金を極限の薄さまで延ばす伝統の手法
金箔は日本の美術工芸を支えてきた代表的な素材のひとつ。腐食しにくく軟らかい金を極限まで薄く延ばすことで、加工しやすく、様々な用途に用いることができる。金箔の歴史は古く、日本では7世紀末から8世紀初期に造られたキトラ古墳(奈良県明日香村)の壁画に金箔が残っている。
日本の金箔は現在、ほぼ100%が石川県の金沢で生産されている。金沢での箔打ちの歴史は16世紀にさかのぼるとされるが、江戸時代になると幕府は江戸と京都のみで箔打ちを許可したため、加賀藩では箔の打ち直しなどを名目に秘かに製造を続けるしかなかったようだ。しかし幕末には製造権を勝ち取り、明治以降に大きく発展し、金沢を代表する産業となる。
「金沢で製箔業が盛んな理由は2点です。ひとつは静電気が起きにくい湿潤な気候と、金箔の製造に必須の紙づくりのための良質な水という風土。ふたつ目は地道な作業を粘り強く続ける職人の気質です」と話すのは『金箔屋さくだ』の代表、作田一則さん(70歳)。店の工房では、ユネスコ無形文化遺産に登録された伝統技法の縁付金箔製造の一端を見学できる。
紙づくりが箔の出来を左右
金箔の製造は大きく3つの工程に分けられる。澄屋(ずみや)と呼ばれる職人が担当する澄工程は、金箔の素となる純金とわずかな銀・銅を合わせた合金を、1000分の1mmの厚さまで延ばすこと。これを箔屋(はくや)という職人が1万分の1mmの金箔に仕上げる。さらに金箔製造に不可欠な紙を仕込む工程である。なかでも極薄の金箔の仕上がりを左右するのは、金箔を挟む箔打紙(はくうちがみ)。これは雁皮(がんぴ)と特殊な土を混入して漉いた和紙を稲藁の灰汁(あく)や柿渋、卵白を混ぜた液につけて乾燥し、機械で打って滑らかにする作業を繰り返して仕上げる。
「昔から“箔づくりは紙づくり”といわれるほど、箔打紙は大変重要です。今は箔打紙の代わりにカーボンを塗った量産型の工業紙を使って作る断切金箔が80%を占めますが、昔ながらの製法も守っています」(作田さん)
金箔は化粧品や食品にも広がり、暮らしを華やかに彩る
金箔は純金と銀・銅の配合率により色味の違う7種類ほどに分けられる。最も多く用いられる金箔4号色は、純金が94.438%。4号色は黄色味があり陽光のような明るく華やかな金色だ。4号色より純金の割合が高い1号色は京都の東・西本願寺や金閣寺などの建造物の修復に用いられるという。
金箔づくりの工程では、破れたり、型からはみ出た余分な箔が出る。これらは化粧品用などに利用され、役目を終えた箔打紙は、あぶらとり紙に生まれ変わる。
「銅を配合しない食用の金箔製作や、素材としての金箔だけでなく、他産地の銅器や鉄器などと協業した商品も開発しています」と話す作田さん。金箔貼り体験も行ない、その魅力を広めている。
縁付金箔の職人は高齢化が進み、現在20名ほどという。4年前のユネスコ文化遺産登録を機に、高級宝飾で知られるティファニー日本法人が、縁付金箔製造の職人育成プログラムを発足。世界中が注目する伝統技法を、次世代に引き継ぐ取り組みが進められている。
金箔屋さくだ
石川県金沢市東山1-3-27
電話:076・251・6777(9時~17時)
営業時間:9時~18時(季節により変動あり)
定休日:無休
交通:金沢駅から金沢周遊バス右回りで約10分、橋場町下車後徒歩約5分
※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。