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僧兵を斬る光秀(演・長谷川博己)。

平安末期の白河上皇の時代から京の為政者を悩ませてきた比叡山延暦寺という宗教勢力。信長に敵対する朝倉義景を匿って、反信長の立場を鮮明にする。信長と配下の光秀は叡山に対してどう立ち向かうのか?

* * *

ライターI(以下I):『麒麟がくる』第33話は、怒涛の如く展開されました。将軍義昭(演・滝藤賢一)が摂津晴門(演・片岡鶴太郎)に怒っていました。個人的に私は視聴率100%ですが、ここにきて急に将軍義昭の人格が変わってきたなと感じました。

編集者A:『半沢直樹』風とも評される摂津の表現は今週もギリギリの線まで攻めていた印象でした。

I:将軍義昭も荒んできましたね。戦のない世にしたい、弱者を救いたいと言い続けてきた義昭が、いつまで経っても戦が終わらないこと、自分の力が実質ほとんどないことにいら立っているんですね。前週で駒(演・門脇麦)に与えた虫が死に絶えてしまい、文字通り虫けら扱いしていましたね。

A:後半戦に入ってから、蟻だ、蝶だ、甲虫だ、百足だ、蜻蛉だと虫の登場が多くなっていますね。前半線が干し柿に、蛸、団子、マクワウリ、魚、蟹、飴など食べ物が頻出していたのとつい比べてしまいます。いったい何があったのでしょうか。

I:虫は簡単に死んでしまう、潰されてしまう、弱さの象徴、雑作もないものの象徴、それでも精いっぱい生きているものの象徴かと思いました。食べ物は和やかさとか。人は食べ物を食べると落ち着くとか、そういうことに関係しているんだろうと。ところで朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)が逃げ込んでいる比叡山に光秀(演・長谷川博己)がやってきました。

A:光秀が叡山に行ったという史料もないけれども、行かなかったという史料もないという解釈なんですかね。ここで光秀は、天台座主の覚恕(演・春風亭小朝)と面会しました。天台座主といえば、『愚管抄』を著した慈円(九条兼実の弟)、還俗前の護良親王(後醍醐天皇の皇子)、将軍就任前の足利義教などが就任しています。

I:覚恕は光秀に兄の帝(正親町天皇/演・坂東玉三郎)は美しい、自分は醜い故に外に出されたといっていましたが、天皇家から叡山に入室するのは珍しいことではないですから、私は違和感を覚えました。

A:覚恕は、〈美しきものに生涯頭を下げて生きるのか、金と力があれば皆わしに頭を下げる〉といって、〈美しきものに勝ったのじゃ〉とまでのたまっていましたが、覚恕が光秀をたばかっているとみていました。いかにも高貴な人間がやりそうなことです。

I:要は、さまざまな既得権益を新興勢力の信長に奪われたことを怒っているわけですね。

A:もともと織田家も越前・劔神社の神官出身といわれていて、朝倉氏とは同じ斯波氏の家臣として同輩でした。朝倉氏は越前で斯波氏を差し置いて守護同然の権力を手にします。一方の織田家も斯波氏の尾張守護代となった織田家もありましたが、信長の弾正忠家は守護代の家臣の家筋です。朝倉義景にとっては〈どこぞの田舎大名〉で〈成り上がり者〉でしかないのでしょうね。

I:これまで最新の研究成果を採用することの多かった『麒麟がくる』でしたが、叡山焼き討ちの描写では昔の通説に近い形で展開してきましたね。

A:そうでしたね。新しい知見では、信長の攻撃ではそんなに燃えていないらしいです。叡山は、第6代将軍足利義教にも攻められていますし、信長の約70年前には「半将軍」とも称された管領の細川政元にも攻められています。もしかしたら信長の時代にはまだ全山復興していなかったのかもしれませんね。しかし、覚恕は女性を侍らせたり、金に執着する様を吐露するなど、光秀を怒らせることばかり言っているのが印象的でした。

なぜ実在の医師、曲直瀬道三をキャスティングしなかったのか?

幼少の頃から正親町天皇(左/演・坂東玉三郎)を診ていたという東庵先生(右/演・堺正章)。

I:少し話題を変えて、少なからぬ視聴者がモヤモヤしていると言われる架空キャラ問題について触れてみたいと思います。

A:そこ触れますか?大河ドラマにとって架空キャラは、ストーリーの潤滑油としての役割になることが多いです。個人的に印象に残っているのは『草燃える』(1979年)の伊東十郎祐之(演・滝田栄)。最近2022年大河の『鎌倉殿と13人』のキャスティングが発表されていますが、「あれ?十郎祐之は誰が演じるんですか?」とボケをかましてしまうほどストーリーに違和感なく溶け込んでいました。一方で『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)の加納随天(演・平幹二朗)はやり過ぎでは?と感じた記憶があります。

I:『麒麟がくる』の架空キャラはどうですか?医師の望月東庵(演・堺正章)、駒(演・門脇麦)、伊呂波太夫(演・尾野真千子)、菊丸(演・岡村隆史)がいますが。

A:少なからぬ視聴者の方がモヤモヤした気持ちになる最大の原因は、通常50話前後だった尺が五輪の休止期間設定で44話になっている影響が大きいのではないでしょうか。そのため後半戦はやや駆け足に進行している感じがします。それで架空キャラの出番が多いと感じる人が出てくるのでしょう。加えてコロナ禍による撮影休止期間もありました。細かい話は最終回を見届けてからにするとして、ひとつだけ指摘したいのは、望月東庵先生を実在の医師・曲直瀬道三(まなせどうさん)にしておけばよかったのにとは思っています。

I:なるほど。確かに曲直瀬道三はいろいろな大名の診察もしていますし、後の話になりますが、光秀の診察もしています。

A:しかも正親町天皇も診ていたようなので、東庵先生は明らかに曲直瀬道三をモデルにしていると推測されます。であれば、端から曲直瀬道三でキャスティングしておけばよかったのではないかと。

I:なぜ、実在の曲直瀬道三を登場させなかったのでしょう。

A:東庵先生は、尾張や美濃、果ては遠江・駿河まで足を伸ばしていました。その時代に曲直瀬道三はそんなところに行っていませんよ、と指摘されるのを避けたんですかね?東庵先生を曲直瀬道三にしていたら架空キャラへの認識も変わっていたのではないでしょうか。

【平吉少年の死で考えたこと。次ページに続きます】

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