文/鈴木拓也

写真はイメージです。

定年前後になると旅情に駆られるのは、なぜだろうか?

旅といっても飛行機や船でなく、鉄道の旅(鉄旅)が一番しっくりくる。

定年を迎えた筆者の先輩格の人たちも、もっぱら鉄旅派。この世代の人たちの心を引き込む何かが、鉄道にはあるのだろう。

鉄道ジャーナリストの松本典久さんも、シニアに差しかかった人々を鉄旅にいざなう1人だ。先般、書名もずばり『60歳からの鉄道ひとり旅』(イカロス出版 https://books.ikaros.jp/book/b10095164.html)という書籍を上梓している。

本書は、シニア世代に向けた鉄旅のアドバイスをまとめた1冊。現役時代は、ほとんど通勤手段としてしか鉄道を使っていなかった方にも、わかりやすい内容に仕上がっている。一読すれば、鉄旅に出たくなること請け合いだ。

今回は、その一部を紹介しよう。

気ままな鉄旅をしてみよう

松本さんが、この世代にすすめる鉄旅は、「行き先はお気に召すまま」なスタイル。

あまり事前情報も仕入れず、スケジュールもガチガチに決めないのが、かえって面白いという。最終的な到着駅は決めておくものの、散策に良さそうな景色が見えると、次の駅で途中下車。もしかすると、そこで予期せぬ発見や出会いがあるかもしれない。豊かな思い出となり、心に刻まれることもあるだろう。

また、乗車中は車窓が楽しめるのが条件だとも。ベストのポジションは、もちろんクロスシートの窓側席。「ロングシートに座るぐらいならドアわきに立つ方を選ぶ」そうだ。

そんな松本さんにとって、特に想いの深い路線の1つが釧路本線。1両編成の車両が釧路湿原を縫うように進み、灌木や釧路川がアクセントとなって、「自然の妙に圧倒される」気持ちになる。ときには、タンチョウやエゾシカとの貴重な出合いを果たすこともある。やがて景色は丘陵地帯、そして原生林へと変わり、オホーツク海沿いへと至る。2~3月だと、流氷の情景を楽しめる。

他方、大自然に抱かれた僻遠の地でなくても、鉄旅は楽しめるという。松本さんは、首都圏の地元を走る八高線を例に挙げる。

高麗川駅からエンジン音をBGMに加え、気動車の旅が始まる。沿線はこのあたりからのんびりとした里山の情景が続くようになり、途中下車したい衝動に駆られる。結局、駅舎の面白さにひかれて明覚駅で下車。民営化直後、火災で駅舎を焼失。地元の木材を使って再建した駅舎で、丸太小屋風のデザインはグッドデザイン賞も受賞しているそうだ。駅舎を見学後、周辺も散策。駅そばを流れる都幾川の美しさにも魅了された。(本書030~031pより)

このとき松下さんは、首都圏のJR線が土曜日やゴールデンウイークなどに乗り放題となる「休日おでかけパス」を利用している。リーズナブルな日帰りの鉄旅も、またいいものだ。

知るとお得な「きっぷ」の仕組み

本格的な鉄旅をするなら、「きっぷ」の知識は欠かせない。本書では、まる1章割いて「きっぷ」の基本と賢い活用法が書かれている。

なかには、大都市近郊区間で途中下車するという裏技的なテクニックも。

大都市近郊区間とは、JRが設定した鉄道エリアのことで、東京、大阪、仙台、新潟、福岡の中心街を含んでいる。こうしたエリアは様々な路線が入り組んでいて、ある駅に行くルートが複数考えられる場合、その運賃は、「実際に乗車する経路にかかわらず、最も安くなる経路で計算」される。ただし、きっぷの有効期間は1日限りで途中下車も不可。同じ駅を2回通過することもできないといった縛りもある。

そこを適法に途中下車できる方法を、松本さんは教えてくれる。

例えば新宿駅から松本駅まで行く場合、東京近郊区間に含まれない北松本駅(大糸線)まで飛び出して購入するのだ。乗車券は「東京都区内から北松本ゆき」となり、発売される営業キロは236.1キロ、4070円となる。有効期間は3日間、吉祥寺~松本間では自由に途中下車できる。ちなみに新宿~松本間は225.1キロで4070円。このケースでは運賃の差額もない。(本書071pより)

もう1つのテクニックとして、新幹線経由の乗車券とする方法も記されており、このほか損をしないきっぷの変更や払い戻しなど、知っトク情報が網羅されている。もちろん、2024年末から新ルールが適用された「青春18きっぷ」の活用法も見逃せない。

スマホは鉄旅の必須アイテム

松本さんは、現代の鉄旅の必携品はスマホであると力説する。

その理由の1つとして、充実したアプリを挙げる。例えば乗換案内だと、代表的なのが「駅すぱあと」「Yahoo!乗換案内」「Googleマップ乗換案内」「JR東日本アプリ」の4つ。それぞれに特徴があるが、「シニア世代にうれしい」とするのは、シンプルな作りで文字も大きく表示される「JR東日本アプリ」。鉄旅初心者も、このアプリから始めるとよさそうだ。

JR東日本以外の各鉄道会社も、無料の公式アプリを設けている。アプリにもよるが、現在の列車走行位置や各駅の情報もあれば、施設の入場券が購入できるものもある。機能が盛り沢山すぎて、最初は圧倒されるかもしれないが、好みの鉄道からチェックしてみることがすすめられている。

かつては、A4版の『道路マップ』を使っていた松本さんだが、今は「Googleマップ」を愛用。自分が今いる位置や向きがわかるだけでなく、「タイムライン」機能で、これまで移動した旅程がビジュアルで確認できるのも推しポイントだそう。

そして、忘れてはならないのがスマホ内蔵のカメラ。一眼レフカメラを使っている人だと鼻白むかもしれないが、ここ最近のスマホカメラの「進化は恐るべし」と讃嘆する。広角で接写能力が高く、レンズは小さいので、駅弁を接写したり、金網越しに列車を撮影する際には力を発揮。機種によっては、高速連写、先読み撮影、タイムシフト連写といった機能もある。まさに、今は「カメラいらずの時代」。カメラバッグを持たず、より軽装の鉄旅が可能になったわけだ。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『60歳からの鉄道ひとり旅』

松本典久著
定価1650円
イカロス出版

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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