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相次ぐ相棒の死去で巨匠作曲家が作詞家へ転身?【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道29】

文/池上信次

第29回ジャズ・スタンダード必聴名曲(18)「ザ・スウィーテスト・サウンズ」

ペギー・リー『シュガー・ン・スパイス』

ペギー・リー『シュガー・ン・スパイス』

作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世のコンビ「ロジャース&ハマースタイン」は、60年のハマースタインの死去により活動が終わりました。その前の「ロジャース&ハート」も相棒ロレンツ・ハートが亡なってしまったという、ロジャースは悲運の作曲家なのですが、今回はその後のロジャースの活動を見ていきましょう。

作曲家リチャード・ロジャースの活動

ハマースタインの死去後、ロジャースが最初に手がけたミュージカルは62年3月ブロードウェイ初演の『ノー・ストリングス』でしたが、ここでロジャースは新たなパートナーとしての作詞家は起用しませんでした。ミュージカルでは10数曲が使われていますが、なんと自身ですべての作詞と作曲の両方を担当したのです。『ノー・ストリングス』はブロードウェイで580回上演され、トニー賞の最優秀楽曲賞、主演女優賞、最優秀振付賞の3部門を受賞。翌63年にはロンドンのウエストエンドでも公演されるヒットとなりました。

そしてここからは、1曲のジャズ・スタンダード曲が生まれました。タイトルは「ザ・スウィーテスト・サウンズ(The Sweetest Sounds)」。この曲は「&ハマースタイン」のスタイルである「特定ミュージカルの特定シーンのための曲」というタイプではなく、97年のディズニー・テレビ映画『シンデレラ』(57年のロジャース&ハマースタインによる同名作品のリメイク)でも使われたように、「汎用性の高い」ラヴ・ソングなのでした。ロジャースはおそらく「&ハマースタイン」との違いを印象づけるため、意識的にかつての「&ハート」的な、メロディ優先のポップス曲を書いたと考えられます。

この「汎用性」の高い名曲に、すぐに多くのジャズマンが反応しました。舞台の主演は、ジャズも歌う女優ダイアン・キャロル(Diahann Carroll)ということもあって注目度も高かったのかもしれません。ミュージカル公開直後にペギー・リーが早くも録音しています。翌年にはナンシー・ウィルソン、ブロッサム・ディアリー、その翌年にはエラ・フィッツジェラルド、パティ・ペイジといったように、ヴォーカリストの間に急速に広まっていったのです。

インストでも公開後すぐの6月にボビー・ティモンズ(ピアノ)が、12月にザ・スリー・サウンズ(ジーン・ハリス率いるピアノ・トリオ)が録音。ともにミュージカル楽曲集というアルバムで、どちらも1曲目に収録しているのは偶然とは思えません。9月にはアート・ファーマー(トランペット)、翌年にはケニー・バレル(ギター)、カイ・ウィンディングやJ・J・ジョンソン(ともにトロンボーン)が取り上げています。

また、62年にクリス・コナー(ヴォーカル)がシングル盤を出していますが、これはハービー・マン(フルート)らとによる『ノー・ストリングス』のジャズ・アレンジを集めたオムニバスLP『ノー・ストリングス・アフター・シアター・ヴァージョン』(アトランティック)からのカット。ミュージカル公開後すぐにこんなアルバムが作られるほどですから、ちょっと異例の盛り上がり具合ですね。このミュージカルは上演記録の数字だけではわからない、(ジャズ関連ネタを含む?)話題作・ヒット作だったのかもしれません。

「ロジャース&ハマースタイン」の最後の作品は『サウンド・オブ・ミュージック』

ちなみに、「ロジャース&ハマースタイン」の最後の作品、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』は65年にロバート・ワイズ監督、ジュリー・アンドリュース主演により映画化されました。その際、曲の多くはミュージカル版から流用されましたが、映画のための新曲もありました。「アイ・ハヴ・コンフィデンス(自信を持って)」と「サムシング・グッド(何かよいこと)」の2曲ですが、これもロジャースの作詞作曲でした。しかしこれらは「&ハマースタイン」的ミュージカル楽曲で、ジャズで取り上げられることはほとんどないようです。ですから「ザ・スウィーテスト・サウンズ」は、やはり意図して書かれたヒット狙いの「ポップス」で、ジャズマンたちはそれに乗った、あるいは乗せられた、というところでしょうか。

その後、ロジャースは『屋根の上のバイオリン弾き』を書いた作詞家のシェルドン・ハーニックやマーティン・チャーニン(のちに『アニー』で知られる)とコンビを組み、再び作曲をメインに活動し続けました。ロジャースが亡くなったのは79年12月30日。その晩、ブロードウェイのすべての劇場は、灯りを消してその死を悼みました。

「ザ・スウィーテスト・サウンズ」の名演収録アルバムと聴きどころ
(1)ペギー・リー『シュガー・ン・スパイス』(キャピトル)
ペギー・リー『シュガー・ン・スパイス』

ペギー・リー『シュガー・ン・スパイス』

演奏:ペギー・リー(ヴォーカル)、ベニー・カーター(指揮)
録音:1962年3月28日〜4月4日

ベニー・カーター指揮のオーケストラをバックに、8ビートのリズムに乗せてノリノリで歌うペギー・リー。もうずっと歌ってきていたかのようなこなれ具合なのですが、なんと録音はブロードウェイ初演直後なのです。第25回で紹介したように、仲はよくないでしょうから売り込みはあり得ないので、公演前から楽譜が公開されていたのでしょうか。ピカピカの新曲を「自分の曲」にして、ロジャースにケンカを売っていたりして。

(2)ボビー・ティモンズ『スウィート・アンド・ソウルフル・サウンド』(リヴァーサイド)
ボビー・ティモンズ『スウィート・アンド・ソウルフル・サウンド』

ボビー・ティモンズ『スウィート・アンド・ソウルフル・サウンド』

演奏:ボビー・ティモンズ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、ロイ・マッカーディ(ドラムス)
録音:1962年6月19日

ボビー・ティモンズは、ファンキー・ジャズの代表曲「モーニン」の作曲者として知られ、ジョーンズとはキャノンボール・アダレイのグループの同僚。マッカーディものちに同グループに参加するという顔ぶれだけにファンキー濃度の高い演奏が予想されます。が、ここではそれに反して速いテンポで、意外にも軽快なビバップ・ピアノを聴かせます。3人のコンビネーションもじつに緊密。いつもと違うレパートリーでいつもと違う一面を見せた、というところ。

(3)ザ・スリー・サウンズ『プレイ・ジャズ・オン・ブロードウェイ』(マーキュリー)
ザ・スリー・サウンズ『プレイ・ジャズ・オン・ブロードウェイ』

ザ・スリー・サウンズ『プレイ・ジャズ・オン・ブロードウェイ』

演奏:ザ・スリー・サウンズ[ジーン・ハリス(ピアノ)、アンディ・シンプキンス(ベース)、ビル・ダウディ(ドラムス)]
録音:1962年12月14、15日

ジーン・ハリスもティモンズと同じように、特徴はブルージーなテイスト。このアルバムはティモンズと同じ編成で同じミュージカル集、しかも同じこの曲を1曲目にしているというのですから、(当人の考えはわかりませんが)比べて聴かないわけにはいきません。こちらは対照的にテンポをぐっと落として、タメを効かせてブルース・フィーリングを強調。そしてさらに3拍子にアレンジ。この曲のメロディは3拍子に乗せてもまったく違和感がないのです。同じ素材がここまで違う形になるのですね。

(4)イーディー・ゴーメ『ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノヴァ(国内盤タイトル:ギフト)』(コロンビア)

演奏:イーディー・ゴーメ(ヴォーカル)
録音:1962〜63年

イーディ・ゴーメのこのアルバムは、日本では収録曲の「ザ・ギフト(リカード・ボサ・ノヴァ)」が1980年代にテレビCMで使われてから注目されましたが、アメリカでは初発表時の63年にタイトル曲がミリオン・セラーになっています。それはいち早くボサ・ノヴァを紹介していたから(「イパネマの娘」は64年)。というわけで、「ザ・スウィーテスト・サウンド」もここではボサ・ノヴァになっています。いかようにも料理できる、懐の広い曲なのですね。

(5)セシル・マクロリン・サルヴァント『ザ・ウィンドウ』(マックアヴェニュー)

演奏:セシル・マクロリン・サルヴァント(ヴォーカル)、サリバン・フォートナー(ピアノ)
発表:2018年

2016年、17年の2年連続でグラミー賞最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞したセシル。ここではピアノとのデュオで。約5分の演奏ですが、じつは大半はピアノだけ。ヴォーカルはアタマの1コーラスに集中。あとの3分50秒ほどはソロ・ピアノなのですが、これが素晴らしいのです。ソロとはいえ曲から離れることはなく、その中でどこまで自由自在に変化し続けることができるかという挑戦です。その方向性を決めたのが冒頭のデュオ部分。どこまでも広がっていきそうな伸びやかな歌声は一度聴いたら忘れられません。

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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