クラシックカーラリーのとりことなり、世界中のイベントに参戦!
ミュージアムの経営は順調で、年を追う毎に来館者数は増えます。そして開設から11年、正弘さんが50歳を迎えた年。クラシックカーラリーを主催する団体から「大会のスポンサーになって欲しい」との依頼を受けます。
「当時はクラシックカーラリーをよく知らなかったのですが『自動車文化に貢献でき、ミュージアムの宣伝になるのなら』と、二つ返事で了承しました。イベントの当日、運営の用意してくれたアルファロメオ『ジュリエッタ』で、私も競技に参加したのですが、とても楽しく、終わる頃にはクラシックカーラリーのとりこになっていましたね」
自身のクルマでクラシックカーラリーに参加すべく、正弘さんもアルファロメオ『ジュリエッタ1600スパイダー(1963年式)』を購入。次いでブガッティの『タイプ38(1927年式)』を購入します。
「水が合ったのでしょう。かつてダートトライアルやサーキットの競技では成績を残せなかったのですが、クラシックカーラリーは安定して上位に入ることができました。そうなるとやっぱり居心地の良い思いができ『次も頑張ろう!』って気にさせられますね」
クラシックカーラリーにすっかりはまった正弘さん。国内で開催されるイベントだけでなく、『ミッレミリア』や『タルガ・フローリオ・クラシック』といったイタリアで開催されるイベントにも参戦するなど、本格的に取り組みます。
「出走したどのイベントも、思い出深いのですが……。フェアレディZで出走した2015年のグレートレースと2018年のラリーモンテカルロヒストリックは、強く記憶に残っていますね」
『グレートレース』はアメリカで催される最大規模のクラシックカーラリーのことで、「アメリカのマザーロード」と称されるルート66の走破を目指します。『ラリーモンテカルロヒストリック』はヨーロッパ、モナコ公国を中心に催される競技です。
「グレートレースには1972年のフェアレディZで出走しました。アメリカの広大な自然ももちろんですが、ルート66沿いは朽ちた家屋がそのまま残る、とても刺激的な光景でしたね」
「ラリーモンテカルロヒストリックで乗ったフェアレディZは、日産が1972年のモンテカルロラリーに持ち込み、3位に入賞した車両です。レストアや出走に際し、日産から多くの協力を得ることができました」
実用車に三菱の『アウトランダー』や『エクリプスクロス』、メルセデス・ベンツを乗り継ぐ正弘さん。クラシックカーラリーに巡り会ったことで精神的な充足を得て、ミュージアムの運営に一層、情熱を注ぎます。
クルマのおかげで、彩りのあるワクワクした人生に
2019年の秋から始まった新型コロナウィルス(COVID‑19)の流行により、正弘さんは日々、ミュージアムの運営を続けるための対策に追われます。また参加を予定していたクラシックカーラリーも軒並み中止となり、スケジュールも大きな修正を余儀なくされました。
「生きがいを奪われたような気持ちですが、こればかりは仕方ありません。今は一刻も早く疫病が終息し、お客様が気がねなくミュージアムに訪れ、楽しんでもらえるようになることと、クラシックカーラリーをはじめとした自動車イベントが開催されることを願うばかりです。あっと言う間に年齢を取ってしまいましたが、若かった頃に欲しかったクルマが買えたときの喜びは、今でも忘れられません。クルマのおかげでワクワクした人生になりました。本当に感謝しています」
人目を気にすることなく真っ直ぐクルマと向き合うことで、最良の仕事と趣味に巡り会った正弘さん。これからも人を喜ばせるため、なにより自身が幸せになるためにミュージアムを運営し、クラシックカーとメルセデス・ベンツのハンドルを握り続けます。
取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ゲーム雑誌の編集者からライターに転向し、自動車やゴルフ、自然科学等、多岐に渡るジャンルで活動する。またティーン向けノベルや児童書の執筆も手がける。