ライターI(以下I):武田信玄(演・阿部寛)と徳川家康(演・松本潤)との一大決戦の時がやってきました。なんだか今週はスリリングなテンポで、手に汗握る流れになりました。
編集者A(以下A):ほんと、そうですね。特に浜松、岡崎、岐阜とあたかも同時中継しているかのように場面が転換していく演出にはググっと引き寄せられました。第17回演出の小野見知さん、その名前メモしちゃいました。
I:久松長家(演・リリー・フランキー)と於大(演・松嶋菜々子)、本多忠真(演・波岡一喜)と本多平八郎(演・山田裕貴)、そして、酒井左衛門尉忠次(演・大森南朋)と登与(演・猫背椿)のやり取りが描かれ、武田信玄との合戦が「死と隣り合わせ」だったことを強調してくれました。
A:左衛門尉の妻登与は、松平清康の娘ですから家康の伯母で、数少ない家康の身内になります。これまで三河の一向一揆回のコミカルパートなどでも存在感をみせてくれましたが、左衛門尉とのしばしの別れを惜しむシーンはよかったですね。
I:後半で瀬名(演・有村架純)が、「虫も殺せなかった信康(演・細田佳央太)が戦をする武人になった」と嘆きました。その流れで〈誰だって人殺しなんてしたくないはずなのに……。どうして戦はなくならないのでしょう〉と家康に語ります。こういうシーンには、「戦国時代にそんなやわなことを考えるわけがない」という意見が出がちですが、左衛門尉と登与のシーンなんかに接すると、やっぱリ心の底では合戦は嫌だとみんな思っていたのではないかと考えてしまいます。
A:なるほど。確かにそうかもしれません。愛する身内を合戦で亡くしたくないという思いは昔も今も変わらぬ普遍的な思いでしょう。そして家康は瀬名とのやり取りの中で〈この乱世……弱さは害悪じゃ〉と返します。「戦をなくするために戦をする」ともいわれますが、戦国時代の「業」のようなものですね。
家康が信長を呼び出して……
I:さて、武田軍との合戦を前に、家康が信長(演・岡田准一)を呼び出して援軍を依頼するという場面が描かれました。
A:信長は〈俺を呼び出すやつは珍しい〉と言っていました。「岐阜の信長、浜松の家康が会うなんてあるわけない」という人もいるかもしれませんが、援軍の数を議論する重要なくだりですから、トップ同士で話し合うという演出はありでしょう。あのやり取りをほかの手段で表現しようとしても難しいですし。
I:浜松と岐阜のほぼ中間である三河の西尾あたりという設定ですかね。双方から80km前後です。さて、「自分がおとりになるから、援軍を5000借りたい」。確かにわかりやすい展開でした。私は今回も耳を噛むのかと思って見ていましたが、今回は嚙みませんでしたね(笑)。
A:家康が信長に会うために三河に戻ったおかげで瀬名らのいる岡崎に立ち寄ることもできましたからね(笑)。
【『孫子』の教えから読み解く『どうする家康』の今後。次ページに続きます】