庚申待の夜、道長とまひろの恋の行方
I:物語は、庚申待の夜の様子が描かれました。ナレーションでも説明されましたが、寝ないで夜を明かす日です。庚申の日の夜、寝ると、人間の体(頭、腹、足)にいて日頃、人間の悪行を監視している三尸の虫がはい出てきて、天帝にその人の悪事を報告してしまうため、三尸の虫が出てこないようみんなで集まって娯楽をしたりして徹夜するという習わしです。中国から伝わった伝統ですが、『枕草子』にも描かれていて、この時代には貴族を中心に盛んに行なわれていたようです。十干十二支の見合わせのひとつである庚申の日は60日に一度巡ってくるので、1年に6回くらい行なわれるんですよね。私の実家地方でもやっていました。
A:天帝は帝釈天のことでもあるので、例えば寅さんで有名な柴又帝釈天題経寺でも庚申の日は縁日ということになっています。今年の残りの庚申の縁日は4月26日、6月25日、8月24日、10月23日、12月22日です。
I:赤い身代わり申の魔除けで有名な奈良の奈良町の庚申堂では青面金剛が御本尊ですから、地域によりバリエーションがあるのかもしれませんね。なんだか、庚申待、親しい仲間で徹夜でやってみたいですね。ところで、その庚申待の日に道長従者の百舌彦(演・本多力)が道長の文を持ってまひろの家にやってきます。対応したのがまひろの弟藤原惟規(演・高杉真宙)。百舌彦から手紙を奪ってしまいます(笑)。
A:『源氏物語』の匂宮による手紙の強奪場面に似ていると思いませんか? こういう何気ない日常の場面が丹念に拾われていって『源氏物語』に反映されると思うと感慨深いです。
どうする道長とまひろの恋路
I:さて、前週に「妾は耐えられない」としていたまひろですが、「妾でもいいから道長と一緒になりたい」と考えを改めました。その思いを告げるため、走っていつもの廃邸に向かいます。はやる気持ちを抑えられない。早くこの思いを伝えたい。走り方やその表情から、抑えきれないまひろの強い思いが伝わってきて、なんだか涙が出てきそうな場面になりました。
A:なるほど。
I:ところが廃邸に着くと、いつもと様子が違うことを悟ります。いつもはすぐさま抱擁してくる道長の様子がおかしい……。案の定、左大臣家の倫子との縁談が進んでいることを告白します。こんなすれ違いを経験したことがある人は、血の気がさっと引いていく瞬間の地獄のような思いを思い出したかもしれません。
A:まるで往年の「月9」のような感想ですね(笑)。
I:笑い事ではありません。私はまひろの心中を思って切ない思いに駆られました。ちょっとしたすれ違いから発した「ねじれた恋」。この恋、長いこと引きずるとみました。
【藤原実資の後添えは花山天皇の女御。次ページに続きます】