若狭武田氏が拠点としていた後瀬山城(福井県小浜市)。

大河ドラマ『どうする家康』では、武田信玄、勝頼親子を阿部寛、眞栄田郷敦が演じて話題を集めた。武田勝頼の敗死で甲斐武田氏は滅亡したが、本能寺の変直後に明智光秀に呼応して軍事行動を起こした武田一族がいたことはあまり知られていない。

光秀に呼応したのは、若狭後瀬山城を本拠としていた若狭武田氏の当主武田元明だ。ここでは、三重大教授藤田達生氏の新著『戦国秘史秘伝 天下人、海賊、忍者と一揆の時代』を引用しつつ、知られざる武田一族と本能寺の変とのかかわりについてリポートしたい。

後瀬山城の城主である若狭武田氏は、本家の甲斐武田氏は超有名であるが、残念ながら一般的にはあまり知られていない。甲斐武田氏の分家である安芸武田氏から分かれた家系である。一族間の付き合いは戦国末期まで続いたようで、武田信玄が若狭武田氏を気遣っていたこともわかっている。

若狭武田氏は、安芸武田氏4代の武田信繁の子息武田信栄が、将軍足利義教の命を受けて永享12年(1440)に一色義貫を誅殺した恩賞として若狭守護職を得たことに始まる。後瀬山城は、大永2年(1522)に武田元光(発心寺殿)によって築城された若狭最大規模の山城である。

朝倉氏が支配した越前と対峙していた若狭武田氏だが、永禄11年(1568)、朝倉義景の猛攻によって、当主の武田元明が朝倉氏の本拠一乗谷に連れ去られるという屈辱を受ける。しかし、天正元年(1573)、朝倉氏が織田信長によって滅ぼされると武田元明はようやく解放される。おそらく本人は、旧国若狭に戻れると思ったかもしれないが、信長は、若狭の支配を丹羽長秀に与えてしまう。以下、『戦国秘史秘伝』を引用する。

若狭が近世を迎えるきっかけになったのが、丹羽長秀が国主となった天正元年である。筆者は、丹羽氏から京極氏までの約80年間に、若狭において近世化が段階的に進んだとみている。近年、長秀の若狭支配については議論が深まりつつあるので紹介したい。
天正元年に隣国越前の戦国大名朝倉氏が、信長の攻撃を受けて滅亡した。これまで、武田信豊・義統・元明の三代は、一族間に内紛が相次ぎ、国内における求心力を失っていた。しばしば親子で対立し、国内勢力を分断する事態に直面し、その期に乗じて武田元明を拉致するなど、朝倉氏が露骨に若狭への侵入を繰り返していた。

戦国時代において、3郡からなる若狭国内の有力勢力は、中央に位置し半国規模の遠敷(おにゅう)郡に守護武田氏、三方郡の粟屋氏、大飯(おおい)郡の逸見(へんみ)氏である。朝倉氏が滅亡した結果、元明が帰国し若狭一国は武田氏を旗頭にまとまる条件を獲得したのである。信長は、丹羽長秀に若狭を任すことにした。

長秀は初期には若狭に入国して支配をおこなったようであるが、天正4年からは安土城普請と佐和山城の管理、天正8年からは大阪城普請というように、信長の側近として他国にあった。そのため、信長からは尾張時代から長秀と入魂だった溝口氏が派遣され、国務を代行したのであった。

天正9年には逸見氏が途絶えて、その後継者として溝口氏が位置づけられた。それに加えて、長秀は息女を粟屋氏に嫁がさせて良好な関係を築いており、武田氏を利用しながらも、国内支配を着実に深化させていった。

長秀にとって武田氏は、あたかも浅井氏にとっての北近江の守護京極氏と同様な存在だった。武田元明は、小浜の神宮寺に入っていた。中世勢力との協調によって、長秀の若狭支配は安定していたのである。ところが、これが仇になったのが本能寺の変だった。

母親が足利義晴の娘だった関係から、義昭に呼応して明智方となった元明は、変直後に若狭衆を従えて出陣し、長秀の近江佐和山城(滋賀県彦根市)を乗っ取ったのである。若狭にもそれに呼応し蜂起した武田牢人衆が、国吉城(福井県美浜町)の溝口氏を攻撃したりするなど、一国は混乱状況に陥ったことが新発見の「溝口文書」から明らかになった。

当時、大阪城に籠城していた長秀であるが、越前北之庄城に帰還した柴田勝家と連携して光秀方を攻撃しようとするが、羽柴秀吉が「中国大返し」によって上方に帰還するまで、城外に出ることすらかなわなかったのである。

このような武田氏復権のチャンスも、たちまち暗転する。山崎の戦いによって光秀が敗退した後、元明は近江国海津の法雲寺(滋賀県高島市)に呼び出され、謀殺されてしまう。天正10年7月19日のことだった。ここに、若狭武田氏は滅亡したのである。

本能寺の変をきっかけにして、武田氏復権を目論んだ武田元明。その野望を光秀の死を以て潰える。甲斐武田氏に続いて若狭武田氏も滅亡してしまうのである。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり


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