頼朝(演・大泉洋)の所業に怒り伊豆に帰ってしまった時政(演・坂東彌十郎)。

ライターI(以下I):頼朝(演・大泉洋)の愛妾亀(演・江口のり子)の存在が北条政子(演・小池栄子)に露見したことに端を発した亀の前事件は、頼朝の舅時政(演・坂東彌十郎)が「伊豆に戻る!」という大騒動に発展しました。鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』はこの事件が起きた寿永2年(1183)の記述が欠巻になっているそうです。欠巻は後々の大事件でも発生しますから、意味深ですよね。

編集者A(以下A):劇中、ややコミカル含みで展開されていますからあんまり「大事件臭」がしませんが、実際に鎌倉を揺るがす大事件でした。

I:それにしても鎌倉から伊豆に逼塞することを決断するとは、時政はよほど頼朝の仕打ちに腹を据えかねたのでしょう。

A:坂東彌十郎さんの好演で北条時政に関心を持った方が多いかと思いますが、ぜひ静岡県伊豆の国市の願成就院にお参りいただきたいです。時政の墓所に加えて、時政の木像もあります。そもそも時政が建立にかかわった寺院で若き運慶が造立した阿弥陀如来をはじめとする5軀もの国宝仏像群を蔵しています。

I:後々「大家」となる運慶にいち早く発注する情報網と経済力があったのでしょうね。時政を侮ってはいけないですね。

A:山本みなみさんの著書『史伝 北条義時』には、北条館の発掘調査の結果から、北条一族の交易の広さについても言及しています。それを踏まえると、時政は、ほんとうは、経済力を有したもっとすごい人なんだぞ!ということがわかります。

I:騒動の発端を自ら作った頼朝は、〈まさか小四郎まで出ていくことにはならんだろうな〉と義時(演・小栗旬)の動静を気にしていました。「義時が残るのであれば、この難局は乗り越えられる」と考えていたのでしょう。結果的に義時が鎌倉に残ることになったのは、頼朝にとっては不幸中の幸いでした。

爆発寸前の坂東武士らの不満

I:さて、千葉、土肥、岡崎、和田、畠山ら坂東武士の面々が義時と義村(演・山本耕史)を囲んで不満を口にする事態になりました。頼朝と義仲(演・青木崇高)の源氏同士の間の諍いは、坂東武士は関係ないのでは? という考えが根底にあるようです。

A:〈わしらは鎌倉殿のためなら、なんでもするってわけじゃねえんだ〉と同じことを2度語ったのが岡崎義実(演・たかお鷹)っていうのがミソですね。義実は挙兵以来の功臣で、嫡男の佐奈田義忠は石橋山で討ち死にしています。その義実に坂東武士の心の奥底にある思いを吐かせることで、この事態の深刻度が伝わってきました。

I:確かに坂東武士の不満が高まっていたことがよくわかる描写でした。

A:頼朝の兄弟が何人も現れて脇を固め、乳母系の御家人は優遇され、そのうえ京都から実務官僚が下ってくる。和田義盛(演・横田栄司)が侍所の別当に任ぜられたとはいえ、旗揚げ時には敵方にいた梶原景時(演・中村獅童)が重用され、義盛は「名ばかり管理職」のような扱い。坂東武士らが不満を抱えるのもムリはありません。

I:現在でも、腰巾着などイエスマンばかりで周囲を固めるトップがいるようですが、そういう組織は不満だらけだそうです。こういうのは何百年たっても変わらないんですね。

A:上総広常(演・佐藤浩市)が〈鎌倉はふたつに割れるかも知れねえなあ〉となんとも意味深な発言をしていました。広常の行く末が刺激的に描かれそうでわくわくします。前週の「孫の手習い」の挿話もなんだか意味ありげですし。

呪詛と読経合戦

怪僧文覚(左/演・市川猿之助)、全成(演・新納慎也)、実衣(演・宮澤エマ)の読経合戦。

I:ところで、全成(演・新納慎也)が江の島の弁財天で藤原秀衡(演・田中泯)の呪詛をしていることが明かされました。さらに、後白河院(演・西田敏行)の命令で、清盛(演・松平健)を呪い殺したという男を鎌倉に呼び寄せることになりました。ここで「!」と来た方も多かったと思うのですが、案の定、文覚(演・市川猿之助)が再び鎌倉にやってきます。第10話で後白河院(演・西田敏行)から〈人を殺せるか?〉と問われていましたが、文覚が清盛を呪い殺していたとは驚愕です(笑)。

A:文覚と全成、さらには実衣(演・宮澤エマ)の読経合戦は異様な光景で、声を出して笑ってしまいました。親御さんと視聴している小学生の子供たちにはインパクトがあったのではないでしょうか。わが国初の武家政権がどのようにできたのか、中世とはどのような時代だったのか、強く印象づけられたと思います。

男気のある木曽義仲の描写に涙

I:今週は木曽義仲が登場しました。頼朝から冷たくあしらわれた叔父の行家(演・杉本哲太)を受け入れたことで問題が勃発します。

A:行家も頼朝、義仲の叔父にあたりますが、この時期の関東には義仲の父義賢と同母兄弟である「志田義広」というもうひとりの叔父がいました。志田義広は登場していませんが、本作では、武田信義(演・矢嶋智人)や佐竹義政(演・平田広明)や頼朝の異母弟たち、木曽には義賢の遺児義仲と、源氏が各地でたくさん生き残っていたことを知らせてくれました。

I:そうした中で範頼(演・迫田孝也)、義時、三浦義村が義仲を訪ねます。義仲は源氏同士で争うつもりはないと明言します。

A:義時らとのやり取りをみると義仲は男気のある人物として描かれたという印象です。劇中、行家の〈義仲、そなたこそが源氏の嫡流〉という台詞がありましたが、そもそも義仲の父義賢が嫡流だったとする考えもあるようですし、「歴史は勝者によって描かれる」ですから、義仲が勝っていたら、最初から義仲が「源氏の嫡流だった」という歴史がつくられていたんだろうなといつも想像しています。

I:その場合、「源義仲、伊豆頼朝」になっていたかもしれないですね。まあ、もともと「源義仲」ではあるのですが……。

A:しかし、義仲が嫡男義高(演・市川染五郎)を鎌倉に人質に出すくだりは、「なるほど!」と感じ入りました。なぜ義仲が嫡男を人質に出す必要があったのかわかりにくい部分ではあるのですが、ドラマではその経緯が事細かに描写されました。行家が所領を求めたものの断られ、義仲のもとに奔ったこと、武田信義が頼朝に行家・義仲が平家と結び鎌倉を攻めて来るという風説があることを語っていること、さらに、義時が、武田が一門の姫と義仲嫡男の縁組を考えていたことなど説明します。

A:諸所でコミカルな演出が施されているとはいえ、緻密な背景をコンパクトに入れ込んでくる脚本にはただただ驚嘆させられます。そうした流れの中で、義仲嫡男の鎌倉入りが決まります。名目は頼朝長女の大姫(演・落井実結子)の許婚ということだったのでしょう。1979年の『草燃える』でも木曽義高(演・長谷川裕)が登場し、斎藤こずえ演じる大姫との悲恋の物語が展開されました。「よしたかさま!よしたかさま!」という大姫の甲高い声が思い出されますが、本作ではどのような描写になるのか楽しみです。

I:頼朝は奥州の藤原秀衡南下の噂に脅え、義仲と行家の動向も気がかり。清盛を亡くしたばかりの西国の平家の動きも気になっていたでしょう。俗に、敵の敵は味方と言いますから、もしかしたら義仲と平家が結びつくかもしれない。気の休まることのない日々が続いたのではないでしょうか。

A:なるほど。そう考えるとラストで展開された女性陣と頼朝とのやり取りは、「現実逃避する頼朝」を描いたという解釈もできますね。

和泉式部 恋の和歌とヤツメウナギ

I:現実逃避?仮にそうだとしても、北条時政が伊豆に戻るという大事件の原因となった亀を頼朝が密かに訪れるとは、節操なさすぎですよね。と、思っていたら、なんとその場に政子がいるという仰天場面になりました。

A:思わず吹き出す展開でしたね。やっぱりよっぽど現実から逃れたかったのでしょう。すぐさま八重(演・新垣結衣)のもとを訪ねます。ここでも噛まれて退散するというみじめな展開になりました。

I:印象的だったのは、政子と亀が対峙したシーン。和泉式部の〈黒髪の みだれも知らず うち臥せば まづかきやりし 人ぞ恋しき〉まで出てきて、亀が大意まで解説してくれました。呪詛に大真面目に取り組むなど、劇中、中世独特の世界観が強調されていますが、恋する感情だけは、昔も今も変わらないんですよね。

A:恋もそうですが、同様に美味しいものを食べたいという思いも時代を経ても変わらないんじゃないですかね。私はヤツメウナギを食べに行きたくなりました。

I:この時期、入荷してますかね。

木曽義仲(演・青木崇高)と嫡男義高(演・市川染五郎)。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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