江戸後期はこのようは雰囲気のなか、落語会が催されていた。一恵斎芳幾・画「春色三題噺」より(東京都立中央図書館デジタルコレクション)

「なにをやっても面白い」「登場するだけでパアッと明るくなる」と評判の落語家・三遊亭兼好さんと、確かな解説に定評ある歴史家・安藤優一郎さんによる共著『江戸の暮らしと落語ことはじめ』(アノニマ・スタジオ)。“名は体を表す”の通り、落語を通して江戸の暮らしや文化にまつわるエピソードが詰まった書籍から、落語初心者に向けて、落語の楽しみ方をご紹介します。

文/三遊亭兼好

“語る”時代によって変化するもの

落語はつねに変化しているものですから、「時代」については厳密ではありません。
 
落語が今のスタイルになり始めたのは江戸後期。三遊亭圓朝(1839〜1900)が登場してから、噺が文章化され、それが今にも伝わっています。
 
今、われわれのやっている落語を古典落語と呼んではいますが、「江戸時代の噺でしょ?」と言われると、江戸を舞台にしたものが多いけれど、実際には明治以降に作られた噺もあるし、その時代ごとに変化(脚色)していっているものも多い。
 
例えば「笠碁」という江戸時代に作られた噺があります。碁仲間の二人が喧嘩をするが、意地の張り合いで仲直りできない。気になって相手の様子を見に行く場面で、「ポストの脇に立って」という描写をしますが、実際にポストが登場するのは明治以降。このように、演じる時代によって情景をわかりやすくイメージさせるため、脚色するわけです。

大衆演芸だからこそ

落語は江戸を感じる部分があればいい。時代を明確に分けて話すこともしないし、聞く側も詳しく知っている必要はありません。
 
例えば今だったら、「一両二両と言ってもわからないだろうなぁ。じゃ、背景はそのまま江戸時代で、一両ではなく『10円出しやがれぃ』と言ったほうがわかりやすいかも」など、ディテールじゃなくて、わかりやすいほうを選ぶ。しかも口伝えの芸ですから、それを聞いた人はなにも考えずに、江戸時代の背景(設定)で駕籠をやって、ちょんまげで刀抜きながらも、「10円よこせ」とやっちゃう。難しいこと考えず、その聞いたまんまきているわけですね。

そもそも大衆文化ですし、噺に著作権もありませんから(笑)。それに加えて落語家は、今も昔も“ぞろっぺぇ”(いい加減)なんです。歴史的なことは気にしなかったし、おもしろおかしく話してウケることが第一ですから。もちろん、噺を熱心に研究する先輩師匠もたくさんいらっしゃいます。圓朝師匠は、ちゃんと現地を歩いたといいますしね。でも結局、おもしろいほうに重点を置くのが落語です。圓朝師匠の資料を読んでいると、同じ噺でも三、四種類ぐらい、内容の異なるものがあるんです。きっと高座で話しているうちに、これが一番いいな、と決まってきたんじゃないかと。
 
やっているうちにだんだん固まってくる。落語ってそんなものだと思うんですよ。

* * *

『江戸の暮らしと落語ことはじめ』(三遊亭兼好 著/安藤優一郎 歴史監修)
アノニマ・スタジオ

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三遊亭兼好(さんゆうてい・けんこう)
落語家。福島県出身。サラリーマンを経て、妻子がありながら28歳で三遊亭好楽に弟子入り。2011年、国立演芸場花形演芸会金賞受賞。軽快な語り口と明るい高座で幅広い年齢層から支持されている。SNSでは得意のイラストとエッセイ(絵日記)を公開中。著書に『お二階へご案内』(東京かわら版新書)、『三遊亭兼好 立ち噺 独演会オープニングトーク集』(竹書房)、イラストを担当した『落語の目利き』(広瀬和生 著/竹書房)などがある。

安藤優一郎(あんどう・ゆういちろう)
歴史家。江戸をテーマに執筆・講演活動を展開。おもな著書に『お殿様の人事異動』(日本経済新聞出版)、『大江戸の飯と酒と女』(朝日新書)、『江戸の不動産』(文春新書)、『大名屋敷「謎」の生活』(PHP文庫)、『大江戸の娯楽裏事情』(朝日新書)などがある。

 

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