行方不明になった実朝と焦る時政
I:そんな緊迫した流れの中で、実朝(演・柿澤勇人)が「行方不明」となる事態になりました。
A:和田義盛(演・横田栄司)や鶴丸(演・きづき)らとともに歩き巫女のおばばのもとを訪ねていたのですけどね。〈雪の日には出歩くな〉とか、何気なく発せらた言葉が意外に後々の人生において核心をついた言葉になることがあるんだろうな、なんて思いましたが、ここで大竹しのぶさんをこっそり投入してくるとは、衝撃的過ぎるんですが。
I:私もびっくりしました。え?え?え? という感じでした。おばば、大竹しのぶさん? って。
A:大竹しのぶさんと大河ドラマといえば、『獅子の時代』(1980)で演じた菅原文太さんの妹役と『徳川家康』(1983)での家康生母・於大の方役がことさら印象に残っています。『元禄繚乱』(1999)の大石内蔵助の夫人大石りく役もしっかりと思い出に刻まれています(※)。その大竹さんが歩き巫女とかサプライズすぎます!
(しばし、クールダウン)
I:なにはともあれ、畠山討伐の下文(くだしぶみ)に実朝の花押をいれてもらおうとしていた時政がようやく実朝をつかまえます。
A:一方で、武蔵まで足を伸ばしていた義時が重忠に起請文を書くように進言します。重忠の屋敷があったのは現在の埼玉県の嵐山町ですが、鎌倉からは100km超離れています。
I:まさに重忠が〈それを言いにわざわざ?〉というだけの距離があるのですよね。現代でも東京の池袋駅から東武東上線急行で最寄り駅の武蔵嵐山駅まで60分ほどかかります。鎌倉からですと電車を乗り継いで2時間以上です。
A:重忠は〈私を呼び寄せて討ち取るつもりではないでしょうね〉と疑心暗鬼になっていました。これまでの梶原、比企への仕打ちを見ているわけですから、当然ですよね。そして、重忠は〈北条の邪魔になる者は必ず退けられる。鎌倉のためとは便利な言葉だが、本当にそうなのだろうか〉と核心的な言葉を発します。
I:「鎌倉のためと言いながら、ほんとうは北条のためだよね」ということを重忠は喝破して、己の運命を悟ったという感じもします。どんな結末を迎えるのか、ちょっとどぎまぎしますね。
A:1979年の『草燃える』では、『ウルトラセブン』の森次晃嗣さんが重忠を演じました。今回の中川大志さんは出番も多く、印象に残る場面や台詞もありました。武蔵の国の行方もどうなるか気になりますね。
義時にとって「のえ」は幸福の女神になれるのか?
I:義時のもとに嫁いだ三番目の女性「のえ(演・菊地凛子)」のことを息子の泰時(演・坂口健太郎)が心配しています。まるで『家政婦は見た』のようです。
A:三浦義村(演・山本耕史)はさすがで、手についていた米粒を見逃さずに、〈握り飯を食いながら、裁縫をするやつがいるか〉とその本性を見逃していませんでした。
I:〈惚れていなければ妻にはせん〉と言っていましたから、義時は惚れてしまったんですね。のえはのえで、〈必ずや男子を産んで、その子をいずれは北条の家督にしてみせます。そうでなければあんな辛気臭い男に嫁ぎません〉と言い放ちました。
A:衝撃的な発言です。泰時も三浦義村ものえの本性に気付いたようですが、義時本人は気がつく素振りも見せません。義時の今後が心配でなりません。
I:歩き巫女のおばばに占ってもらう必要があったのは、義時だったかもしれませんね。
※『花神』(1977)、『江 姫たちの戦国』(2011)、『いだてん 東京オリムピック噺』(2019)にも出演。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり