正月と気分が乗った週末以外は、“ソムリエ林”が作るクロックムッシュ。それは若き日に、フランスでよく食べた味だ。

林暁男さんの定番・朝めし自慢(平日)】

前列から時計回りに、クロックムッシュ(トースト・炒めたウィンナーソーセージ・玉葱・トマト・溶けるチーズ)、野菜サラダ(キャベツ・チコリ・ピーマン・胡瓜・トマト・玉葱)、カフェオレ。野菜サラダには自家製ドレッシングをかける。これは林さんのオリジナルで、オリーブオイルとワインビネガー、米酢、粒マスタード、塩、胡椒を混ぜたもの。サラダの野菜は、キャベツ以外は畑で育てたものだ。

【林暁男さんの定番・朝めし自慢(週末)】

前列左から時計回りに、フレンチトースト、炒めたウィンナーソーセージ、野菜サラダ(キャベツ・チコリ・ピーマン・胡瓜・トマト・玉葱)、自家製ドレッシング、メープルシロップ、バター、ヨーグルト(自家製の夏蜜柑のマーマレード)、牛乳、カフェオレ。メープルシロップとバターはフレンチトーストにのせて食す。マーマレードは庭で採れる夏蜜柑で手作りしている。牛乳はカフェオレ用。
夏は午前5時、冬は午前6時半頃に起床。自宅近くの畑で朝採れ野菜を収穫してから、朝食は7時半。「60を過ぎた頃から血圧が高くなり、病院の食事指導を受けて8kg減量。以来、わが家の油脂は天ぷら以外、すべてオリーブ油です」と林暁男さん・芳子さん夫妻。

今、日本に3万3000人余りいるというソムリエ。その草分け的存在が、林暁男さんである。

千葉県匝瑳市に生まれた。明治学院大学時代から、将来は航空・旅行・ホテル業界のいずれかにと思っていたが、卒業後は希望通り『ホテルオークラ東京』に入社。2年間のレストラン勤務を経て、25歳で『ホテルオークラアムステルダム』新規開業のために、オランダに出向する。

「僕は日本ではなく、このオランダでソムリエの道に入ったのです」

400種類のワインを揃える同ホテルのフレンチレストランで味や知識を高め、仏語や英語、オランダ語など語学力も磨いた。その後も本場フランスの銘醸蔵元でぶどう栽培からワイン醸造まで、さらに研鑽を重ねてきた。

帰国後は東京のホテルオークラでソムリエとして勤務する傍ら、30代半ばで「日本ソムリエ協会」理事に就任。日本のソムリエ創成期からその最前線に名を連ね、長年にわたり本部役員も務めた。

ソムリエ服で、赤ワインの色調と清澄度を見る。首にかけているのが、ソムリエのシンボルである“タスト・ヴァン”。これはワインを唎くための銀製皿のことだ。
 

10年ほど前に、両親の介護のために夫妻で生まれ故郷に戻り、ソムリエを目指す人たちや百貨店、ワイン小売店などの従業員らに、その管理方法や品質の見極め方などを講師として教えている。

著書に『ワインの基本』がある。ワイン通からワイン入門者までに贈る一冊。ワイン選びからテイスティング、ホームワインの愉しみまで網羅。OLやサラリーマンが、通勤電車の中で読むための電子書籍版もある。

アーティチョークの食用栽培

「小さな町で郊外生活を始め、ひとつ楽しみが増えました。それが約10アールある畑仕事。夫婦ふたりで食べる野菜は、そのほとんどが自給自足です」

朝食にはもちろん、無農薬のそれらの野菜が並ぶ。主食は海外で食べなれたクロックムッシュ。これはフランス発祥のハムやチーズ、野菜をのせたトーストの一種だ。気が向いたら週末には、自慢のフレンチトーストを作ることもある。

「朝食は9割がた、僕が作ります。フレンチトーストはバターを控えている僕にとって、味覚的にもカロリー的にも贅沢な一品です」

手際よく、フレンチトーストを作る。「ふわっと柔らかく仕上げるには、白身をよく泡立ててから黄身を混ぜること。卵液にパンを10分ほど浸し、焦げ目がつくまで焼きます」と林さん。

朝食には登場しないが、日本では珍しい西洋野菜も育てている。食用のアーティチョークだ。

「欧米では初夏の味覚として親しまれ、僕もヨーロッパ時代にはよく前菜として食べました。辛口の白ワインとの相性が抜群です」

アーティチョークは、6月~7月に蕾をつける。萼を1枚ずつ剝くように取り、中心部を食す。慈姑(くわい)のような食感だ。毎年150~200個は収穫でき、知り合いのフレンチやイタリアンレストランに分けている。
秋の畑には、来年用の種を採るためのアーティチョークが残る。

ワインサロンや食育を通して、町を活性化させたい

「ヨーロッパで過ごした20代が、私の基礎を築いた時代。若い時に経験した、穏やかで人間味のあるヨーロッパの田舎暮らしを求めて、故郷でも“プロヴァンスの風を感じて”をキャッチフレーズに、ワインサロンなどを開いています」

このワインサロンは、自宅でワインを試飲しながら、食事との組み合わせなどを愛好者に教える会で、誰でも参加できるという。

自宅敷地内の離れを『ワイン文庫』として一般公開している。ワインに関する専門書から漫画まで、仕事を通じて蒐集してきた蔵書約400冊を閲覧できる(要予約)。

また、今年から『ソムリエ ハウス』という民泊もオープンした。東京オリンピック開催というタイミングと、成田国際空港から近いという地の利を生かして、主に外国人対応の公認民泊だが、もちろん日本人も受け入れている。

『ソムリエ ハウス』は成田国際空港から車で30分ほど。約3000平方mの敷地では四季の自然が楽しめ、和と洋が同居する居心地のいい空間だ。目印はフランス国旗。1泊ひとりの場合4400円、ふたり以上3600円(税別)。問い合わせ:080・3013・7092
民泊のための客室は2室あり、1日ひと組限定で、国内外からの個人の旅人を受け入れている。夫妻で日本語、英語、フランス語に対応。キッチン、ダイニング、リビングは共用だ。

教育者の顔も持つ。未来を託す子供らの健やかな成長を願う気持ちから、食育にも力を注いでいる。

「小学校低学年を中心に、箸やスプーンのマナーからいかに美味しく食べるかを教える。子供たちの感性を刺激するきっかけを作ってやりたいのです。要請があれば、小学校に出向いています」

豊かな心を育てる文化活動なくして、わが町を活性化できないと考えるからである。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆

※この記事は『サライ』本誌2020年12月号より転載しました。

 

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