テレビドラマや映画などで長年活躍し続けている俳優の役所広司さん。先日フランスで開催された第76回カンヌ国際映画祭では、ヴィム・ヴェンダース監督の作品『PERFECT DAYS』の演技で最優秀男優賞を受賞しました。世界からますます熱い視線を注がれる中、役所さんは6月にNetflixで世界独占配信される『THE DAYS』では主演を務め、さらにキャリアの幅を広げています。そんな役所さんに、インタビュー後編では仕事のやり甲斐やこれからのキャリアについて話を伺いました。
限られた時間の中で、やり甲斐を感じられるいい作品と出会いたい
――「THE DAYS」はNetflixでシリーズ全8回だからこそ映像化できたことがたくさん、あると思います。役所さんはこれが初めてのNetflixシリーズ出演だそうですが、常にチャレンジし続けられている印象です。毎回、代表作を更新しているような印象を受けます。
この年齢になってくると、芯からお客さん、視聴者の人に伝えられるものを選んでいきたいなと思うんです。もう、そんなにたくさんの仕事はできないから、一つ一つにしっかり力を注ぎたい。楽しくて元気が出る作品もあっていいと思いますが、それだけではなく、「これを忘れちゃいけない」というもの。そういう仕事が来たら、できるだけ積極的に参加していきたい。そういう年齢に達したんですかね。
――作品選びも以前とは変わってきましたか。
そうですね。長年、仕事をしているとその都度、やり甲斐が変わってきているように思うんです。作品に参加するってことはその間、他の作品はできないってことですから。残された時間がだんだん短くなってきているので、できれば慎重に作品を選ばなければなりません。自分が思ういい作品と出会いたいという気持ちがあります。限られた時間の中でどれだけ自分がやり甲斐を感じられるものに出会えるのか。そのために体を空けておかなければならない時もあります。時間を作るというのはこの職業においては失業している状態でもあるんですけど、やり甲斐のある仕事のためにはそういう状態も進んで作らなければなりません。
この年齢で出演できる仕事はそうはない。同じ年代の登場人物を描いてくれる作品との出会いは逃したくない
――他の方が出ている映画を見て、「自分が演じたかったな」と思うようなことはないですか。
昔はそうでしたね。若い時は何も考えないで、何事も経験だと思って、がむしゃらにやっていました。今はいい作品を見ると、「ああ、俺も一応、同じ職業なんだ、頑張ろう」と思うようになりました。観客を映画館から送り出す時にこんな気持ちにさせてくれるんだという思いを経験すると、「俺も同業者だ。こういう事が出来る可能性があるんだ」って仕事をする勇気が出るんです。
この年齢で出演できる仕事はそうはありません。『銀河鉄道の父』では20代から70代までやりましたけど(笑)。やっぱり、映画の主人公は僕の年齢の役は少ないんです。それなら、せっかく今、この年齢までまだやっているのなら、同じ年代の登場人物を描いてくれる作品に出会う機会は逃したくないと思います。年寄りの出番は少ないから、うまくスケジュールをコントロールしていかないと逃してしまうのではないかと思います。
食べたい時に食べたいものを食べ、寝たい時に寝て、元気でいられるのが理想
――役所さんは年齢を感じさせませんが、自分の年齢を意識することはありますか。
もちろん、ありますよ。僕はもう67歳になりましたけど、意外とまだ、若い役が多いんですよね。逆にそれで体力が落ちているなと感じます。若い時代からやらなきゃいけない作品の時は、若い時が早く過ぎるといいなと思いますね。早く実年齢に近い方に行きたいなって(笑)。今は技術がどんどん進化しているので、映像処理などで助けられることもあると思うんですけど、自分では体力、筋力の衰えをすごく感じますね。できるだけ、何とか抵抗したいとは思っていますけど、こればっかりは……。
――体力、筋力を維持するために、心がけていることはありますか。
撮影に入ってしまうとほとんどが待ち時間ですから、そんなに体を動かす時間がないんです。動かないし、動けない。だから、撮影に入る前、準備している間に体を動かしておかないと、明らかに体は弱ってくるし、硬くなってきます。リラックスしている合間にストレッチをしたり、気づいたら体を動かすようにしています。撮影中は待っている時間が多いとはいえ、かなり体力を消耗しますし、疲れてくると気持ちの部分でも落ちてきます。体力があった方が、気力が出てくる。本当は食べたい時に食べたいものを食べて、寝たい時に寝て、元気でいられるのが理想ですよね。日の出とともに起きて、日没と共に寝るような生活をすれば、長生きできると思うんですけど、仕事柄、それはなかなか難しいです。
――今後、やりたいこと、やめたいことはありますか。
コロナがあったので、ここしばらく旅行、特に海外には全然行けていないので、行ける間に行きたいと思っています。それこそ、あとどれだけ行けるか、わかりませんから。やめたいことは特にはないかな。まあ、やめなきゃいけないことは結構、やめましたから。ただ、深酒はやめたいかな。いい歳をして飲み過ぎちゃいけない。そんなに飲む方でもないんですけど、先日、久しぶりに会った友だちと家で飲んでたら、飲み過ぎました。それから2、3日は飲まなかったです。若い時は反省もせずに飲んでいましたが、そういうのはもういい加減、やめようと思います(笑)。
――やりたいことをやるためにも、元気で長く仕事を続ける秘訣は何だと思いますか。
自分が一番元気になるのは、観客の人が作品を見て、何か心が動いたっていうことを知った時です。本音を言えば、お客さんが楽しんでいる姿を見たら、すごく達成感があると思うんですけど、それがなかなかできないんです。僕はお客さんと一緒に自分の出ている映画を見たことがほとんど、ありません。例外は映画祭くらいですね。なので、お客さんの反応をほぼ知らないんです。こっそり見にいきゃいいじゃないかって思われると思うんですけど、これがなかなかできない。自分の映画は初号というスタッフ、キャストみんなと一緒に見る試写で見るだけなんです。
さらに俳優として個人的なことを言えば、「ひょっとしたら次はもっとうまくいくかもしれない」という欲もまた、仕事を続けるモチベーションでしょうか(笑)。
――ベテランと言われている役所さんでも、そうなんですか。
やっぱり、思いますよ。ずっとここまで長年、続けてきたのはやっぱりそれだと思いますね。「自分はもう全部、完璧にやれた」と思うことは決してなく、いつも自分はダメだなと思っています。でも次、やれば、ひょっとしたらうまくいくかもしれない。そういうことで、俳優という毒が回ってくるんでしょうね(笑)。
●役所広司(やくしょこうじ)
1956 年1⽉1⽇、⻑崎県出⾝。95年に『KAMIKAZE TAXI』で毎⽇映画コンクール男優主演賞を受賞。96年、『Shall we ダンス?』、『眠る男』、『シャブ極道』で国内主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した『CURE キュア』(97)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(97)など、国際映画祭への出品作も多数。12年、紫綬褒章を受章。 近年の出演作『孤狼の⾎』(18)では、⾃⾝3度⽬となる⽇本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞、19年第13回アジア・フィルム・アワードでは最優秀主演男優賞と特別賞 Excellence in Asian Cinema Award をダブル受賞。最新作『銀河鉄道の⽗』が公開中。また『VIVANT(ヴィヴァン)』(TBS、23年7⽉⽇曜劇場)にも出演予定。ヴィム・ヴェンダース監督の作品『PERFECT DAYS』では主演を務め、第76回カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した。
●役所広司さん主演作
『THE DAYS』
『THE DAYS』は6月1日(木)よりNetflixにて世界独占配信
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/title/81233755
ワーナー・ブラザース公式サイト:https://warnerbros.co.jp/tv/thedays/
企画・脚本・プロデュース:増本 淳
監督:西浦正記 中田秀夫
原案:門田隆将「死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)
出演:役所広司、竹野内 豊、小日向文世、小林 薫、音尾琢真、光石研、遠藤憲一、石田ゆり子
取材・文/高山亜紀 撮影/小倉雄一郎(小学館) HAIR&MAKE/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリスト/安野ともこ
【衣装】スーツ/GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)
シャツ/EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)
ネクタイ、チーフ、ベルト、シューズ/以上全て スタイリスト私物
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