ライターI(以下I):大坂城が紅蓮の炎に包まれて落城しました。大坂冬の陣後の和議によって大坂城の堀が埋められ、本丸は裸同然。大坂方は「遠からず家康の寿命は尽きる」と高をくくっていたかもしれませんが、家康(演・松本潤)の生命力が勝りました。
編集者A(以下A):太閤秀吉(演・ムロツヨシ)が築き上げた名城が燃える様を目の当たりにした人々に、どんな思いが去来したのでしょう(5秒沈黙)。どの作品でもそうなのですが、大坂落城の場面ってやっぱり万感の思いに駆られますね。家康とて勝利を手にしたという高揚感はなかったのだと思います。
I:確かに大坂城落城、豊臣家滅亡の場面は、いつ見てもせつないですね。夏の陣では家康が真田勢などに押し込まれて討ち死にを覚悟する局面もあったといわれますが、本作では、真田信繁(演・日向亘)が家康の陣中に攻め込んで、家康に斬りつけようとする場面が描かれました。
A:家康の危機を最大限可視化したのでしょう。ドキドキしながら見た子供たちも多かったのではないでしょうか。「こんな場面あるわけない」という意見もあるかと思いますが、『甲陽軍鑑』にも記録されている川中島合戦の武田信玄と上杉謙信の一騎打ちも、今ではフィクションとする説が優勢ですからね。
I:川中島古戦場にある八幡原史跡公園には昭和44年(1969)の大河ドラマ『天と地と』の放送を期に制作された「一騎打ちの像」があります。この像もすでに50年以上経っているわけですから「フィクションもやがては真になる」の典型例です。水戸黄門の印籠のように、もはや川中島を描いて一騎打ちがなければ物足りないという域にまで達しているのではないでしょうか。
A:蛇足ですが、真田信繁が家康に突撃するシーンを見て、「これは真田幸村だ!」と思いました。もともと「幸村」という諱は軍記物の記述に由来しています。司馬遼太郎さんが『竜馬がゆく』で描いたのはあくまで「竜馬」であって「龍馬」ではない、というのと同じようにああいうシーンを設定するのであれば「信繁」ではなく「幸村」がいいのでは? と思ったりしました。
I:なるほど。
A:さて、豊臣家が滅亡した大坂の陣ですが、徳川方として伊達政宗、上杉景勝らの大名も参陣していたのですが、主に戦功を挙げたのは井伊直孝、松平忠直(家康次男秀康の息子)らです。つまり主力は「徳川」でした。そして激闘の中で、徳川からは小笠原秀政とその嫡男忠脩(ただなが)、本多忠勝(演・山田裕貴)次男の忠朝、榊原康政(演・杉野遥亮)三男の康勝らが戦場で討ち死に、あるいは戦傷がもとで亡くなっています。小笠原秀政の正室登久姫は松平信康(演・細田佳央太)と五徳(演・久保史緒里)との間に生まれた女子。忠脩は、家康と信長共通のひ孫になります。
I:そういう背景を思うと、家康は「徳川」で豊臣家の戦いの落とし前をつけようと考えていて、「徳川」からもそれなりの犠牲が出るのもやむなしと思っていたように感じます。
A:そうなのかもしれません。当欄では再三触れてきましたが、当初家康は豊臣家と共存していく路線を想定していたと思います。それが実現できなかったことを泉下の秀吉にどう報告しようかと考えたのではないでしょうか。「徳川もかなり犠牲を出しました」と。
I:大坂落城を見る家康の背景には、様々な重い重い思いがあったんですね。
A:なんだか涙なしでは見られない場面になりましたね。その場面をさらに重厚なものにしたのは秀頼役の作間龍斗さんと茶々役の北川景子さん。ふたりの熱演がしびれましたね。北川さんは「役作りに小川眞由美さんを参考にした」旨、コメントを寄せてくれましたが(https://serai.jp/hobby/1165589)、大坂落城の場面に感動を与えてくれました。
I:千姫役の原菜乃華さんともどもまた大河に登場してほしいですね。
【ネットを盛り上げた天海僧正のキャスティング。次ページに続きます】