文・絵/牧野良幸

昨年末「男はつらいよ」シリーズで源公を演じていた佐藤蛾次郎さんが亡くなられた。独特の雰囲気を醸し出していた源公は寅さん映画になくてはならない人だった。今回は「男はつらいよ」の作品を見て佐藤蛾次郎さんをしのびたい。

取り上げるのはシリーズ第2作の『続・男はつらいよ』である。1969年公開。同じ年に公開された第1作『男はつらいよ』の好評を受けて制作された。タイトルも『続・男はつらいよ』とそのままである。

今から54年も前の映画である。出演者はみんな若い。渥美清は肌がツヤツヤだし、倍賞千恵子は清純な銀幕のスターそのまま。おいちゃん(森川信)やおばちゃん(三崎千恵子)でさえ若い。その一方で当時小学生だった僕は、現在還暦をとうに過ぎた。映画は歳を取らないとあらためて実感する。

源公も若い。少年と言ってもいいくらいの若者である。イラストにも描いたがトレードマークのひげはまだ生やしていない。髪の毛もアフロ風にはなっておらず、かわいいカールにとどまる。ただ意味深な目つきはまぎれもなく源公だ。

源公というのはあだ名で、正式には源吉という名前らしい。周りの人は「源公」とか「源」、「源ちゃん」と呼んでいる。

映画は寅さんの夢から始まる(これがシリーズ初の夢場面)。そのあと渥美清が歌うタイトルバックとなるが、終了するところで早くも源公が登場する。柴又に帰って来た寅さんを帝釈天の門から見つめる源公。ただし持っているのはホウキではなく猫だ。猫の首根っこをつかんで立っている。それが情緒的なオープニングの余韻とシンクロする。

寅さんの映画で誰に感情移入して見たいかときいたら、源公と答える人は多いのではないか。どこにでも顔を出す野次馬的なところ、寅さんの醜態を嗅ぎつける才能(?)など、源公は寅さんの七転八倒を特等席で目撃できる。

タコ社長(太宰久雄)みたいな絶妙なしゃべりはできないし、おいちゃんみたいに寅さんとの接近戦はしたくない。特に初代おいちゃんを演じた森川信は寅さんと同じレベルに下がっての絡みが面白く、感情移入よりその芸を眺めたい。博(前田吟)みたいに知的に寅さんに接するのも疲れそうだ。

やはり源公の視線で寅さんの醜態を見て「ふふふ」と笑うポジションがいい。その代わり寅さんに見つかって頭に一発くらうのは覚悟しなくてはいけないが。

この映画でも源公は寅さんが巻き起こす騒動に顔を出している。タイトルバックこそ寺男で登場したが、この映画では源公は「とらや」の店員として働いている。「とらや」の店の中やお茶の間のシーンでも隅に映る。のみならず寅さんの舎弟として、寅さんの商売にも同行するところがシリーズの中で異色だ。源公の出番は他の作品より多い。

この映画で寅さんが訪れるのは京都だ。嵐山で占いの本を売っている。寅さんは見物人のひとりを指して両親がいないことを言いあてる。

「ほんまや、よう当たるわ!」

と言って驚く関西弁の若者。ダミ声の主は源公だ。

そこに偶然現れるのがこの映画のマドンナである夏子(佐藤オリエ)である。父親の坪内先生(東野英治郎)と一緒に京都に来ているという。二人との出会いはすでに柴又の場面で描かれている。寅さんとは20数年ぶりの再会であった。

寅さんと夏子は渡月橋のたもとの店で食事をする。そこにも源公は同席している。源公だけ違うテーブルなのが相変わらずの扱いであるが。

「おい源、これで勘定払って来てくれ」

と札入れを渡しカッコつける寅さん。

「兄貴、500円しか入ってないんだけど……」

あわてる寅さん。二人のコンビは2作目で早くも板についている。

源公は寅さんが夏子や坪内先生と鴨川で食事をする場面にも顔を出す。寅さんは実の母親(ミヤコ蝶々)が京都にいると知り、会いに来たのだが、いざとなると訪ねることができなかった。それを坪内先生に叱責される重要な場面である。

シーンは桟敷から鴨川を見つめる源公のアップから開始。源公は寅さんたちに気を遣いつつ同席するのだが、そのあとは黙々とすき焼きを食べるところがおかしい。山田洋次監督は差し色のように源公を使い映画にアクセントを加える。

この映画ではマドンナも源公に暖かい。

柴又に戻ると夏子は「とらや」を訪れ、寅さんを自宅に招く。父親の話し相手になってほしいからだが、例によって寅さんは勘違い。ここまでは定番の流れだが夏子が「源ちゃんもいらっしゃいね」と誘うところが他の作品のマドンナと違う。

源公は寅さんより先に夏子の家に行って、夏子と楽しく話している。若き源公は社交性を持ち合わせていた。これが後から来た寅さんの怒りを買う。

「源ちゃん、ちょっと……」と寅さん。

「ハイ」

二人は夏子の前から消える。帰ってきたのは寅さんだけだ。

「あら、源ちゃんは?」

「帰りました」

夏子の家の前では寅さんにどつかれた源公が泣いている。

「ううう、ちくしょう!」

トボトボと立ち去る源公であった。

このあとも江戸川のウナギが食べたいと言う坪内先生のために、寅さんと源公は江戸川で何日も釣りをする。しかし江戸川でウナギが釣れるわけはない。夏子が心配してやってくると、

「引いてる引いてる、兄貴、ウナギだー!」

奇跡的に釣れたウナギを持って寅さん、夏子、源公の三人が土手をかけるシーンは青春ドラマのようだ。以上、佐藤蛾次郎さんをしのぶには、源公がたっぷりと出る『続・男はつらいよ』がおすすめだ。

寅さんが渥美清の分身だったように、源公も佐藤蛾次郎さんの分身だったと思う。今頃、源公は寅さんと天国でウナギを釣っているかもしれない。

【今日の面白すぎる日本映画】
『続・男はつらいよ』
1969年
上映時間:93分
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、小林俊一、宮崎晃
出演:渥美清、倍賞千恵子、佐藤オリエ、前田吟、佐藤蛾次郎、東野英治郎、ミヤコ蝶々、笠智衆ほか
音楽:山本直純

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』 『少年マッキー 僕の昭和少年記 1958-1970』、『オーディオ小僧のアナログ放浪記』などがある。ホームページ http://mackie.jp

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