父の喪にも服さぬ道兼
I:ところで、前回、父兼家(演・段田安則)に対して「とっとと死ね!」と啖呵を切った道兼(演・玉置玲央)ですが、兼家の死後は喪にも服さずに、自堕落な暮らしを送っていたことが描かれました。劇中で「汚れ仕事をやれ」といわれてショックを受けたのでしょう。
A:兼家の喪に服さずに自堕落な生活を送っていたのは、『大鏡』にも描かれているエピソード。当時から有名だったのでしょう。「遊びて、つゆ嘆かせたまはざりけり(遊び戯れたりしてちっともお嘆きになりませんでした)」とあり、その理由が「花山院をばわれこそすかしおろしたてまつりたれ。されば関白をも譲らせたまふべきなり(花山院は私がだまして御退位させたてまつったのだから、関白は私に譲ってくださるべきだ)」というのです。
I:そういうことを考えると、道兼がまひろの母を刺殺するという設定もまったく荒唐無稽ではなく、ぎりぎりのところを狙った感じがしてきますね。
A:ともあれ、自堕落になっていた道兼を、弟の道長が諭して復活させたのが印象的でしたね。今後、父の呪縛が解けた道兼がどうなっていくのかも気になるところです。
伊周と道長の弓競べ
I:さて、飛ぶ鳥を落とす勢いの藤原道隆一家。嫡男の伊周(演・三浦翔平)は10代にして叔父道長の官位を抜いている段階です。
A:一条天皇と仲睦まじい関係を築いた定子、そして容姿も端麗で学問にも秀でていたと伝わる伊周。中関白家は盤石の様子なのですが、わずかに歯車がかみ合わなくなっただけで、転落していくという「歴史的な転落劇」がどう描かれるのか注目です。
I:「中関白家の没落」がドラマで描かれるのは初めてのことだと思います。ちょっと今からドギマギしてしまいますよね。
A:そういう状況の中で、弓競べが行なわれました。原典は『大鏡』かと思われますが、けっこうアレンジされていますので、興味のある方は『大鏡』をあたってみると面白いかと思います。
I:「〇〇の家より帝・后立ちたまふべきものならば、この矢あたれ」という展開は『大鏡』の実況を見ているようです。古典を照会するのも楽しいですよね。そして、毎度のことですが、『源氏物語』「若菜下」帖でも六条院の競射が描かれているよなあって、感慨深い思いにも駆られます。『源氏物語』ってまひろが見聞してきたことが随所に入れられているんだろうなって、本当にうれしくなります。
A:『光る君へ』劇中では、まひろがけっこう頻繫に市中に外出しています。中級とはいえ貴族の子女としては多すぎないかとも思いますが、序盤では、和歌を代作する場面などもありました。『源氏物語』には795首もの和歌が挿入されています。まひろが今後、物語を執筆するようになった際にモチーフとなる出来事や、歌のヒントがドラマの中でもあちこち隠されているようで、『源氏物語』を改めて読み返してみたくなりますね。
【『蜻蛉日記』作者が語った「妾の痛み」。次ページに続きます】