泣いても笑っても残り2話。いよいよ佳境に突入した『麒麟がくる』。光秀の背中を押したのは、朝廷なのか、将軍義昭なのか、はたまた家康か――。いったいどんな結末が待っているのか?
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ライターI(以下I):いよいよ本能寺の変まで今回含め残り3話になりました。いったいどんな結末になるのか、本当に予想がつきません。今週の第42話冒頭では前週の正親町天皇(演・坂東玉三郎)が、そのまま登場しました。〈信長が道を間違えぬようしかと見届けよ〉って、2週続けて聞くと、やっぱり朝廷による「光秀洗脳」感が私の中で強まりました。
編集者A(以下A):仮に光秀が朝廷に洗脳されていたとすれば、〈この世が平らかになるにはそなたの力に負うところがあるやもしれぬ〉の台詞が光秀の自尊心をくすぐるんでしょうね。確かに2週続けて聞くと、その線もありかとも思ってしまいます。
I:まぁでも、そんな単純なストーリーにはならないんでしょうけど……。
A:正親町天皇のシーンのあとは、荒木村重(演・松角洋平)の信長からの離反が描かれました。光秀息女の岸(演・天野菜月)が村重嫡男の村次に嫁いでいるので、明智家と荒木家は縁戚になります。光秀も〈身内として腹蔵なく話して参ったが〉と話していましたが、唐突感は否めなかったですね。
I:39話で煕子(演・木村文乃)が病気になった際に、岸が〈荒木の義父にお許しをいただいて参りました〉というシーンはありましたけどね。
A:村重は、〈信長様はわしに摂津の国を任せると仰せられながら摂津の国衆や寺社から過酷な税をとり、国衆たちがわしを恨み、離れていくことを素知らぬ顔で見ておられる〉と信長への怒りを吐露します。劇中では描かれませんが、黒田官兵衛孝高が活躍するところですね。
I:大和の国の守護の座を筒井順慶(演・駿河太郎)に横取りされたと思った松永久秀(演・吉田鋼太郎)同様に、外様に対する信長の雑な扱いが招いた事件だというのがわかります。この部分をもう少し丁寧に描いて欲しかったという人も多いのではないでしょうか。
A:三重大の藤田達生教授の著書『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』の受け売りですが、荒木村重に対して足利義昭(演・滝藤賢一)側近の小林家孝らが、村重の説得にあたったことが記されています。
I:当時、備後の鞆の浦(広島県福山市)にいた足利義昭ですが、各地の大名らに御内書を送って味方するように促す姿が描かれました。前出の藤田教授の著書には鞆の浦に滞在する義昭の動向も詳しく描かれていますね。
A:はい。ただし、光秀が義昭を訪ねたということは書かれていません(笑)。〈すべての争いが公方様につながっておる〉というのは事実かもしれませんが。
I:でもなんだか自然なシーンでしたよね。私は、長谷川博己さんと滝藤賢一さんのシーンが見られて嬉しかったです。後半戦は駆け足でしたが、このふたりの過去のシーンを思い起こしながら見ると、うるうるしてしまいました。〈いつ魚がかかるかわからぬ。手が離せぬ〉〈日なが糸を垂らしておると一匹は釣れる〉という台詞は、御内書を各地の大名に出しまくっていることとかけている印象でした。将軍があまりにも不器用でかわいそうでした。
A:鞆の浦でのこのシーンを設定したのは、これをいわせるためだったのでは?と思わせる台詞がありました。京に戻るように促す光秀に対して義昭が発した〈そなたひとりの京であれば考えもしよう〉という台詞です。
I:暗に信長を討てと言っているようにも聞こえます。
A:そう。そのやり取りのためだけにふたりは釣りをしたわけです。冒頭で「本能寺には朝廷関与説か」と思わせておいてのこのシーンです。「やっぱり義昭なのか!」と。
I:Aさんは何度か鞆の浦にも取材に行っているんですよね。
A: 劇中、光秀と義昭が釣りをした鞆の浦の海を船で見学しました。義昭ゆかりの場所もいくつか残されています。印象的なのは、山中鹿之助の首塚があることですかね。もちろん鞆の浦名物の鯛めしもおいしかったですよ。
I:毛利氏に敗れた尼子氏の再興を目指して戦っていた武将ですね。山中鹿之助が討ち取られた際に、将軍義昭に首実検してもらうべく首が鞆の浦に来たんですよね。
【そして、徳川家康が光秀に相談の怪。次ページに続きます】