前回紹介の「ブルーノート・レコードのシングル盤」の続きです。詳細にデータを整理してみました。
ここでは「ブルーノートのシングルの時代」として、1955年リリースの1626番から1972年の1983番までの、連番がついたシングル盤を見ていきます。番号の上では全部で358枚になりますが、このうち使われなかった番号が4枚分あり、付番され収録曲も決まっていながらリリースされなかった盤が27枚あります。ということで、実際発売されたのは327枚ということになります。
さて、その327枚中、誰のシングルがいちばん多かったでしょうか。このランクが「売り上げに貢献した順」=「ブルーノート・レコードを経済的に支えた順」といえるでしょう。ブルーノートのシングル盤は、ほとんどがA面とB面が同じアーティスト名義ですが、わずかにA面B面で別のものもありますので、ここではA面だけを見ていきます。
ちなみに、一般にシングル盤はA面B面各1曲収録ですが、ブルーノートに限らずジャズは演奏時間が長いので、アルバムの音源を使用する場合は短くエディット(テープのつぎはぎですね)されていることがほとんどです。またエディットせずに「Part 1, 2」に分けてA面からB面に繋げているものもあります。
……結果です。
第1位:ジミー・スミス(オルガン) 40枚
第2位:ホレス・シルヴァー(ピアノ) 31枚
第3位:ルー・ドナルドソン(アルト・サックス) 27枚
第4位:ザ・スリー・サウンズ(ピアノ・トリオ) 25枚
第5位:スタンリー・タレンタイン(テナー・サックス) 14枚
なお、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズは12枚、ザ・ジャズ・メッセンジャーズ名義(メンバーにはホレス・シルヴァー含む)が2枚、アート・ブレイキー単独と共作名義は7枚あるので、それらを入れればアート・ブレイキー(ドラムス)が第5位ともいえます。
ジミー・スミスはアルバムも膨大な枚数をリリースしていますので、第1位は予想通り、という感じですよね。それにしても割合からして10枚に1枚以上がスミスのシングルというのはすごい。しかし、2位以下はかなり意外な結果だったのではないでしょうか。とくに第4位のザ・スリー・サウンズ、第5位のタレンタインは、日本での人気の度合いからはなかなか想像ができません。ほかにも上位には同様のアーティストが並び、例えばアイク・ケベック(テナー・サックス)が11枚(しかも未発売が6枚あり)、グラント・グリーン(ギター)が8枚、ベニー・グリーン(トロンボーン)が6枚もあります。ブルノートに長く在籍した看板スターのひとりであるリー・モーガン(トランペット)が7枚ですので、それらから比べても当時のシングル盤レコードは、アルバムとは別の観点から人選・発売されていたと想像できます(モーガンは72年2月没)。
シングル盤は、アルバムのように多くの中古盤の流通はなく、CDでもその音源はなかなか聴けませんが、そこにはアルバムとは違う「ジャズの歴史」「レーベルの歴史」があるのです。
(参考資料:jazz Discography Project [www.jazzdisco.org/]
文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。