文/池上信次

いきなりですが、まず問題です。下記の3枚はいずれも「モダン・ジャズの名盤」として、最初に挙げられるほど有名なアルバムですが、これらの共通点はなんでしょうか?

(1)ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』

(1)ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』

(2)ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』

(2)ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』

(3)キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』

(3)キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』

モダン・ジャズ・ファンを自認する方ならすぐに答えがいくつも出てくると思います。まず、いずれもブルーノート・レーベルのアルバムであること。となれば(この時代は)、プロデューサーがアルフレッド・ライオン、ジャケット・デザインがリード・マイルズ、写真撮影がフランシス・ウルフというのも共通項となります(『サムシン・エルス』は裏ジャケに写真があります)。さらに詳しい方なら、録音エンジニアがルディ・ヴァン・ゲルダーということにもお気づきでしょう。ブルーノート・レーベルというのは、このチームで作られていたのです。ですから「ブルーノート」というだけでも、そこには多くの情報が内包されているのですね。

では「ブルーノート」以外の点ではどうでしょうか? ヒントは録音日。(1)は1957年9月15日、(2)は1958年1月5日、(3)は1958年3月9日です。と書いてもじつはほとんどヒントにはならない(というかこれだけでわかった人はすごい)のですが、その答は……「録音されたのが日曜日」でした。

ジャズのレコード、CDには必ずといっていいほど録音日が記載されています。しかしながらさすがに曜日までは記載されていません(アルバム・タイトルにしているものはありますが)。それでは、と思って調べてみたのが上記の結果でした。ちなみに同じころ(1956~57年)のブルーノート・レーベルのアルバム録音日の曜日を調べてみると、なんと……

*リー・モーガン『リー・モーガン vol.3』
*ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ vol.2』
*ポール・チェンバース『ベース・オン・トップ』
*ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』
*ハンク・モブレー『ハンク・モブレー』
*ソニー・クラーク『ダイヤル・S・フォー・ソニー』
*ソニー・ロリンズ『ニュークス・タイム』

これら「名盤」の録音日は、どれも日曜日だったのです! これには驚きました。(本原稿のタイトルですでにネタバレでしたが)「名盤は日曜日に生まれる!」というか「生まれていた」のです。

では、なぜ日曜日だったのでしょうか。これは調べてみたところ、「スタジオの都合」によることのようです。当時、ブルーノート・レコードは、録音をフリーランスのエンジニアであるルディ・ヴァン・ゲルダーに依頼していました。ヴァン・ゲルダーはニュージャージー州ハッケンサックの自宅を改造したルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)・スタジオで録音を行なっており、ブルーノートのほかにも、たとえばプレスティッジやサヴォイといったジャズ・レーベルなど、多くの録音を請け負っていました。当時、ブルーノートもプレスティッジもコンスタントに多数のレコーディング・セッションを行なっており、RVGスタジオはかなりの混雑状態でした。そこで、ヴァン・ゲルダーとレコード会社各社は円滑な録音のためにブルーノートは日曜日、プレスティッジはX曜日(これもはっきりしました。次の機会で紹介)という形で定期使用の申し合わせを行なったと思われます(実際例外は多数あり)。

というわけで、じつはブルーノートのこの時期のアルバムは、「名盤」以前に「日曜録音盤」がたいへん多いということなのでした。でもしかし、「名盤」が多いというのは、やはりこの時期のブルーノートは総じてレベルが高かったということなのでしょう。

ではなぜブルーノートが「日曜日」を選んだのか。ここからは想像ですが、休日ですから日常業務に時間を割かれず、ハッケンサックはマンハッタンからハドソン川を渡った郊外ということもあり、スタッフ、ミュージシャンともにじっくりと録音に集中できたからかも。だから「名盤」率が高くなったのか。あるいは、ヴァン・ゲルダーが日曜日を選んだのだとしたらその理由は……?

……というぐあいに、たんなる記録である録音日データでも、読み方次第でさまざまな想像(妄想?)が広がっていくのですね。ジャズの聴き方は、まだまだいろいろあるのです。

(データ協力:菅原正晴/この記事は池上信次と菅原正晴が『ブルーノート』(河出書房新社/2012年)で発表した論考をベースにしています)

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1)ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』(ブルーノート)

演奏:ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、リー・モーダン(トランペット)、ケニー・ドリュー(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1957年9月15日

2)ソニー・クラーク『クール・ストラッティン』(ブルーノート)

演奏:ソニー・クラーク(ピアノ)、アート・ファーマー(トランペット)、ジャッキー・マクリーン(アルト・サックス)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1958年1月5日

3)キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』(ブルーノート)

演奏:キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)、マイルス・デイヴィス(トランペット)、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1958年3月9日

————-

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。先般、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ001/マイルス・デイヴィス絶対名曲20 』(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)を上梓した。編集者としては、『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

 

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