ライターI(以下I):三方ヶ原の合戦で徳川家康(演・松本潤)に大勝し、織田信長(演・岡田准一)を「万事休す」というところまで追い込んだ武田信玄(演・阿部寛)が病に倒れました。
編集者A(以下A):昨年の『鎌倉殿の13人』では信玄の先祖にあたる武田信義(演・八嶋智人)が登場していました。さらにさかのぼれば新羅三郎義光にいきつく武田家は、中世的な世界観では、徳川家とは比べ物にならない名門でした。
I:しかし、この信玄の病のシーンを見て改めて思うのは「人の口に戸は立てられない」ということですよね。信玄は自らの死を3年秘せと命じたにもかかわらず、噂は駆け巡ったようですね。
A:「口外厳禁」とか「ここだけの話」というフレーズはあまり意味をなさないのは現代も同じですね。おそらく信玄の周辺には織田、徳川方のラッパ、スッパの類がうようよしていたのではないでしょうか。
室町幕府の終焉と足利義昭
I:信玄の情報を得た信長はすぐさま反転攻勢をかけ、京の足利義昭を追放します。〈わしが将軍じゃぞ、わしが将軍じゃぞ〉と狼狽する義昭(演・古田新太)が哀れでした。信長に刃を向けられるシーン、ゾクゾクしましたね。
A:『麒麟がくる』の時にも言及しましたが、足利義昭はこの後も名目上は「将軍」であり続け、復権すべくもろもろ画策していく人生を送ります。最終的に将軍でなくなったのは、信長が亡くなり、藤吉郎秀吉(演・ムロツヨシ)が天下を掌握していた天正16年(1588)年です。
I:私はいつも不思議に思うのですが、なぜ信長は足利義昭を殺害しなかったのでしょうか。
A:信長ですら「中世的な価値観」を完全否定できなかったのではないでしょうか。尾張の守護・斯波義銀も討ち取ってはいないですし。
浅井長政が滅んでいた
I:ところで、びっくりしたのは、浅井長政(演・大貫勇輔)が すでに自害していたことです。
A:浅井家の居城・小谷城が織田方に落とされるわけですが、発掘調査の結果、どうも落城の際に炎上はしていなかったことがわかっています。過去の大河ドラマでは、小谷落城シーンが炎に包まれたことがあり、時代考証の小和田哲男先生のもとには同業者からクレームが入ったことが著書に記されています。私も先生から直接お伺いもしました。
I:映像的には炎に包まれた場内で浅井長政の切腹シーンがほしいのだけれども、それは史実ではないということになると、場面ごとスルーしてしまおうということなのでしょうか。
A:そうかもしれないですね。
I:さて、藤吉郎秀吉がお市の方(演・北川景子)と三姉妹の保護に赴きますが、お市の方は〈気安く触るな、サル〉といってひっぱたきます。
A:お市の方が浅井長政に嫁ぐ際の藤吉郎はまだ下っ端だったかもしれませんが、今や堂々たる織田方の武将のひとり。本来ならもっと礼を持って対応すべきところです。でももともと「サル」のことを嫌いだったのでしょう。そんなシーンになりましたね。
I:あの「三姉妹」とムロツヨシさん演じる藤吉郎秀吉との絡みがどう展開するのか楽しみですね。
【湯殿のシーンについてのあれこれ。次ページに続きます】