トニー賞候補の秀作が日本で新たに生まれ変わって登場
激動の幕末、鎖国から開国、そして西洋化へと向かう近代日本の夜明けを、海外からの視点でミュージカル化。それが、伝説的作曲家のスティーヴン・ソンドハイムが手がけ、1976年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル『太平洋序曲』です。2004年に宮本亜門がブロードウェイで上演し、日本人演出家として初めてトニー賞候補になったことでも話題を呼んだこの作品が、日本で新たに生まれ変わります。今回は英国ロンドンで意欲的なミュージカル制作を行うメニエール・チョコレート・ファクトリーと、日本の梅田芸術劇場との共同制作。演出は『TOP HAT』でローレンス・オリヴィエ賞に輝いたマシュー・ホワイト。そして、主要キャラクター3人をそれぞれ豪華な日本人俳優がダブルキャストで演じるという、贅沢なバージョンです。
先日、ペリー来航ゆかりの地にあるお台場のホテルで、この作品の決起集会が開催されました。そのときにキャストが語った言葉から、作品の魅力を紹介しましょう。
「久々の大作の舞台。初心にかえってがんばりたい」――山本耕史さん
まず、作品を俯瞰しながらいろいろな役割を果たす狂言回しに扮する、山本耕史さんと松下優也さん。
山本さんは「役名があって、狂言回しの役割も果たすというのはよくあるんですけども、役自体が〈狂言回し〉というのがすごく面白いなと感じていて。皆さんも狂言回しとして見るだろうし、だからこそ逆手にとって、面白く裏切る瞬間がありそうな気がするんですよ。いろんなことを想像しながらチャレンジできるような役になるのではないかと思っています。僕もこれだけの大作の舞台というのは久しぶりなので、初心に返ってがんばりたいと思います」と意気込みを語りました。
「組み合わせ自由なキャスティングを楽しみに稽古に励みたい」――松下優也さん
山本さんと同じく、狂言回し役を演じる松下さんは「狂言回しはまるでカメレオンみたいな存在として描かれているんですけれども、まあとにかく出ている。出ているシーンがすごい長いし、セリフ量がとてつもなく多いので、そこはがんばりたいと思います。観る方や演じる人によっていろいろな解釈ができる話だと思っているので、そこはダブルキャストだからこその楽しみがある。キャストの組み合わせも固定ではなく、いろんな方と一緒にお芝居できるので、それを楽しみに稽古に励みたいと思っています」と、にこやかに意欲を表明しました。
「日本で上演することにとても意義のある、意味のある作品」――海宝直人さん
開国に一役買うことになる浦賀奉行所の下級武士、香山弥左衛門役には、海宝直人さんと廣瀬友祐さん。
海宝さんは「香山は開幕の時は、浦賀奉行所の与力という、決して位の高くない侍なんですけれど、将軍から『お前が海外から黒船で来た外国人たちを追い出せよ』という無茶な大役を押し付けられてしまって。そのなかで奮闘しながら、万次郎とともにいろんな頓知や知恵を使って最終的には自分の役割を果たして、出世していくというキャラクターです。日本で上演することにとても意義のある意味のある作品だなと思いますし、本当にその時代、時代で伝わるものがある作品だなと。ラストは『NEXT』という曲で終わりますけれども、やはり時代が進めばその〈NEXT〉の内容はどんどん先に進んでいくでしょうし、その時代を写したものを見た、いまの時代を生きる人たちが何を感じるのか。それがすごく興味深く面白い作品でもあります。それを海外のクリエーターチームと日本人のキャストで作るということにものすごく大きな意味を感じておりますので、ぜひぜひ楽しみに劇場に来ていただけたらなと思います」と熱く語りました。
「演じるのは、お客様がいちばん感情移入できる人物。寄り添えるような表現を目指していけたら」――廣瀬友祐さん
廣瀬さんは「演出のマシュー(・ホワイト)が『この物語は日本史にとっても転換期というか、政治的な問題がいろいろ出てくる中で、平凡な男だった香山が権力や重要性を持っていく物語でもある』と言っていて。かなり濃いキャラクターがいるなかで、香山はいたって普通な男ですが、お客様がいちばん感情移入できる人物なのではないかなと。そこに重きを置いて、寄り添えるような表現を目指していけたらと思ってます」と想いを語りました。
「外国人が描いた作品だけに、歴史好きも違う側面で日本史を楽しめる。そのなかで自分の役をしっかり演じたい」――ウエンツ瑛士さん
アメリカでの長期滞在から帰国したジョン万次郎役には、ウエンツ瑛士さんと立石俊樹さん。
ウエンツさんは「ジョン万次郎は史実の通り、漂流してたどり着いたアメリカで長いこと過ごして、日本に帰ってきて、物語の前半では囚人という立ち位置から始まります。生きながらえるためにやらなきゃいけないこと、そして日本のために何が必要かと思うところ、いろいろな思いがジョン万次郎自身にもあったと思うんです。でも本音だけでは生きていけないような立場にいた人物なので、嘘と本音を交えて演じていくなかで、香山との関係性が後半に向けてどうなるか。そのあたりをすごく楽しみにしてもらいたい役どころです。この作品がすごく素敵だと思うのが、外国人の方によって日本を描いた作品であるということ。日本人から見た日本史とはまた違った側面で、歴史好きな方が楽しめる部分も大きいと思います。そのなかでジョン万次郎をしっかりと演じたい」と抱負を述べました。
「演じるのは、自分にも影響を与えてくれるような偉大な人物の役。体当たりでぶつかっていきたい」――立石俊樹さん
立石さんは「僕も弥左衛門との関係性というのが面白くなりそうだと思います。普通では考えられない数奇な運命をたどっていると思うんです。漁師から始まり、漂流して143日間を島で生きながらえた。すごく生命力に溢れていて、自分に対しても影響を与えてくれるような、偉大な人物。しっかりと調べて、体当たりでぶつかっていきたいと思います」と意気込みました。
キャストの組み合わせを楽しみながら、自分だけの『太平洋序曲』を見つけられる作品
最後に統括して、山本さんがこう締めくくります。
「これからどんどんどんどん膨らませて行って、脚本をみんながどう解釈していくか。素晴らしい作品になることは間違いないと思っているんですが、さらに見所は本当にこれだけの人数がスイッチしていくというところ。ひとり当たり100枚ぐらいチケットを買っていただいても、それぞれ自分だけの『太平洋序曲』を見つけられるんじゃないかな。組み合わせによって、日によって見え方が全然違うと思うんですよ。僕もお客さんだったら全パターンを観たいので、皆さんどしどし観に来てください!」
ミュージカル『太平洋序曲』
<東京公演>
日程:2023年3月8日(水)~3月29日(水)
会場:日生劇場
<大阪公演>
日程:2023年4月8日(土)~16日(日)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
<出演>
狂言回し:山本耕史 松下優也(ダブルキャスト)
香山弥左衛門:海宝直人 廣瀬友祐(ダブルキャスト)
ジョン万次郎:ウエンツ瑛士 立石俊樹(ダブルキャスト)
将軍/女将:朝海ひかる
ほか
公式HP https://www.umegei.com/pacific-overtures/
取材・文/若林ゆり 撮影/後藤薫