映画『ゴッドファーザー』より『大鏡』の方が元祖
A:もうひとつ重要なことがあります。『光る君へ』第1回で藤原道兼(演・玉置玲央)がまひろの母ちやは(演・国仲涼子)を刺殺するという場面が描かれました。一部では、死穢の概念が強い貴族がそのようなことをするはずがないという議論がありました。しかし、『大鏡』に描かれているようなことが実際にあったとすれば、穢れもご都合主義的に利用された側面もあったのではなかろうかと思ったりしちゃいますね。
I:私はこの場面を見てしみじみ考えました。よく『光る君へ』は映画『ゴッドファーザー』のような権力闘争であるということがいわれます。映画ではゴッドファーザーの頼みを無碍にした映画プロデューサーの愛馬の首を切り、ベッドの中に入れ込むという衝撃的な場面がありますが、元祖は「日本の平安中期だ!」っていうことですよね。
A:そう。『大鏡』の方が元祖なんですよね(笑)。高御座のような神聖な場でそんなことがあるだろうかと思う方もいるかもしれませんが、昨年、現代日本の首相公邸で起こったことを思い出してください。公邸の公のスペースで時の首相ファミリーが私的宴会で羽目を外して写真撮影を行なっていたことが報じられました。厳粛な場所を穢す行為が行なわれるというのは1000年経っても変わらないんだなと思いました。
I:いや、高御座と首相公邸じゃレベルが違いますが、言いたいことはわかります。時空を超えて「穢れ」が発生するわけですね。それにしても神聖なはずの高御座なのに、花山天皇が女官を引き入れていかがわしいことをしただとか、けっこういろいろあるんですね。ところで、この高御座の場面に被せる形で、退位した花山院(演・本郷奏多)が「オンシュチリキャラ ロハウンケンソワカ」と真言を唱えていました。一見、花山院が呪詛をしているように見えますが、この真言は本来、呪詛ではないのですよね。
A:はい。花山院が唱えていたのは呪詛を避ける呪法だと思われますので言及しておきます。ここで、花山院が播磨の国の書写山圓教寺に去って行ったと説明されました。圓教寺は姫路市にある古刹で、紅葉の美しさでも知られています。紅葉の時期にはお参りしたことがありませんので、今年は花山院を偲んでお参りしたいと思いました。姫路城も久しぶりですし……。
I:ところで、兼家は高御座事件の黒幕が誰だかわかっているようなことを言っていましたが、いったい誰なのでしょう。
A:今後、その謎が明かされるのでしょうか。なんだか楽しみですね。
I:そして、花山院は今後も出てくると思われるので、再会が楽しみですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり