文/池上信次

2022年10月、「ジャズ・ヴォーカル・グループのマンハッタン・トランスファーが結成50周年を迎え、ファイナル・ワールド・ツアーを開始」とのニュースが伝えられました。活動50年というのは、一般人ならば「同一企業に勤続50年」となるわけで、そう考えるとこれはすごいことだと驚きました(表彰状ものですよね)。というきっかけで、今回はジャズ界の「長寿グループ」について調べてみました。

まず、そのマンハッタン・トランスファーですが、結成が1972年。ティム・ハウザーを中心に、アラン・ポール、ジャニス・シーゲル、ローレル・マッセーの男女各2の計4名という編成で活動を始めました。79年に、交通事故で大ケガを負ったマッセーに代わってシェリル・ベンティーンが加入。2014年にハウザーが病気で死去し、トリスト・カーレスが加入というメンバー・チェンジがあったものの(同一メンバーでの活動だけでも35年)、50年の活動はつねにスタイルをアップデートするもので、これまで長寿であることをとくに看板にすることはありませんでした。これが「ジャズ」ですね。


マンハッタン・トランスファー『フィフティ』(コンコード)
演奏:マンハッタン・トランスファー(アラン・ポール、トリスト・カーレス、シェリル・ベンティーン、ジャニス・シーゲル)
発表:2022年
マンハッタン・トランスファー結成50周年記念アルバム。オーケストラをバックに、過去のヒット曲をリメイク。メンバー最年長のアラン・ポールは1949年生まれ。ワールド・ツアーは最後とのことですが、まだまだ活動を続けてほしいところ。

ジャズは個人の音楽という側面があるので、「リーダー+サイドメン」というバンド構成が一般的であり、「グループ」を名乗り、ソロとは違う、ソロではできない音楽を作る活動は多くはありません。メンバーひとりの主張が強すぎれば、それは「リーダー+サイドメン」になってしまうので、グループとしての個性を出しながら長く活動していくのは難しいことといえます。

そういった特徴があるジャズの「グループ」ですが、長寿としてまず思い起こされるのが、モダン・ジャズ・カルテットです。略称はMJQ。ミルト・ジャクソン(ヴァイブラフォン)、ジョン・ルイス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラムス)によって1952年に結成(ドラムスは55年にコニー・ケイに交代)。当初はこのメンバーでミルト・ジャクソン・カルテットとして活動を始めたのですが、ルイスが音楽監督を務めることになると、ジャクソンのテイストとはまるで異なる音楽性になったためMJQに改名し、グループとしての特徴をはっきりと打ち出しました。その、クラシックの室内楽のようなサウンドは、メンバー個々のソロ活動とのスタイルとは異なる、グループならではのものでした。MJQは74年にジャクソンが脱退。その後は、81年以降何度か再結成やアルバム発表を行なっていますが、グループとしての(生きた)活動はそこで終わりました。そこまでの活動歴は22年。これでもジャズ・グループとしては長い歴史といえるでしょう。

そしてジャズのグループといえば、ウェザー・リポート。ウェザー・リポートはジョー・ザヴィヌル(キーボード)、ウェイン・ショーター(サックス)、ミロスラフ・ヴィトウス(ベース)の3人により1970年に結成されました。その後多くのメンバー・チェンジを重ねながらもザヴィヌルとショーターは最後まで在籍し、86年の解散まで16年間活動を続けました。最後期はザヴィヌル色がやや強くなったものの、ショーター、ジャコ・パストリアス(76年から82年まで参加)ら各メンバーのソロとはまったく別の、グループとしての存在感を示し続けました。

ほかにも長寿のグループとしては、フュージョン・グループのスパイロ・ジャイラがあります。1979年にジェイ・ベッケンスタイン(サックス)とトム・シューマン(キーボード)を中心に結成。メンバー・チェンジも多く行なわれたものの、このふたりを含むメンバーで現在も精力的にツアー活動中で、活動歴は45年に及ぼうとするところ。

同じくフュージョンのフォープレイも長いですね。フォープレイはボブ・ジェイムス(キーボード)、リー・リトナー(ギター)、ネイサン・イースト(ベース)、ハーヴェイ・メイソン(ドラムス)の4人組で1990年に結成されました。ギタリストがラリー・カールトン、チャック・ローブと代わりましたが、2018年のローブの死去まで28年間に渡ってコンスタントに活動を続けました(以降活動休止中)。

さて、ここまで紹介してきたのは「リーダーなし」「創設メンバーが活動を継続」「ソロ活動とは異なる音楽を作る」という観点での「グループ」ですが、少し枠を広げてみると長い歴史をもつグループはほかにもあります。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズはその名のとおりブレイキーのリーダー・グループですが、変化するのが当たり前というジャズの世界にあって、ハード・バップという同じスタイルを頑なに守り通したという点では、これもひとつの「グループ」の姿といえるでしょう。ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(以下JM)はブレイキーがホレス・シルヴァー(ピアノ)とともに1955年に結成。グループは翌年分裂し、以降JMはブレイキーのリーダー・バンド名となりました。それから90年のブレイキーの死去までがJMの活動期間とすると、その長さは35年。もっと長いイメージがありますが、それはブレイキーがJMを結成したのが36歳の年だったから(1919年生まれ。71歳没)。グループを去来したメンバーの数は、なんと160名以上(『ハード・バップ大学』アラン・ゴールドシャー著、川島文丸訳、P-Vive Books、2009年刊による)。しかし、いつの時期でも一聴してわかるJMサウンドでした。これはほぼいつもメンバー中に音楽監督をおき、変わらぬ「JMらしさ」を継承・表現していたため。メンバーが替わってもその特徴が継承される、ブレイキー監督率いる名門スポーツ・チームみたいな感じでしょうか。

そして、その監督までも替えながら「名門」を継承しているチーム、じゃなかったグループがあります。それはザ・フォア・フレッシュメン(以下FF)。FFは1948年にドンとロスのバーバー兄弟らで結成された、全員がヴォーカルをとり演奏もする4人組。1950年代に大人気を博しました。その後はメンバー・チェンジをくり返し、最後のオリジナル・メンバーが1993年に脱退しましたが、グループは活動を継続。オリジナル・メンバーが全員没した現在も、変わらぬコンセプトでFFの看板を守っています。なんと活動75年です! と書くと「古いまま」のように思ってしまうかもしれませんが、さにあらず。コンセプトは変わらずともサウンドはアップデートされ、2022年にも新作をリリースし、ツアー・スケジュールもびっしりという状況です。古くならない秘訣は頻繁なメンバー・チェンジ。オフィシャル・サイトによれば、グループは現在25期を超えているのだそう。「跡目」とか「襲名」なんて言葉が浮かんじゃいますね。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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