いよいよ残り3話となった『麒麟がくる』。本能寺の変まであと4年という中で、光秀と秀吉の暗闘が表面化する事態に発展した。
【前編はこちら】
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ライターI(以下I):佐々木蔵之介さん演じる羽柴秀吉が怖いです。今までこんな秀吉いましたか?
編集者A(以下A):本能寺の変が描かれてはいませんが、1987年の『独眼竜政宗』で秀吉を演じた勝新太郎さんも怖いといえば怖かったです。勝さんは当時55歳。現在の佐々木蔵之介さんと3つしか違いません。ただ怖いといっても今回の「蔵之介秀吉」と「勝新秀吉」は質が違いますが……。
I:京の光秀館を播磨出陣前の挨拶に訪れた秀吉に対して、光秀が怒りを顕わにします。前週に、松永久秀から託された平蜘蛛の茶釜の行方を信長に尋ねられた際に、嘘をついてその場をやり過ごそうとしたのが、秀吉の密告でばれてしまったのが癪にさわったようです。
A:先週、信長にバレたというのを光秀が認知するシーンってありましたっけ(笑)?それはともかく、秀吉に怒るのは筋違いかと……。
I:この場面は光秀にシンパシーを抱くか否かで、受け取り方は異なるのではないでしょうか。私は信長に嘘をついた光秀もどうかと思いますが、それを密告した秀吉もどうかと……。
A:まぁ、それは現代的な感覚ですよね。生き馬の目を抜く戦国時代にあってそんな悠長なことは言っていられないという見方もできますし、秀吉の〈(信長に)申し上げれば不義理、申し上げねば不忠の極み〉という台詞は的を射ていると思います。
I:なるほど。私が気になるのは、秀吉に対する光秀の態度が少し上から目線になっているところです。柴田勝家(演・安藤政信)なんかが秀吉に上から指示するというのはありかもしれませんが、光秀の態度が偉そうな感じがするんですよね……。
A:なんかの伏線ですかね? いろいろなところで、反信長の意見を聞いている光秀が、実は周りから「反光秀」で結集されていたというオチになったりして。
I:それは最終回にはわかることです! Aさんもそろそろ、どんな展開になろうともすべてを受け入れる覚悟を持った方がいいですよ(笑)。
A:もちろんその覚悟ですが、気になるところはほかにもあります。秀吉に対する態度もそうですが、それに輪をかけて信長に対する態度も悪い(笑)。
I:確かに。今週も〈本願寺、丹波を平定し、毛利を破りましても、人の心がついてこなければ、天下統一はなり難いと存じます〉とか、松永久秀や足利義昭がなぜ背いたのかと問い質すとか、平気でやってますからね。丹波国衆への寛容な態度とあまりに違いすぎますし。
A:反町隆史さんが信長を演じた2002年の『利家とまつ』で光秀(演・萩原健一)がそんな台詞を言ったら即刻打ち首だったかもしれません(笑)。
I:『麒麟がくる』劇中では、光秀が信長の家臣になったという場面が実は描かれていません。もしかしたら、信長正室の帰蝶(演・川口春奈)のいとことして、客分扱いの設定なのかとも思っちゃいますよね。
A:もしかしたら、そうなのかなとも思いますが、ことここに至ってはすべてそのまま受け入れるのがいいのではないでしょうか?
I:(光秀のように)はっ! この光秀と信長のやり取りの場面は前週同様に安土城240畳セットの大広間が舞台になっていますが、安土城天主が前週よりだいぶできあがっていました。ところで、本作では、信長が正親町天皇(演・坂東玉三郎)に譲位を強いている設定になっています。
A:最近では、信長が譲位を強いたのではなくて、天皇の意志だったという説も根強いですが、今回は前者を採用したということなんでしょう。あくまでドラマですし、必ずしも最新の動向を採用する必要はないのですから、これはこれでいいのではないでしょうか。
【ここで王維の「送別」が登場する意味とは? 次ページに続きます】