弘前城内に祀られていた豊臣秀吉像(革秀寺蔵/『戦国秘史秘伝』より)。

ライターI(以下I):『どうする家康』では、石田三成(演・中村七之助)の政務復帰を望む徳川家康(演・松本潤)に対して、三成が「天下簒奪」だと断罪する展開になりました。

編集者A(以下A):いよいよ天下分け目の関ヶ原に突入するわけですね。さて、今週は、本編をより楽しむための「裏設定」的な歴史ネタを紹介しましょう。

I:前週は、豊臣政権の実情を鋭く観察した津軽為信が、政権中枢の人物として急成長した石田三成と太いパイプを結ぶことで、津軽の独立を勝ち取り、その後、弘前藩と三成との縁(えにし)は、徳川の世になっても紡がれていくことになる、ということに触れました。今週もその続編を紹介します。三重大学の藤田達生教授の著書『戦国秘史秘伝』から適宜引用します。

弘前藩においては秀吉はもとより、様々な支援を得た三成に対する恩義は格別のものとされたのは当然であった。それは、慶長五年(1600)年9月の関ヶ原の戦いの後の三成の子どもたちへの処遇からもうかがわれる。

三成の次男重成は、豊臣秀頼に小姓として仕えていた。同僚だった津軽信建(為信長男)の指示をうけて、なんと若狭から日本海ルートで津軽まで逃れたのである。さすがに姓名はそのままとはいかず、杉山源吾と称した。

その長男吉成は、二代藩主津軽信枚(のぶひら)(為信三男)の娘を妻として家老となり、杉山家は代々藩重臣として存続する。これは津軽藩において、いかに三成に対する恩義を意識していたのかを示す史実である。なお、吉成は寛文九年(1669)に勃発したシャクシャインの戦い(松前藩に対するアイヌ民族シブチャリの首長シャクシャインの武力抵抗)で、弘前藩の侍大将として総勢七〇〇名を率いて蝦夷地に出陣している。

革秀寺(弘前市)の霊屋には、重成がもたらしたとされる秀吉像が安置されていた。ありがたいことに、私たち一行はご住職の計らいで漆が多用された美しい霊屋の内部に入ることを許され、金箔漆塗りの豪華な厨子に入った小型の中年期と思われる立派な秀吉像に対面することができた。

それは、金箔の唐冠に桐紋付きの束帯姿で、金箔の杓を持ち、いささか伏し目がちの座像で、有名な秀吉像(宇和島伊達家所蔵)とは異なる趣があった。元は、弘前城内の「北の郭(くるわ)」の南東に附属する隠し曲輪というべき場所に建立された館神内に安置されたたもので、そこにはごく限られた者しか出入りが許されなかったという。

江戸時代を通じて、秀吉像が弘前城内で守護神として祭られていたのだ。津軽藩においては、三成子息がもたらした秀吉神像を崇拝し、三成の血統が藩重臣として藩政を預かっていたと考えてみただけで、なにやらワクワクするではないか。

ところが、これは弘前藩に関するミステリーの序の口だった。杉山家に興味を持った私たちは、その墓所宗徳寺(弘前市)を訪れてみた。探しあてた代々の墓には、すべて「豊臣」姓が刻まれているのである。津軽藩では、なんと杉山家が堂々と豊臣を名乗ることが許されていたのだ。

もちろん、石田氏には豊臣の血は流れていないし、豊臣姓も下賜されていなかった。しかし、秀吉と格別な関係にあった家という認識が浸透していたから、これが許されたと推測する。

A:今週の『どうする家康』の劇中では大谷刑部(演・忍成修吾)が三成三男を出陣させるという考えを持っていたことが描かれました。この三男というのは後に僧籍になった人物ですね。弘前藩に逃れたのは次男というわけです。

I:江戸時代に秀吉の像を城内で祀っていたとは公儀に知れたら大問題だったと思うのですが、津軽家もまた思い切ったことをしたものですね。

A:公儀の目よりも豊臣家、三成に受けた恩義を優先させたのでしょう。津軽のじょっぱり気質と受け取っていいと思います。

I:三成と津軽家、そして徳川家の間で繰り広げられた人間模様は、ドラマにしても面白そうですよね。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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