
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第13回では、蔦重(演・横浜流星)がまた新たな本を作りました。
編集者A(以下A):蔦重が刊行した吉原本といえば、女郎を花に例えた『一目千本』、小ぶりで袂に入れて持ち運びやすい『籬(まがき)の花』や瀬川(演・小芝風花)を始めとする女郎の日常の暮らしぶりを描いた『青楼美人合姿鏡』などがあります。今回登場した女郎を名所に見立てたりする『娼妃地理記(しょうひちりき)』だけは、その面白さがピンとこないんですよね。
I:江戸時代の感覚ですからね。全部が全部理解できなくてもいいんじゃないですか? ただ、当時は、現代ほど簡単に名所に出かけられない時代ですからね。吉原の女郎をいろいろな名所に見立てるというのは意外に面白かったのかもしれませんよ。そんなことをいったら、後半に登場した黄表紙『辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)』なんかめちゃくちゃじゃないですか(笑)。
A:主に鱗形屋から刊行された作品に散りばめられた「地口」など、かつての「流行語」を擬人化した作品ですね。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸(みそず)」などの「キャラクター」に思わず吹き出してしまう作品ですね。『金々先生栄花夢』で一世を風靡した恋川春町(演・岡山天音)の作品になります。
I:私は、画工を襲う「大木の切り口太いの根」がまるで妖怪のような登場のしかたをしていたり、流行遅れになった「とんだ茶釜」の苦悩など面白いと思いました。現代でも名刀を擬人化した『刀剣乱舞』や戦艦などを擬人化したゲーム『艦隊これくしょん』などが人気を集めるのですから、その「源流」としてながめたら感慨深いですよね。
A:確かに、それぞれのキャラクターには味があって、後の「漫画」にも通じるものが感じ取れます。私が好きなキャラクターは、降参したか、って意味のある「天井見たか」です(笑)。

爪を噛む家基
I:さて、今週は田沼意次(演・渡辺謙)の「江戸城パート」にも動きがありました。意次の甥で、当時は将軍世子の居宅である江戸城西の丸に詰めていた田沼意致(演・宮尾俊太郎)の登場です。
A:権勢を誇っているかのように思われている田沼意次ですが、その内情は将軍家治だけが頼りという「薄氷の上」という感じです。どうも将軍世子の家基(演・奥智哉)からは疎んじられているというのは共通認識だったようですね。
I:その家基が、爪をかむ仕草をしているのが印象的でした。これは、初代将軍家康が爪を噛む癖があったことで、その癖が家基に「遺伝」しているということを描いているのですね。
A:大河ドラマでも「家康の爪噛み」シーンはあったりなかったり。爪を噛むという行為があまりお行儀がよくないということなのでしょうが、意図的に「家康の爪噛み」を印象的に描いたのが2000年の『葵 徳川三代』でした。
I:津川雅彦さんが家康を演じた作品ですね! 懐かしいです。
A:将軍継嗣の家基が大河ドラマに登場するのは初めてだと思われますが、その家基に初代将軍家康の「癖」をあえて継承させるのは、なにやら意味があるような気もしています。
I:いったい何が起きるというのでしょうか。
【エレキテルと平賀源内。次ページに続きます】
