最近、パソコンやスマートフォンの普及により、自ら字を書く機会はめっきり減少してきました。その影響からか「読める、けれども、いざ書こうとすると書けない漢字」が増えていませんか? 以前はすらすらと書けていたのに、と書く力が衰えたと実感することもあります。
この記事を通じて、読むこと・書くこと・漢字の意味を深く知り、漢字の能力を高く保つことにお役立てください。「脳トレ漢字」第156回は、「凡庸」をご紹介します。「汎用」と間違われることが多いですが、意味が全く異なります。実際に読み書きをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「凡庸」とは何とよむ?
「凡庸」の読み方をご存知でしょうか? 「はんよう」ではなく……
正解は……
「ぼんよう」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「平凡でとりえのないこと。また、その人や、そのさま。」とされています。「彼は凡庸な人物だと言われているが、非常に努力家だ」「凡庸な商品を購入してしまった」などのように使うことができます。
「平凡」「凡下(ぼんげ)」などが類義語として挙げられる「凡庸」。字面や発音が似ていることから、しばしば「汎用(はんよう)」と混同されることがあります。しかし、「汎用」は「一つのものを広い方面に用いること」という意味になるので、「凡庸」とは全く違う言葉であると言えるでしょう。また、「様々な用途に用いることができる」という意味で、「汎用性が高い」と表現することができます。
「凡庸」と「汎用」を混同してしまった結果、「凡庸性が高い」という間違った表現がされることもあるため、使う際には注意する必要がありそうです。
「凡庸」の漢字の由来は?
「平凡」「凡人」などの言葉にも用いられているように、「凡」という漢字には「特に優れたところがない」「ありきたり」という意味があります。また、「あらゆる方向から吹く風を受け止める船の帆」を表す象形文字であるため、「全て」という意味も含まれるそうです。
一方、「庸」という漢字には、「任命する」「通常」という意味のほかに、「愚かである」という意味も含まれます。そのため、この二つの漢字を組み合わせることで、「平凡でとりえがない」という意味が生まれたと考えられるでしょう。
「凡庸」は悪?
「平凡でとりえがないこと」を指す「凡庸」。凡庸に生きることは、最大の悪であると主張した人物がいたことをご存知でしょうか? それが、ユダヤ人救済に尽力したドイツ出身の政治学者、ハンナ・アーレントです。第二次世界大戦中、ナチスドイツによるユダヤ人迫害は、ヨーロッパのほぼ全域に広がりました。
彼女自身もユダヤ人であったため、のちにアメリカに亡命しています。差別や偏見により、多くの命が失われた凄惨な事件。彼女は著書にて、ユダヤ人迫害が発生した原因は、社会的規範に囚われ、自分の頭で考えることを止めた「凡庸」な人々にあると指摘しました。
人々が思考停止することで、社会が荒廃するという彼女の主張は、現在でも多くの学説に影響を与え続けています。周りに流されながら生きるのではなく、常に自分の頭で考えて行動することが、社会をよりよくするための第一歩につながると言えるのかもしれません。
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いかがでしたか? 今回の「凡庸」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 「凡庸」のまま生きていると、誤った選択をしていることにも気が付かないかもしれません。自分自身と向き合い、しっかり考えて行動できる人でありたいものですね。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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