源氏の四兄弟が一堂に会す。左から義経(演・菅田将暉))、源範頼(演・迫田孝也)、全成(演・新納慎也)、北条義時(演・小栗旬)、頼朝(演・大泉洋)。

ライターI(以下I):前週、ついに頼朝(演・大泉洋)と義経(演・菅田将暉)兄弟が再会する感動のシーンが描かれましたが、義経が藤原秀衡(演・田中泯)の書状を携えていると知った頼朝の豹変ぶりが印象に残りました。

編集者A(以下A):奥州藤原氏は無視することのできないビッグネーム。秀衡の書状の内容が気にならないわけがない。しかし、誰かがバックについているのかいないのかで扱いが異なるのは昔も今も変わりませんが、「後見が藤原秀衡」というのが義経の運命をどう左右するのか、それがどう描かれるのか注目ですね。

I:さて、大庭景親(演・國村隼)と山内首藤経俊(演・山口馬木也)が北条時政(演・坂東彌十郎)のもとにやってきました。景親が時政に〈頼朝ごときにそそのかされて情けない〉と面罵してしまいます。石橋山の合戦の際に激しく頼朝や時政のことを非難した手前、このような態度に出るしかなかったのでしょう。意地でも下手には出ないという強い意思を感じました。

A:ここで意を尽くして謝罪をしていたら、あるいは命だけは許してもらえたかもしれません。しかし、景親はそれをよしとしなかった。景親の実兄景義が当初から頼朝陣営にいましたから、なおさらそう思います。現代でも「ここで謝っておけば」というところで意地を張り通す人はたくさんいますから、そういうところは昔も今も変わらないところです。

I:一方の山内首藤経俊は〈死にたくない。佐殿に会わせてほしい。私は大庭に無理やり引きずり込まれた〉と醜態をさらします。

A:結果ふたりの運命はどうなったか?  ここでも「乳母」の存在が生死を分けました。山内首藤経俊は許されましたが、大庭景親は、首をはねられたうえに首がさらされます。またまた1979年の『草燃える』に触れて恐縮ですが、『草燃える』で景親の首がさらされた場面は小学生だった私にとって強く印象に残るシーンになりました。『鎌倉殿の13人』では首桶の登場シーンはありましたが、「首」そのものの描写はありません。これも時代なんでしょうか。

I:時政が発した〈ひとつ間違えばわしらの首があそこにかけられていた〉という台詞には実感がこもっていました。殺るか、殺られるか、坂東武士らの空気感をよく表していると思いました。「首」そのものを描写するよりも印象深いシーンになったのではないでしょうか。

さらされた大庭景親(演・國村隼)の首を眺める時政(左/演・坂東彌十郎)と義澄(右/演・佐藤B作)。

「THE 中世」の描写を目に焼き付けたい

I:さて、今週は市川猿之助さん演じる文覚が再登場しました。

A:相変わらず怪しいキャラでした。古典『平家物語』では、後白河法皇(演・西田敏行)との絡みも叙述されていますが、劇中、法皇から文覚に「人を呪い殺すことはできるか」という御下問がありました。

I:この時期に法皇が呪い殺したい相手といえば……。

A:誰でしょうね(ニヤニヤ)?  なんかゾクソクしてきますね。しかし、本作は、今週の「呪詛」だけではなく、挙兵日を決める際の御籤や全成(演・新納慎也)が「星をよみ、易をする」いくつかのシーン、さらに頼朝の夢に現れる後白河院など、「THE 中世!」ともいえる場面が効果的に挿入されてきますね。

I:現代からみたら「非科学的」ですが、当時の人たちにとっては当たり前の「日常」だったのでしょう。そうした文脈で文覚や全成を見ると面白さがより増しますね。

A:さて、今週は、頼朝弟の源範頼(演・迫田孝也)が登場しました。一足早く登場した義経はなんと、政子(演・小池栄子)に甘えて膝枕。大河では過去にも数多の「膝枕シーン」が描かれましたが、今回の義経・政子の膝枕シーンは、ビーズクッションのCMのように「その膝に飛び込んでしまいたい」という錯覚に襲われたという方もいたようです。

I:それは小池栄子さんの佇まいと菅田将暉さんの演技力によるものが大だと思われます(笑)。さて、頼朝、範頼、全成、義経の「源氏四兄弟」が一堂に会するシーンが登場しました。

A:なんだか感慨深いですね。頼朝の危機に集結した「源氏兄弟」。ウルトラマンAの危機にウルトラ兄弟が集結した場面が思い出されます。

I:時系列的には、ウルトラ兄弟の集結が、源氏兄弟の集結をなぞったんだと思いますけどね(笑)。

A:さて、まず頼朝、範頼、全成、義経の「源氏四兄弟」集結時のやり取りは、60年以上続く大河ドラマの歴史の中でも屈指の名場面になったと感じています。大げさではなく、この時代の、あるいは源氏のファンの方々にとっては、涙を禁じ得なかったという人もいたのではないでしょうか。土佐の希義(まれよし)が鎌倉に来ていたら……私は改めてそう思ったりしました。

I:〈こうやって兄弟が揃うのはうれしいものだ〉という頼朝の言葉は本音でしょうね。

A:そう思いたいです(しみじみ)。しかし、義経が範頼に対して〈そちら(の母)は確か遊女でしたよね〉と、直球過ぎる言葉を発したり、頼朝が平治の乱後に兄弟そろって清盛と面会した時のことを回想したりと、「大河でこんなシーンが見られるとは!」という思いです。

I:まるでコントのようなやり取りでしたが、この短いシーンで、兄弟の性格、関係性を簡潔にわかりやすく説明してくれました。そんな中でしっかりと〈弟たちよ。源氏再興のために血を分けたそちたちが頼りだ。坂東の者どもは信じ切ることができぬ〉という重みのある台詞も織り込まれました。

A:(うなずきながら)この場面、実は凄いシーンですよね。ところで、弟たちは、その頼朝の思いをどれだけ理解したのでしょうか。源氏の兄弟が結集して、それぞれが権力を持つことは、坂東武士たちが望むところではない。両者がどうせめぎ合っていくのか、手に汗握る場面が続出する予感しかしませんし、彼らの行く末に思いを馳せると胸に迫りくるものを感じます。

I:さて、兄弟集結のシーンにはいなかった「もうひとりの弟」、かつて乙若だった義円(成河)が鎌倉にやってきました。園城寺で僧になっていたこと、幼いながらも『孫子』の一節をそらんじていたことは兄弟集結シーンで説明されていましたが、なぜ五兄弟揃い踏みのシーンにしなかったのでしょう。そこだけ不思議でした。

A:言われてみれば……。何か意味ありげですね。何か驚くべきしかけが用意されているのかもしれません……。ところで、同じシーンで義時(演・小栗旬)のことを「五番目の弟」という扱いにしていました。山本みなみ氏の著書『史伝 北条義時』の受け売りですが、『吾妻鏡』には義時が「家子専一」と頼朝から破格の扱いを受けていたことが記されているそうです。そのくだりを読んでいましたから、あのシーンは「なるほど~」という感じでしたね。

I:受け売りといえば、政子に「打出の作法」を伝授していた時政の後妻りく(演・宮沢りえ)ですが、『史伝 北条義時』にはその出自が詳しく説明されていて、なぜ大きな顔をしていられるのかよく理解できました(笑)。

武田より佐竹、「佐竹最強説」

I:義経が佐竹攻めで500の兵をくれと談判しました。佐竹は甲斐の武田同様に源義光の子孫になるのですよね。武田信義に触れた際に402年後の武田勝頼の代に滅亡したことを紹介しましたが、この佐竹氏は、中世を生き残ります。さらに関ヶ原の合戦で東西両軍いずれにも与しなかったことで、家康の不興を買い、400年にわたって領した常陸から出羽秋田に移封されたものの秋田藩主として明治維新まで家名を保ちます。

A:しかも現在の秋田県知事・佐竹敬久氏は、分家筋とはいえ、末裔のひとり。かつての藩医の家系が創業した製薬メーカーのCMで「秋田のハーブ入ってますね~」とか言っている人がそうですね。頼朝の時代から約840年。最終的に「勝者、佐竹!」っていう感じになるのでしょうか。そう思うと感慨深いです。結局「目立たぬよう、滅びぬよう」という処世術が最強なのかもしれないです。来年の大河『どうする家康』でも佐竹氏が登場したら面白いですよね。

I:ところで、ラストの義円を凝視する義経の視線が怖いです。今若、乙若、牛若の常磐御前三兄弟の行方にも注目ですね。

今週も怪しさ全開だった文覚(演・市川猿之助)。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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