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戦争や災害、経済危機などが起きるたびに、金は“安全資産”として投資家から重宝されてきた。なぜ金は有事になると価格が上がる傾向があるのか。

過去50年の金価格の推移

金の価格が“急騰”している。金取引最大手の田中貴金属工業の国内店頭小売価格は、今年3月に初めて1gあたり1万2000円を超え、史上最高値を連日のように更新し続けた。「ここ数年の国内価格の上昇は、為替相場の円安の影響も大きい」と話すのは、田中貴金属工業貴金属リテール部長の加藤英一郎さんだ。

国内の金価格は、海外市場の「ドル建て」で表示される価格を円換算したもの。このため、円高時には安くなり、円安時は高くなる。現在のドル円相場は約30年ぶりの円安水準となっているため、国内価格が急上昇しているわけだ。

「ところが、海外のドル建て価格に目を向けても、10年ほど前から息の長い上昇が続いています。これは、金を取り巻く環境が過去と大きく変わったことを示しています」(加藤さん、以下同)

歴史が証明する「有事の金」

資産としての金の特徴を表す言葉に「有事の金」がある。戦争や大規模災害、世界的な経済危機といった有事が生じた際、投資家たちがこぞって金を買うため、金価格が上がるという意味合いだ。

有事になると、株式や債券といった金融商品は、発行体が破綻すると価値が大幅に減少する可能性がある。最悪の場合、“紙くず”になるリスクがあるのだ。

しかし、金は、それ自体に価値がある「実物資産」ゆえ、大きく価値が失われることはない。

過去50年の金価格の推移(上グラフ)をみると、「有事の金」たる所以が如実に示されている。

例えば、1970年代は’73 年、’79年と2度のオイルショックが起きた。いずれも、中東地域での戦争および内乱が契機となり、原油価格が暴騰。その結果、世界中で物価が継続的に上昇するインフレ(インフレーション)が起き、国際的な混乱が生じた。日本での騒動も記憶に新しい。

これを受け、金価格は国内外ともに2~3倍ほど急騰し、その後、ゆっくりと値を戻している。

また、2008年9月には、米国の世界的な金融機関であるリーマン・ブラザーズが経営破綻するという「リーマン・ショック」が発生。世界的な株価下落のきっかけとなり、世界同時不況をもたらした。金価格も一時下がったが、3か月程度で値を戻した。国内ではその後、2011年3月に東日本大震災が発生したこともあり、今に至る上昇基調が続いている。

その後、2020年3月の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大や、2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを受け、国内外とも、さらに上昇傾向を強めているという現状だ。

各国の中央銀行も買い増し

有事の際に金を買うのは投資家だけではない。他にも見逃せない要因があると加藤さんは指摘する。

「実は、2010年頃から各国の中央銀行が金を買い増しているのです。特に2022年は過去最大となり、2023年も2022年と同水準になりました。金の年間生産量のおよそ3分の1を各国の中央銀行が買っている計算です」

国の中央銀行、いわば国家が安全資産である金を買い増しているのだ。また、金の採掘コストが上昇していることも価格に影響している。現状、金の生産コストは1トロイオンス(ドル建ての基本単位、約31g)あたり約1350ドルと想定され、これが金価格の下値を支えている。採掘コストが増していけば、いずれ価格に転嫁される可能性は捨てきれない。

さらに、スマートフォンや電気自動車など、産業用途での金の需要も、今後増加することはあっても衰えることはないという。

「ウクライナ危機が長期化する中、中東地域では新たな紛争が勃発し、世界的な政情不安はいっそう高まっています。日本にとっては、東アジア情勢も憂慮されます。各国のインフレ傾向も収束の兆しはなく、懸念材料は重層化しています」

国内の金価格は20年前に比べて、5倍以上になった。この事実を、私たちはどう受け止めるべきか。

加藤英一郎さん。
1967年生まれ。田中貴金属工業貴金属リテール部長。金融市場やマクロ経済の動向を踏まえた、わかりやすい金相場の解説を様々なメディアで発信。

※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。

『サライ』2024年6月号大特集は「この国は『黄金』でできている」。

 

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