実にありがたいことに、人生をやり直せる時代になりました。人生百年時代となった今では、定年退職は第二の人生のスタートようにいわれています。そうはいっても「どこまでも続く人生」と思っていた、若き時とは違います。はっきりと意識しはじめるのは“人生の終焉”。躓いてしまえば、失う物も多いでしょう。
あふれる情報に惑わされず、巧妙で狡猾な罠を見破り、第二の人生を生きなければなりません。しかし、自分だけの知識や経験だけでは心許ないところもあります。ならば、賢者の知恵を頼みとするのも一つの方法ではないでしょうか?
そうした賢者が残した一つの言葉をご紹介します。第12回の座右の銘にしたい言葉は「不撓不屈(ふとうふくつ)」 です。
目次
「不撓不屈」の意味
「不撓不屈」の由来
「不撓不屈」を座右の銘としてスピーチするなら
まとめ
「不撓不屈」の意味
「不撓不屈」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「どんな困難にあっても決して心がくじけないこと」と説明されています。「撓」はくじけるで、「不撓」も「不屈」も、くじけないことを表します。人生は予期せぬ困難や挑戦がつきものですが、それにどう立ち向かうかが、私たちの日常をどのように形作るかに大きく影響します。「不撓不屈」という言葉には、逆境に立ち向かい、屈しない強い意志が込められています。
特にシニア世代の方々は、人生経験が豊富な分、多くの困難に直面してきたはずです。そんな時、「不撓不屈」の精神は、新たな挑戦にも積極的に取り組む勇気を与えてくれます。
1994年の九州場所後、横綱昇進を果たした貴乃花が「今後も不撓不屈の精神で、力士として不惜身命(ふしゃくしんみょう)を貫く所存でございます」と口上を述べたことでも知られているこの言葉。ここには「今後もくじけることなく、命を惜しまず相撲道に精進します」という強い意志が込められています。
さらに、この1年前、1993年初場所後、20歳5か月で史上最年少大関に昇進した際にも「不撓不屈の精神で相撲道に精進します」と述べており、貴乃花にとって「不撓不屈」という言葉には「怪我にも負けず、くじけない心で相撲道に取り組む」という大きな意味があったことがうかがいしれます。
「不撓不屈」の由来
「不撓不屈」という言葉は、もともと中国の古典『漢書』に由来します。「叙伝第七十下」には、以下のような記述があります。
樂昌篤實、不橈不詘、
【書き下し文】
樂昌(がくしょう)は篤實(とくじつ)、橈(たゆ)まず詘(くっ)せず、
【現代語訳】
楽昌侯は情があつく誠実で、くじけず困難に負けない人だった、
楽昌侯という王商はまじめで、くじけることはなかったという人物評に由来する言葉です。これは、どんなに困難や苦境に立たされても、精神を曲げず、意志を貫くという強い決意を示します。日本においても、多くの文学作品や歴史的エピソードで引用され、人々の心を奮い立たせる言葉として受け継がれてきました。
「不撓不屈」を座右の銘としてスピーチするなら
「不撓不屈」という座右の銘は、逆境を乗り越えたいと願う多くの人々に響くメッセージです。昔から現代に至るまで、多様な事例を通じてこのメッセージを伝えることで、聴衆に深い印象を残すことができるでしょう。以下に「不撓不屈」を取り入れたスピーチの例を三つあげます。
1:坂本龍馬の決断力についてのスピーチ例
坂本龍馬は、幕末の激動の時代を生きた日本の志士で、彼の「不撓不屈」の精神は数々の困難を乗り越えたことに現れています。特に、外国の圧力と内乱に翻弄される国を見て、彼は日本の将来を左右する大政奉還の着想に至りました。彼の果敢な行動は、どんなに厳しい状況でも自分の信念を曲げず、新しい解決策を求める姿勢の見本です。
2:日常生活で活かすスピーチ例
私の、75歳の友人は、趣味の写真撮影で歩いて全国を旅しています。高齢になってから始めた新しい挑戦ですが、彼は「不撓不屈」の精神を胸に、困難な道のりも楽しんでいます。彼の話によると、「挑戦はいつだって難しい。だけど、諦めなければ必ず何かが変わり、新しいことが見えてくる」とのこと。このように、座右の銘を日常に活かすことで、生活に新たな色と意味を与えることができます。
3:オリンピックアスリートの逆転勝利についてのスピーチ例
オリンピックの競泳選手であった彼は、重大な肩の怪我を負い、競技を続けることが不可能と言われました。しかし、彼は「不撓不屈」の精神で、決して諦めず、長いリハビリとトレーニングを経て競技に復帰。次のオリンピックで金メダルを獲得しました。彼のストーリーは、逆境に立ち向かい、自己の限界を超える力がいかに大きな成果を生むかを示しています。
まとめ
不撓不屈を座右の銘にすることは、ただ困難に耐えるだけでなく、その困難を乗り越えることで得られる充実感や達成感を日常にもたらします。この言葉を心に留めることで、私たちはどんな時も前向きに、そして果敢に日々を送ることができるようになるでしょう。不撓不屈の精神を持って、今日も一歩を踏み出してみませんか?
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com