前回に続いて、ジャズのシングル盤について。モダン・ジャズ時代にジャズのレコード会社がこぞってシングル盤市場に参戦したと紹介しましたが、実際どれくらいリリースされていたか調べてみました。モダン・ジャズを代表するレーベルであるブルーノート・レコードを見てみましょう。ブルーノートのシングル盤(7インチ45回転)は、同社のLPレコード同様に整然と付番されて発売されました。LPでは1500番シリーズと4000番シリーズが知られますが、シングル盤は1600番台からスタートします。ただし最初は混乱があったようです。
最初のレコードは、1955年リリースのBN45-1626番『メッセージ・フロム・ケニア/ナッシング・バット・ザ・ソウル』で、A面はアート・ブレイキーとサブー、B面はアート・ブレイキーの名義でした。なぜ半端な1626番だったかというと、この当時はまだSPレコードも発売しており、1626番は同じ音源のSP盤の番号でした。アタマに何も付かない1626番がSPで、「BN45」が付くのが7インチ45回転のシングル盤。番号を共有したのです。SPもしばらくは発売継続を考えていたのでしょう。このあとSPは1627、28、29番と発売しますが、そこで終了。シングル盤は様子見だったのか同番号では発売されず、1627、28、29は欠番にして、BN45-1630番から連番で本格スタートとなりました。そしてその後は1700番台に続き、そして1800番台になり1983番まで続きます(欠番20枚ほどあり)。1983番のリリースは1972年の終わり頃。このあともリリースが続きますが、レコード会社の体制が変わって連番ではなくなります。連番の時代を一区切りにすると、(60年代後半はペースが下がっていますが)約17年間で約330枚。これをブルーノートのジャズ・シングルの時代とくくってみましょう。ブルーノートは同時期にはアルバムを400枚以上リリースしていますが、この数はかなり意外な、大きな数字ではないでしょうか。
これだけのアイテム数をコンスタントにリリースしていたということは、当然需要があったということ。おそらく売上「枚数」はアルバムを大きく超えていたことでしょう。2014年にリリースされた、ブルーノート・レコードのシングル盤音源を集めたCD5枚組ボックス・セット『Uncompromising Expression-The Singles Collection』の解説冒頭には、こんな言葉があります。「ブルーノートのアルバムはジャズの聖杯といわれていますが、かつてはシングル盤が同社のビジネスの生命線であった時代もありました。(大意)」。つまり極端な言い方をすれば、シングル盤は「商品」として「作品(=アルバム)」制作を支えていたのです。実際、シングル盤のラインナップを見ると、アルバムの作品系列とはかなり異なっています。のちの時代の「アルバムからのシングル・カット」とはまったく違う観点から、シングル用楽曲が選ばれているのです。アルバムと同じ音源でも、アルバムでの名義と変えているレコードも少なくありません。もちろんどれも「売るため」の戦略ですね。次回はさらに踏み込んで紹介していきます。
(参考資料:jazz Discography Project [www.jazzdisco.org/]、45cat [http://www.45cat.com/])
文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。