松永久秀(演・吉田鋼太郎)と対立する筒井順慶(演・駿河太郎)が登場。

元号〈元亀〉の3年間は、織田信長に危険が迫った3年間として歴史に刻まれている。朝倉との戦い、三好一党や本願寺、さらには叡山、武田信玄……。いよいよ緊迫した展開が始まる『麒麟がくる』が、クライマックスに向けて胎動する。

* * *

ライターI(以下I):オープニングが約8分ありました。光秀(演・長谷川博己)が将軍足利義昭(演・滝藤賢一)に謁見した場面ですが、長谷川さんの演技に引き込まれました。

編集者A(以下A): 長谷川博己さん、滝藤賢一さんに加えて、摂津晴門役の片岡鶴太郎さん。「麒麟がくる」の中でも屈指のやり取りだったと思います。浅井長政が寝返ったことを摂津晴門が事前に知っていたことが発覚しました。そのことを問い質す光秀に、摂津は政所の者から聞いたと抗弁しました。

I:この後の光秀の台詞にはしびれました。〈敵の味方は敵と申しますぞ。摂津殿はわれらの敵になるおつもりか〉〈お言葉にお気をつけなされ!〉。

A:長谷川さんの半端ない熱量が伝わってきましたし、光秀と摂津がやり合っている際の将軍義昭の表情が絶妙でした。本当に滝藤さんの演技に引き込まれます。そして、摂津晴門が立ち去る場面はいかにも伏魔殿・京都という感じでした。

I:光秀は将軍義昭に次の戦には出陣するようにと〈よーくよーく胸にお刻みいただきとうございます〉と迫りましたが、ここでも義昭は回答することなく信長のもとに立ち去りました。ここもいかにも京都という場面でした。

A:朝倉攻めは織田信長VS朝倉義景の戦いではなく、幕府VS朝倉の戦いでした。ところが幕府内には摂津晴門という内通者がいた。義昭も表向きは信長(演・染谷将太)に対して〈よう戻った。うれしく思うぞ〉などという始末です。いやぁ、本当に京都の政界は恐ろしい。

筒井順慶と松永久秀の争いと光秀

鉄砲の仕入れのため今井宗久(演・陣内孝則)に相談する光秀(演・長谷川博己)と藤吉郎(左/演・佐々木蔵之介)。藤吉郎が最近どんどん洗練されてきている。

I:場面変わって、藤吉郎(演・佐々木蔵之介)と光秀が堺の今井宗久(演・陣内孝則)を訪ねます。金ヶ崎の退き口の際に失った鉄砲を新たに仕入れたいということでした。

A:光秀らが宗久に渡した書状には〈鉄砲三百  丈縄一万 玉薬一千斤 玉薬壺六百  玉拾萬  玉入五百〉と記されていました。

I:一時停止して書き留めましたね?(笑)。でも200挺注文した先客がいるといったん断られました。

A:その先客が筒井順慶(演・駿河太郎)という設定なのですが、今井宗久は、光秀らを茶会に招いて筒井順慶に引き合わせようとします。参加者は、千宗易、油屋常琢、筒井順慶、若狭屋宗慶。千宗易は後の千利休ですし、油屋、若狭屋も堺の豪商。その中に筒井順慶が入っている。この面々は松永久秀とも茶会を催す仲ですから戦国時代のダークサイドを見る思いがしました。

I:光秀にしてからが、鉄砲を調達しなければならないという使命のために、信長を紹介してほしいという筒井順慶の願いを受けてしまいます。

A:後に筒井順慶は光秀の与党となり、本能寺の変の後に光秀は順慶の加勢を期待する関係になります。ところが順慶はどういう態度をとったのか? 今週、光秀、藤吉郎、順慶が一堂に会すのは意味深な場面でした。

I:光秀は第1話から松永久秀(演・吉田鋼太郎)と絡んできました。最近も光秀に会う度に久秀は〈ヨッ〉と右手を挙げて挨拶する関係でした。その光秀が自身と敵対する筒井順慶と信長の仲介役になったとしたら、久秀の心中を思うとやりきれない思いがします。

A:史実でも実際に信長に順慶を紹介したのは光秀といわれていますから、今後彼らの関係がどう描かれるのか楽しみですね。しかし、前半戦では、やっと鉄砲を入手した光秀は四六時中、背中に背負っていました。鉄砲鍛冶の伊平次(演・玉置玲央)を探すという回もありました。その光秀が大量の鉄砲を買い付けるために暗躍している。時代は大きく変化していることを実感させられました。

I:『麒麟がくる』では描かれていませんが、世界は大航海時代で、国内にもヨーロッパから多くの宣教師などが来日していました。そうした世界史的な視点も念頭に入れると面白いですよね。

A:そうですね。そうした時代にもたらされた鉄砲を瞬く間に戦国の日本人は国産化しました。当時世界でもっとも多く鉄砲が流通したのは日本だったといわれるくらいです。ちなみに幕末には、アメリカ南北戦争で使われた鉄砲がたくさん日本にもたらされたといいます。

I:ところで、筒井順慶と光秀らとの会談の席に駒(演・門脇麦)が現れました。

A:将軍に寵愛されているということでした。寵愛というとなんか側室にでもなったのかと思われがちですが、このとき駒は40歳をすぎています。現代ならともかく戦国時代で側室とは現実的ではありません。あくまで貧しい人のための施設をつくる同志的な関係だと私は認識しています。それよりも順慶役の駿河太郎さんの佇まいが絶妙でした。

I:仏事指導に興福寺の夛川(たがわ)良俊執事長のお名前がありました。細かい場面に対するこだわりが大河ドラマを大河たらしめているということなんですよね。

コロナ禍で合戦シーンは期待できないのか?

I:ところで、織田・徳川軍と朝倉・浅井勢が激突した姉川の戦いがあっさりとした扱いでした。

A:斎藤道三が討ち死にした長良川の戦いのロケは私たちも見学させてもらいましたが、演者・スタッフ合わせて100人以上の大所帯でした。コロナ禍の今、大がかりなロケはできないということは理解しておく必要はありますね。制作陣も無念でしょうが、出来上がった作品の熱量は合戦シーンの減少を凌駕している印象でした。いろいろ考えると胸熱になりますね。

I:その姉川のシーンで、徳川家康(演・風間俊介)が、〈私はこれから甲斐の武田信玄と戦う予定です〉とした上で、将軍義昭が信玄に書状を送っていることをチクっていました。

A:〈ああ見えて公方様は食えぬお方じゃ〉などと言っていました。実は信長と信玄はここまでは蜜月といっていい関係にありました。おそらく信長はこの段階では信玄の離反を信じていなかったのではないでしょうか。

I:なるほど。ところで朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)が叡山に逃げ込んでいました。信長が背中に仏像を背負っている場面には狂気じみたものを感じました。

A:いよいよ叡山焼き討ちですね。朝倉義景に好意を抱いたことがない光秀がどう叡山を攻めるのか要注目です。〈戦のない世にするために今は戦をしなければいけない〉という伏線を張っていますし、戦のない世にするためにたとえ叡山といえども、という展開になるのですかね。いずれにしても〈元亀〉という元号が続いた3年間は信長がもっとも危機に瀕した時期になります。そこがどう描かれていくのか。

I:武田信玄の名も登場しましたし、いよいよ目が離せない展開になってきました。

A: はい。しかも今週は地図上ですが、三好一党が四国から攻めて来たという場面もありました。〈四国〉というワードが今後も登場するのか、こちらも大きく注目したいと思います。

朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)をかくまう比叡山に業を煮やす信長(右/演・染谷将太)。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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