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