頼朝(演・大泉洋)が京都滞在中、幾度も後白河院(演・西田敏行)と会談を重ねたという。

頼朝上洛で後白河院と

ライターI(以下I):今週は、上洛した頼朝(演・大泉洋)が後白河院(演・西田敏行)と直接対峙する歴史的なシーンが登場しました。私は幕末の西郷隆盛と勝海舟の対面にも匹敵する歴史的会見だと思っています。

編集者A(以下A):西郷×海舟会談に匹敵するかどうかはともかく、歴史的な会見であることは間違いありません。劇中でのやり取りも活字にしてみると重厚そのもの。後白河院と源頼朝という当代きっての大立者同士のツーショットをしっかり入れ込んでくるとは、感慨深いです。

I:頼朝は、娘大姫(演・南沙良)の入内を目指す意向を表明しました。藤原摂関家と平清盛も同様の手段で権力を握ったわけですが、鎌倉を拠点とする頼朝が両者と同じような権力を志向したということになります。

A:劇中では描かれませんでしたが、頼朝は上洛に際して、後白河院に砂金800両、馬100頭(匹)など豪勢な進物を贈っています。院だけではなく丹後局(演・鈴木京香)にも高級絹を300疋、院の側近らにも進物を用意していたようです。さらに頼朝は、上洛中に半蔀車(はじとみぐるま)という貴族が乗る牛車で参内したといいます。本当はそうした情景も描きたかったのだと思いますが、さすがに尺が足りなくなるので入れられなかったのでしょう。

I:尺の問題ってほんとうに切ないですよね。

A:千葉常胤(演・岡本信人)が〈鎌倉殿は法皇様に取り入るために、わしらを利用したのではないか〉と怒っていましたが、その背景には、自分たちが汗をかいて得た利益をなぜ院に贈らねばならないのかという思いもあったでしょうし、牛車に乗る頼朝を見て「武士の棟梁が乗る乗り物か?」と憤慨したかもしれません。だから常胤らの不満も理解できなくはありません。

I:京都におもねる頼朝の姿を見てがっかりしたかもしれないですね。岡崎義実(演・たかお鷹)が、今週も〈鎌倉殿と身内の者だけがいい思いをする。そういうことじゃねえのか〉と叫んでいましたが、人事や待遇への不満は昔も今も変わりません。政治の世界をみてもわかる通り、「身内のもの=側近=同一派閥」の人間が重用されるのは今も同じこと。

A:なかなか難しい問題ですが、頼朝が後白河院に掛け合った「守護」の問題なんかは、結果的に不満を抱える御家人対策でもあったのでしょうね。

大姫入内問題から目が離せない。

盟友九条兼実との微妙なやり取り

I:後白河院と謁見した頼朝が九条兼実(演・田中直樹)との会談に臨んだのも史実ですね。

A:頼朝との会談の模様は兼実が自身の日記『玉葉(ぎょくよう)』に書き残しています。『玉葉』は、『吾妻鏡』と並んでこの時代の重要な史料ですが、訳本は刊行されていません。

I:『吾妻鏡』の訳本は刊行されていますけどね……。『玉葉』の訳本、Aさんやったらいいじゃないですか。

A:軽々しくそんなこといわないでください(笑)。ところで、『玉葉』に書かれた会談の内容ですが、頼朝と兼実が「後白河院の死を待って事を起こそう」と語り合ったとか、いやそんなことはないのでは? という反論があったり、研究者間の解釈の違いもあったりして面白いですよ。

I:私は、大姫入内問題が劇中どう描かれるか気がかりです。

A:ほんとうですよね。対後白河院で「同盟」していた頼朝と兼実の間にひびが入りそうな気配がします。このあたりが頼朝のターニングポイントですから見逃せないです。

I:ところで坂東武者らの不満を聞いていたのが頼朝の弟範頼(演・迫田孝也)でした。第15回で描かれた頼朝の嫡男万寿が襲われそうになった際、抜刀して敵を切り伏せた姿を見た実衣(演・宮澤エマ)に〈意外にできる〉と評されたり、源平合戦の際の扱いでも従来の「愚将扱い」とは異なる立ち位置を与えられていました。今後の範頼は注目株といっていいですよね?

A:源範頼……。この人に光を照射するとは、今年の大河ドラマは本当に心憎いです。

またまた「比企の娘」が登場

またもや「比企の娘」が登場。

I:その後白河院の臨終の場に後鳥羽天皇(演・尾上凛)が立ち合いました。まだ少年の後鳥羽天皇が「守り抜きまする」と健気な姿を見せてくれました。後鳥羽天皇は、壇ノ浦で入水した安徳天皇の弟。後白河院の孫になるんですよね。

A:そうです。安徳院の弟で、壇ノ浦に沈んだ三種の神器のひとつ「草薙剣」がないままに即位したことを気にかけるようになるのは、これからのことでしょうか。ちなみに劇中では描かれませんが、後白河院の病気を聞いた頼朝は、鎌倉にあって、病気平癒を祈って法華経を読経していたそうです。頼朝と後白河院はやり合っていましたが、根っこの部分ではお互いリスペクトしあっていたのではないかと感じてしまいます。

I:さて、八重さん(演・新垣結衣)が亡くなったあと、周囲の人々が気を遣って義時(演・小栗旬)に後添えをと動き出しました。

A:そうした中で浮上してきたのが、比企家の息女比奈(演・堀田真由)ということですね。女性好きの頼朝も気に入ったという設定でした。一般的には、義時の一目ぼれということになっていますが、八重さんが亡くなったばかりでは、そういう設定にしづらかったのでしょう。

I:なんか、今回の流れを見た印象ですが、義時と比奈を結ばせることで、北条と比企の間を取り持つことを企図していたのではないかと思ってしまいました。

A:なるほど。そういう見方もできるかもしれません。万寿の乳母家である比企が重用されると北条が面白くない。頼朝はひとつの家に権勢が集中するのを避けるためだったかもしれませんが、倫理だとかマナーとかがまだ整っていない坂東武者の世界。人間の欲望がストレートに表現される極めてシンプルな人間模様をしばらく楽しみましょう。

御家人の不満と曽我兄弟

時政(右/演・坂東彌十郎)は曽我兄弟の烏帽子親(左/五郎時致/演・田中俊介と中/十郎祐成/演・田邊和也)。

I:物語の最初から登場している工藤祐経(演・坪倉由幸)ですが、静御前(演・石橋静河)の鶴岡八幡宮での舞のシーンでも鼓を打っていました。本当は坂東武者きっての風流人だったんですよね。

A:風流人は荒武者揃いの坂東の中では生きづらかったのかもしれないですよね。さて、改めて整理すると、伊藤祐親(演・浅野和之)と工藤祐経は同族。祐親の祖父が、所領を祐親の家と祐経の家に分割相続させたのがもめごとの発端です。

I:祐経が京都にいたときに、祐親が祐経の所領を奪ってしまい、それに怒った祐経が祐親を討とうとした際に、祐親嫡男の祐泰を殺してしまう。

A:今週登場した曽我十郎祐成(演・田邊和也)と五郎時致(演・田中俊介)兄弟は、祐泰の息子で、時政(演・坂東彌十郎)の義理の甥になります。しかも時政は、兄弟の烏帽子親を務めたという関係です。

I:その曽我兄弟が時政に、仇討の相談をします。まさに、復讐の連鎖。殺られたら、殺り返すというやくざ社会のような構図ですね。その動きに絡んで、坂東武者らがきな臭い動きをみせる。それで範頼なんですね!

A:ほんとうに「鎌倉」って恐ろしいですよね……。今週は後白河院崩御が描かれましたが、周囲に看取られていました。義経、八重さんと辛い別れに比べると、「嵐の前の静けさ」って感じがしますね。

I:来週はまた何か大きな騒動が起こりそうな気配がします……。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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