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朝の雲、パラナ州テラ・ボア、1952年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

朝の雲、パラナ州テラ・ボア、1952年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

文/高橋義隆

山梨県にある清里フォトアートミュージアムにて「大原治雄 ブラジルの光、家族の風景」と題された写真展が開催されている。恥ずかしながらこれまで大原の名前を知らず、この展示で初めてその作品を見ることとなった。

建物は清里の自然に囲まれ、厳かに佇んでいた。会場に入り展示室へ案内されると、ブラジルの大地を背景とした大原治雄のモノクロ写真が掛けられ、静かにその存在感を放っていた。展覧会のタイトルにあるように、家族と風景が主な被写体となった写真で多くを占めていた。そして、そこには大原治雄の対象に対する確かな感情が、眼差しとなって反映されているように思えた。

セルフポートレイト:富田農園の竹林にて、パラナ州ロンドリーナ、1953年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

セルフポートレイト:富田農園の竹林にて、パラナ州ロンドリーナ、1953年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

大原治雄は1909年高知県に生まれ、17歳のとき家族とともにブラジルへ農民移民として渡った。以来1999年に亡くなるまで、この地で生涯を過ごした。24歳のとき結婚、その頃写真に興味を持ちはじめ、カメラを手にした。記録するためだという。実際、彼の撮る対象の多くは家族であり、最初の被写体は妻であった。つまり写真を始めた理由は奇を衒わず、至ってシンプルな動機であった。

本業はコーヒー豆や果樹の栽培といった農業経営である。こうした仕事の合間を縫いながら家族の他に農園での様子などを撮っていたが、大きな空が書き割りのように広がるブラジルの大地や、また光の照度を計算した造形的な画面構成の写真も撮るなど、表現の幅が広がりがあり、実験精神に富んでいた。

眞田準の農園、パラナ州ロンドリーナ、1955年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

眞田準の農園、パラナ州ロンドリーナ、1955年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

泥:ブラジル通り、パラナ州ロンドリーナ、1950年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

泥:ブラジル通り、パラナ州ロンドリーナ、1950年(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

家族の集合写真、パラナ州ロンドリーナ、シャカラ・アララ、1950年頃(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

家族の集合写真、パラナ州ロンドリーナ、シャカラ・アララ、1950年頃(C)Haruo Ohara / Instituto Moreira Salles collection

写真家として大原の特異な点は、あくまで家族や仕事の記録としてカメラを手にしたことだ。作品を作るという自意識よりも以前に、日常の営みを優先した結果の写真であった。それが徐々に一個の作品としての強さを持つようになっていった様が展示を見ていても伝わってきた。

大原とほぼ同年代の写真家に植田正治がいた。植田は終生故郷である鳥取県で写真活動を行ってきた。たぶん彼らはお互いのことを知ることはなかったであろう。だが、生活環境に根ざして写真を撮り続けたという意味で共通する点がある。植田が撮る鳥取砂丘の風景と大原の撮るブラジルの大地と空に、画面構成は違えど、根底に共通する同時代意識が伏在していたように感じられた。

今回の展示は182点だが、約2万枚のネガが残されているという。家族とその周辺を撮り続けた姿勢と、そうしたプライベートな対象の写真が死後17年を経て、ここ日本で展示されたことによって、写真のもつ普遍性と表現としての写真とは何かを改めて考えさせられた。

 

【大原治雄 ブラジルの光、家族の風景】
■会期/開催中~12月4日(日)まで
■会場/清里フォトアートミュージアム
■休館日/毎週火曜日

文/高橋義隆
ライター。『日本写真年鑑』(日本写真協会より刊行)にて写真家へのインタビュー、書評等を執筆。また、同人による「写真の会」では写真に関する批評等を寄稿している。近々、5人の写真家を取り上げた初めての単行本を刊行予定(青弓社)。

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