昨今コンプライアンスが厳しくなり、後輩や部下に何を言っても「ハラスメント」になるのではないか……、自分の発言が老害として笑われているのではないか……、と不安に思う人も多いでしょう。
心理カウンセラーでもあり、「話し方のプロ」として、コミュニケーションについての著書は100万部超えという実績を持つ五百田達成さんの新刊『話し方で老害になる人尊敬される人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、若手と上手にコミュニケーションが取れ、静かに尊敬される話し方を解説しています。ここでは、若手との正しいコミュニケーションの取り方の心がまえについてご紹介します。これを実践すれば、公私問わず若手と話すのが怖くなくなり、ハラスメント・リスクを未然に回避して、お互い良好な関係を築けるようになれます。
文/五百田達成
若者とのトラブルを引き起こす「距離感のバグ」
今、職場の若手と話すのって、怖くないですか?
たとえば、仕事の指示をするとき
・言い方を間違えて、パワハラと思われたら終わり
・かといって遠慮してると、「もっと成長したかった」と辞められてしまう
・知らないうちに、ストレスを与えてないか不安……
たとえば、ちょっとした雑談をするとき
・何を言っても、セクハラになりそうで話せない
・Z世代と何を話せばいいかわからない
また、陰で「老害」と笑われてないか心配になっている人もいるでしょう。昨今コンプライアンスが厳しくなり、後輩・部下が相手だと、何を言っても「ハラスメント」になりかねない。そういったハラスメント・リスクについて悩む中堅社員は少なくありません。上司や先輩相手なら、かえって気楽です。最低限気をつかってきちんと敬語で話しておけば、まあ大丈夫。関係構築もできているので、大きなトラブルには発展しにくいはず。なのに、相手が若者となると、とたんにリスクが跳ね上がって、思いもかけない地雷を踏んでしまう可能性がある。ちょっとしたボタンのかけ違いでハラスメント・トラブルに発展した、なんていう話を聞くと、まったく他人事とは思えない。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう? これからずっと、いつ訴えられるか、ビクビクしながら話していくしかないのでしょうか? 安心してください! だいじょうぶです!! 本書はそういうお悩みを、全部まとめて、スパッと解決するために生まれました。本書にまとめた内容を企業の講演会でお話しすると、「若手とうまくコミュニケーションを取れるようになりました」「職場だけでなく、子どもとの会話にも役立ちました」という、うれしい感想をいただいています。
「老害」と「かくれ老害」は紙一重
ちなみに、昨今よく聞くようになったワード「老害」も、「距離感のバグ」が原因です。「老害」とは「年長者が、組織の中で若者の足を引っぱるような言動をする」ことを指します。一見、いかにも老人然としたおじいさんが「けしからん!」と文句を言っているイメージが湧きますが、それは違います。年齢や性別に関係なく、この世のすべてのオトナは「老害」になってしまう可能性を秘めている。いわば、「かくれ老害」なのです。
そもそも、「老害」と呼ばれる人たちの心理的特徴としては、
・自分が若い頃のことを、「昔はよかった」と懐かしむ気持ちがある
・年下の世代に対して、「何を考えてるかよくわからない」と違和感を覚える
・「今の若者は恵まれてる」と説教のひとつもしたくなる
などが挙げられます。
……どうでしょう。あなたの心の中にもこういう気持ち、ないでしょうか? 「まったくない!」と言い切れるオトナは、まずいないはずです(もちろん私の中にもあります)。みんな、心のどこかに「老害」的な感情を多少なりとも秘めている。ふだん表立っては言わないそういう感情を、つい我慢できずに周囲にまき散らしてしまう人が「老害」と呼ばれているだけのこと。「かくれ老害」と「老害」は紙一重なのです。
さて、「老害」のみなさんの、「自分は年長者なんだから、若者に対して言いたいことを言っていいし、若者はそれを聞くべきだ」という姿勢も、まさに「距離感のバグ」です。
その他、
・やっている年長者のほうに悪気はない(むしろよかれと思っている)
・けれど、若手は不快に感じ、ストレスになっている
・そこに一定の基準はなく、相手との関係性によってOKだったりNGだったりする
といった点も、「老害」と「ハラスメント」はよく似ています。
若者との話し方チェックリスト
あなたが年下とのコミュニケーションでやっているのはどちら? 選んだほうで、尊敬されているか、それとも老害として失笑されているかがわかります。
※Aの数を教えてください。
1.後輩をほめるときは
A:「〇〇さんって、優秀だよね」
B:「〇〇さんとは仕事がしやすいな」
2.部下に依頼するときは
A:「あなたの経験にもなるから」
B:「やってくれると助かる」
3.大変そうな部下に声をかけるときは
A:「何かあったら言ってね」
B:「〇〇しようか?」
4.部下の報告が遅れた
A:「聞いてないんだけど」
B:「今からできることある?」
5.後輩から仕事の悩み相談をされた
A:「仕事ってそういうものだよ。私もね……」
B:「どんな仕事がしたいの?」
6.取引先の担当者に聞くのは
A:「今、おいくつですか?」
B:「この部署、長いんですか?」
7.親しい後輩を紹介するときは
A:「かわいがってる」
B:「尊敬してる」
8.後輩たちのトレンドを聞いて
A:「若いなー。おじさん(おばさん)にはわからないよ」
B:「どういうところがおもしろいの?」
9.同じ趣味の若者に
A:「〇〇のことなら何でも聞いてよ」
B:「お互いがんばろうね」
10.後輩たちと同じテーブルになったときは
A: 空気を読んで話しかけない
B: 自分から積極的に話しかける
11.会計時に部下や後輩に言うのは
A:「適当に割っていいよ」
B:「こっちで割るから、伝票貸して」
12.過去の仕事を振り返って
A:「あの仕事は私がやった」
B:「あの仕事はみんなのおかげ」
超老害
☆Aが10~12の人
昔ながらの体育会系上司・先輩も、今では「超老害」扱い。本書のコツを実践すれば、トラブルを未然に避けつつ、部下や後輩との信頼関係を築くことができます。
かくれ老害
☆Aが6~9の人
気の合う部下や後輩とうまくやっているつもりでも、知らないところで「老害」と言われてる可能性が。ちょっとしたポイントに気をつければすぐに汚名返上できます。
ちょい尊敬
☆Aが2~5の人
部下や後輩から「話しやすい」「仕事がしやすい」と、静かな尊敬を集めているはず。本書のコツを実践して、それを確固たるものとしましょう。
超尊敬
☆Aが0~1の人
いつでも相手の気持ちに配慮して行動できる、コミュニケーションの達人。部下や後輩に限らず、常に周りに人が集まる「人望の塊」でもあります。
* * *
話し方で老害になる人尊敬される人
著/五百田達也
ディスカヴァー・トゥエンティワン 1,760円
五百田達成(いおた・たつなり)
心理カウンセラー。米国CCE,Inc.認定GCDFキャリアカウンセラー。
東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て、五百田達成事務所を設立。個人カウンセリング、セミナー、講演、執筆など、多岐にわたって活躍中。専門分野は「コミュニケーション心理」「ことばと伝え方」「SNSと人づきあい」。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績に裏打ちされた、人間関係、コミュニケーションにまつわるアドバイスが好評。「あさイチ」(NHK)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「この差って何ですか?」(TBS)ほか、テレビ・雑誌などのメディア出演も多数。著書『察しない男 説明しない女』『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』『話し方で損する人 得する人』『超雑談力』『不機嫌な妻 無関心な夫』『部下 後輩 年下との話し方』(以上、ディスカヴァー)はシリーズ100万部を超えている。オンラインサロン「おとなの寺子屋~文章教室~」も好評。