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文/池上信次

1940年代末に10インチ(25センチ)と12インチ(30センチ)の2種類の「LPレコード」が登場し、(それ以前に比べて)長時間再生が可能になりましたが、50年代の末にはそれも淘汰され12インチLPが主流となりました。より長時間再生のフォーマットが選ばれたということですが、大は小を兼ね、同じ再生装置が使えますからそれは当然の成り行きでしょう。そして、当時は「モダン・ジャズ」(=鑑賞音楽)の時代ですから、作品=アルバム=12インチLPという作り方・聴かれ方が定着していきました。モダン・ジャズのLPアルバムは両面で5〜6曲というのが、現在でも当たり前の感覚ですが、これは「器の大きさ」から生まれたものであることは案外意識されていません。見方を変えると、曲数・収録時間を12インチLPレコードにほどよく収めなくては作品=アルバムとして成り立たない、評価されにくいという状況になってしまったのです。

もちろん長時間の演奏や、曲が多くなればレコードの枚数を増やせばいいのですが、困ってしまうのはその逆です。たとえばアルバム用の音源が20分ぶんしかなければどうすればいいのか。実際、あのマイルス・デイヴィスもそんな状況になったことがありました。1969年、マイルスは当時最先端をいくメンバーを集めて、スタジオに入りました。多くの曲を収録したものの、使いたくない部分を削っていったところ、なんと8分半と9分の2曲になってしまったというのです。しかしマイルスは、プロデューサーのテオ・マセロに「今回のアルバムはこれで行く」と言い残し、スタジオを出てしまいました。困ったのはテオです。いくらマイルスとはいえ、さすがにレコード片面分だけで「アルバム」とするわけにはいきません。

そしてテオは大胆なアイディアを思いつきます。なんと、音源の一部をコピーして繋いだのです。こう書くと「水増し」のようにも思われますが、聴けばびっくり、同じ音源がくり返し使われているというふうにはまったく聴こえません。あらかじめきっちり構築されたメドレーとしか思えないものになっているのです。こうして作られたのが『イン・ア・サイレント・ウェイ』というアルバムで、現在ではマイルスの画期的な傑作とされています。これはLPレコードという「器」の制約があったからこそ生まれた作品といえるでしょう。A面B面ともに「コピペ編集」(当時はテープの物理的な切り貼り)されています。どういうふうに繋いでいるかは実際に聴いてお確かめください。
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(1)マイルス・デイヴィス『イン・ア・サイレント・ウェイ』(コロンビア)

演奏:マイルス・デイヴィス(トランペット)、ウェイン・ショーター(ソプラノ・サックス)、ジョー・ザヴィヌル(キーボード)、ハービー・ハンコック(キーボード)、チック・コリア(キーボード)、ジョン・マクラフリン(ギター)、デイヴ・ホランド(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)
録音:1969年2月18日

この「切り貼り」エピソードはテオ・マセロのインタヴューによるものですが、このアイディアがなかったらどうしていたのかと考えると、(この話はちょっと「盛って」あって)じつは録音時からあらかじめ考えられていたのではないかとも想像できます。というのはこの後、テオはマイルスの作品を積極的な「切り貼り」で作っていくのです。これはその最初のトライだったのかも。『アット・フィルモア』などのライヴLPが見事な起承転結にもかかわらずLP1面にちょうど収まっているのは、みんなテオの「切り貼り」によるものなのですが、これも「器の大きさ」が音楽を決めている一例ですね。
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さて、長時間作品の場合は枚数を増やせばいいと書きましたが、じつは単純なことではありません。1面は最長25分程度ですから、曲順を考えて曲が面をまたがないよう時間配分して収めなければなりませんし、スカスカにもできません(2枚組で3面しか使っていないようなものもまれにありますが)。中途半端には増やせないのですね(CDの出現でそれは大きく変わるのですが、それはのちほど)。いまではすっかり忘れられていますが、じつはLP時代にそれを乗り越えたメディアがありました。そう、カセットテープです。カセットテープは1本で90分収録でき、それはLP2枚組とほぼ同等ですが、連続45分再生が可能で、面の切れ目が1カ所だけなので(LPは3カ所)、長い曲がLPより収録しやすいのですね。70年代後半から80年代はじめあたりには、アルバムがLPとカセットテープで併売されているものがありましたが、中にはカセットテープの長所を生かした、LPとは異なる内容のものもありました。
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(2)渡辺香津美『MOBO』(ドーモ)
渡辺香津美『MOBO』

渡辺香津美『MOBO』

演奏:渡辺香津美(ギター)、マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)、ケイ赤城(キーボード)、ドン・グロルニック(キーボード)、マーカス・ミラー(ベース)、ロビー・シェークスピア(ベース)、スライ・ダンバー(ドラムス)、オマー・ハキム(ドラムス)、スティーヴ・ジョーダン(ドラムス)
録音:1983年8〜9月

このアルバムはLPは2枚組で発売され、カセットテープ版も同時に発売されました。どちらも全10曲収録ですが、うち2曲はカセットの方が6~7分も長いのです(15分33秒と20分18秒)。切れ目が1カ所だけなので、うまく並べて90分をほぼ目一杯使っているのです。逆に言えば、LPの方はショート・エディット・ヴァージョンにせざるを得なかったということですね。その後CD2枚組でリリースされており、内容はカセットテープと同じロング・ヴァージョンになっています。
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そして1982年にCDが登場し、連続再生可能時間は74分42秒と飛躍的に延びました(現在は80分以上も可能)。この74分という長さは、技術的な理由ももちろんありますが、「第九」を1枚のディスクに収められるようにしたいというところから決まったとも言われています。初めて音楽に合わせたメディアが登場したということになりますね。CDが主流になると続々とLP音源のCD化が始まりましたが、その際に多くのCDで、LPには収録されていなかった(入れられなかった)未発表曲や、ライヴのロング・ヴァージョンが収録されたことからも、LPは時間的制約の多いメディアだったということがわかります。

こうして、LPでは3面にまたがるような長時間ライヴでも、切れ目なく再生できるようになったわけですが、ライヴではないスタジオ録音でその「器の大きさ」を生かした作品作りをするミュージシャンも現れました。これはたんに曲数が多いということではありません。パット・メセニー・グループの『ザ・ウェイ・アップ』は、なんと68分10秒の「1曲」収録。さすがにリスナーのことを考えてでしょう、トラックは4パートに分かれていますが、曲間はゼロ秒。実際は切れ目なしの1曲です(国内盤はさらにボーナス・パート約4分が途中に追加されています)。おそらくこの演奏時間はCD1枚の長さを基準にして考えられたものでしょうから(もしLP4面またぎだったらまったく印象が違うはず)、CDというメディアがなければ生まれなかった作品といえるでしょう。
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(3)パット・メセニー・グループ『ザ・ウェイ・アップ』(ノンサッチ)

演奏:パット・メセニー・グループ[パット・メセニー(ギター)、ライル・メイズ(キーボード)、スティーヴ・ロドビー(ベース)、クォン・ヴー(トランペット、ヴォイス)、グレゴリー・マレット(ハーモニカ)、アントニオ・サンチェス(ドラムス)]ほか
録音:2003〜04年

裏ジャケットには「THE WAY UP(68:10)」と大きく書かれていますが、タイムはタイトルと同じ大きさで、「1曲」を強力にアピールしています。もしCDが100分収録可能だったら、きっと100分1曲にしていたことでしょう。このアルバムは、2006年グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムを受賞しました。
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このように、メディアの変遷はじつはジャズの作品作りにつねに大きな影響を与え、また、新しい可能性をもたらしてきたのです。現在ではストリーミングやデジタル・データなど、「完全に」時間の制約がないメディアが誕生していますから、ここからまた新しいジャズが生まれてくるかもしれません。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。先般、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ001/マイルス・デイヴィス絶対名曲20 』(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)を上梓した。編集者としては、『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

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