この時代の武士はまだまだ摂関家の使い走りだった
A:さて、『光る君へ』よりも古い時代を描いた『風と雲と虹と』ではすでに武士が登場しているわけですから、当然『光る君へ』の時代にも武士は存在します。平将門について触れましたので、平氏の方から言及すると、『光る君へ』の時代には、平将門を討った平貞盛の子どもたちの時代になります。後に平氏政権を樹立する清盛の先祖が維衡ですね。紫式部関連でいうと、維衡と兄弟にあたる維将の娘が紫式部と親しかったという説もあります。
I:伝えられている系譜上では維将の子孫に『鎌倉殿の13人』でおなじみの北条氏がいるということですね。
A:一方、後に源頼朝などを輩出する源氏では、源頼光、源頼信の兄弟が、藤原道兼・道長に仕えます。頼朝の6~7代ほど前の武士で、頼光の流れが源頼政、頼信の流れが頼朝ということになります。
I:ざっくりいうと、平清盛が初めて武士として政権というか実権を握る200年ほど前の時代が描かれるのが、『光る君へ』。しかし、歴史ってつながりますね。
1000年の時を経ても変わらない人間の性
A:『光る君へ』の時代を調べると、1000年経っても人間って変わらないんだなと思うことがあります。人より出世をしたいという思い、他人に嫉妬する心、そして人を恋する心。心を寄せる殿方が久しくわたって来ない時に寂しく思う心など、生活様式はまったく異なりますが、そうした人間の感情は、1000年前も現代もそれほど変わらないことに驚かされますね。
I:恋を実らせるにはどうするか。和歌を送って思いを伝えて返歌を待つ。そうしたやり取りを幾度か重ねて恋の花を咲かせる。切ない思い、待つ身の辛さ……。数々のラブストーリーを手掛けてきた大石静さんが1000年前の人情の機微をどう描いてくれるのか。
A:字が美しく、品性、知性のある歌が書けなければ恋は実らないという時代でした。そして、権力を手中にするために手段を選ばずに政敵を追い落とすということも頻繁に行なわれました。
I:ドロドロした権力抗争がどう描かれるのでしょう。宮廷内の美しく煌びやかな装束や調度、さらには舞や打毬といった当時の文化が随所に出てきて、うっとりします。それを取りまとめる美術スタッフの「お仕事」にも注目していきたいと思います。なんだか注目ポイントはたくさんありますね。
光源氏は登場しないが『源氏物語』の世界観が随所に
I:『光る君へ』で誤解されることが多いのが、劇中に『源氏物語』の主人公光源氏が登場するのではないか、劇中劇が描かれるのではないかというふうに思っている人が意外に多いことです。制作陣が幾度もそうした予定はないと言っています。
A:私の印象では、随所に『源氏物語』の世界観に触れることのできるストーリーになっていると思います。この時代で権勢を得るには、天皇に娘を入内させ、その娘が皇子を生む。そしてその皇子が皇太子になり、やがて帝になった際に外戚となるという、今日では考えられない建付けになっていました。娘が入内しても皇子を生むことができなければ、瞬く間に権勢の地位から陥落する。わかりやすいといえばわかりやすいのですが。
I:なんだかとりとめのない話になってしまいましたが、『光る君へ』に1年間伴走していきたいと思います。
A:わくわくしますね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり