源明子が抱いている子供は後の頼宗

I:久しぶりに源明子(演・瀧内公美)が登場しました。劇中では道長の父兼家のことを呪詛していましたが、今週はなんだかつきものがとれたのかのようにすっきりした感じがしませんでしたか?

A:それは源明子を演じている瀧内公美さんの熟練の技なのではないでしょうか。ほんのわずかな表情の陰影で、その時の気分を表現する。嫡妻ではないにせよ、権大納言として公卿に列している道長の妾としての矜持・威厳・自信が表現されていました。

I:ここで明子が抱いていたのは、明子腹の嫡男で後に頼宗になる男子ですかね。

A:道長の子を整理すると、この段階では、嫡妻源倫子(演・黒木華)が彰子(988年生まれ)、頼通(992年生まれ)がいて、妍子(994年生まれ)がこの年に誕生します。一方の源明子には、今週の劇中で登場した巌君(後の頼宗/993年生まれ)がいました。劇中では道長の渡りがなくて子をなすことができないようなことを言っていましたが、実際にはこの年に明子腹次男の顕信が誕生することになります。

I:倫子と明子はそれぞれ道長の子を6人生むことになるわけですが(計12人)、嫡妻と妾妻の格差が顕著になっていくのはまだまだこれからですね。

I:道長に意地悪な言い方をすると、まひろは道長への思いを一途に引きずっているにもかかわらず、道長はそれなりによろしくやっているなという印象も受けます。もちろんそれは現代的な感覚での感想になるのですが……。

道長との子を抱く明子(演・瀧内公美)。(C)NHK

道隆の懇請に対して一条天皇は?

I:道隆は、一条天皇(演・塩野瑛久)に「伊周を関白に」と懇請しますが、たとえ愛する中宮定子の父とはいえ、天皇が道隆の無茶な頼みを容れることはありませんでした。

A:前週、一条天皇は唐の『貞観政要』を読んでいることが描かれました。この書は為政者の心構え(帝王学)を説く書物。「為政者には徳が必要であること」「臣下の意見をしっかり聞くこと」などが書かれています。

I:いかに舅殿の懇請といえども、為政者として曲げられないことがあるということですね。それが『貞観政要』の賜物だとしたらすごいですよね。

A:その結果、道隆の病気の間のみ内覧を許可するということになりました。「病気の間」というのがポイントです。

I:結局、道隆が亡くなってしまいました。「病気の間は内覧を務めよ」というのはいったんチャラになります。

A:伊周と道長のバトルが始まるわけです。いったいどんな演出になるのでしょうか。

御簾をあげて「伊周を!」と迫ってくる道隆にぎょっとする一条天皇(演・塩野瑛久)。(C)NHK

※『小右記』は国際日本文化研究センター「摂関期古記録」より引用

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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