湯殿のシーンについてのあれこれ

I:さて、今週のサブタイトルは「お手つきしてどうする」でした。ということは湯殿のシーンがメインということになるのですかね。なんだか、なまめかしい場面でした。

A:〈髪を漉いてくれ〉という家康のリクエストにお万(演・松井玲奈)が応えるという展開でした。久能山東照宮には家康の髪を漉いたと思われる日常使いの櫛一式が遺されています。もちろんお万が使ったものかどうかはわかりませんが……。

I:そのお万がなんと懐妊してしまいます。

A:湯殿で侍女にお手つきということでいえば、1995年の大河ドラマ『八代将軍吉宗』で徳川光貞が湯殿で侍女にお手つきした結果、後の吉宗が誕生したというエピソードが語られました 。

I:出会いの場としては、わりとスタンダードということなんですね。

A:湯殿で世話をする侍女をどのような要件で選択していたかはわかりません。ただ問題なのは、お万が瀬名(演・有村架純)付の侍女だったということです。

I:従来、家康と築山殿(瀬名)はあまり仲がよくなくて、そのため浜松と岡崎で別居しているという感じで描かれてきました。ところが本作では、家康と瀬名は仲睦まじく、いつまでも新婚気分の抜けない夫婦のように描かれています。

A:にもかかわらず、「瀬名付の侍女だったお万に手を出すとは!」って戦国時代を舞台にした作品に向かって言ってはいけないですが、言いたくなってしまう場面でした。

I:酒井左衛門尉忠次(演・大森南朋)らが、〈信長が敵を蹴散らしているときに殿は風呂で何をしておられたのか。あー情けなや、あー情けなや!〉と呆れていました。

A:まあ、確かにその通りで左衛門尉は視聴者の思いを代弁してくれたような気がしないでもありません。ただ、お万の〈多くの家臣を亡くされ、お心が疲れきっている殿をお慰め申し上げたまで〉という言い訳は、その通りなのだと思います。三方ヶ原での大敗が元亀3年(1572)の12月。お万が家康の子を生んだのが、天正2年(1574)2月(4月説もあり)。お万の台詞の通り、大敗直後の気分がすぐれない時期にお万と通じたことになります。

I:正室の許しを得るというのはこの時代の定石のようですね。第10回では側室選びに瀬名が関与する様子がコミカルに描かれました。あの時は瀬名自身が関与した側室、今回は家康が正室である自分を蔑ろにして選んだ側室 。ということで、お万が生んだ子は家康の次男にあたるわけですが、祝福されずに数奇な運命をたどります。

A:源頼朝も政子に内緒で生ませた男子・貞暁(じょうぎょう)がいて、彼は京都で出家するわけです。同じように出生を祝福されなかったのが「家康次男」。大河の主人公にしてもおかしくないドラマがある人物かと思いますがいかがでしょうか。

I:ところで、お万と瀬名のやり取りではお万が自ら縄をかけられていました。江戸中期の編纂物には、お万が大木に縄でくくられて折檻を受けたという描写があったりしますから、それを逆手にとった描写と受け止めました。

A: そうした編纂物で瀬名(築山殿)悪人イメージがついていますからね。なかなか手の込んだ脚本になっていますね。

焼き味噌のエピソードの絶妙な投入

団子売りの老婆(演・柴田理恵)。(C)NHK

I:さて、数度にわたって登場していた団子売りの老婆(演・柴田理恵)が登場しました。当欄では、その重厚な演技を絶賛してきましたが、今週はとっても重要なエピソードが彼女を媒介にして展開されました。

A:三方ヶ原合戦での家康の有名なエピソードについて触れていたので、 膝を打ちました。団子を食べて代金を払わずに去ったのは家康に違いないとか、戦場から逃げる際に脱糞したのを指摘されて、「これは焼き味噌じゃ」といったエピソードが語られました。お市の方の「小豆袋」のエピソードの時にも言及しましたが、有名だけれどもどうも史実ではないらしいエピソードの扱いとしては絶妙ですよね。

I:浜松には「小豆餅」「銭取」という地名が残されていますから、同じような話が実際にあったのかもしれません。その伝承をしっかりと、しかも絶妙に入れ込んでくるのはすごいですね。この時の餅は「小豆餅」といって、今でも浜松市内で再現されたものが売られていますが、今年は盛況だそうです。

A:三方ヶ原の敗戦では、ほかにも家康が自画像を描かせたというエピソードが伝承されてきました。「しかみ像」ですね。このしかみ像も近年、三方ヶ原の合戦にまつわるものではないのではないかと指摘されて、浜松と関連して紹介されなくなっているようです。

武田勝頼は愚将ではない!

I:信玄が死の床につき、後継者に四郎勝頼(演・眞栄田郷敦)がつきました。

A:実は、武田家の領土がもっとも大きくなったのは勝頼の代です。それは評価してもいいと思うのですが、大きな代償を払わなければなりませんでした。急激な領土拡張はやはり無理があったのかもしれません。そうした歴史がこれからどう描かれるのか、注目ですね。

I:それはともかく、千代(演・古川琴音)が怪しい動きを始めます。岡崎を狙うとか、何かが動き出しました。

A:眞栄田郷敦さん演じる武田勝頼。楽しみですね。

病に倒れた信玄(左/演・阿部寛)と武田勝頼(右/演・眞栄田郷敦)

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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