足利将軍家の血脈を伝える〈平島公方家〉

やがて、堺公方である義維の政権も内部対立で崩壊し、義維は阿波の平島に引き上げてしまう。そのため、のちにこの義維の血筋を平島公方、もしくは阿波公方とも呼ぶようになる。

一方、近江の義晴も、京に戻っては近江に逃げるという不安定な移動を繰り返し、息子義輝に将軍位を譲る。義輝は、細川家の家臣で実力者にのし上がった三好長慶と対立し、父義晴の死後も近江と京の往復を繰り返すことになる。

そして、三好三人衆や松永久通(久秀の息子)の手によって、義輝は殺害されてしまう(永禄の変)。

さて、次の将軍はどうする。

将軍義輝の側近である三淵晴英や細川藤孝、一色藤長らは、義輝の弟の覚慶(足利義昭)を擁立しようとするが、三好三人衆は、自分たちと関係の深い元堺公方の足利義維に目を付けた。しかし、義維は病気持ちだったため、その嫡男の義栄を引っ張り出すことにした。

ライバルの義昭がなかなか上洛できない間隙をぬって、義栄はいち早く阿波から海を渡り、摂津(大阪府)の富田で第14代将軍の座についたものの京に入らなかった。その理由は、義栄を引っ張り出してきた三好三人衆と、松永久秀との対立が激しく、これを避けるためだったとも、義栄の背中に腫物ができて、健康状態に不安があったからともいわれる。

やがて、義昭は織田信長という実力者の後ろ盾を得て上洛をはかる。

織田信長の武力の前に、三好三人衆はあっけなく蹴散らされて阿波に逃亡。将軍の義栄も逃亡の途中、病気が悪化して死んでしまう。どこで亡くなったのかも定かではない、寂しい最期だった。

堺公方義維の息子で、平島公方と呼ばれた義栄は、幕府の14代将軍の座をつかみながらも、その座を追われてしまったのだ。

この義栄には、義助という弟がいた。足利義助は兄の跡を継いで平島に館を置き、その後は足利将軍家をめぐる抗争には近づかず、四国の地方豪族として生き残った。この義助を祖とする一族が、平島足利家と呼ばれた。

秀吉政権時代、平島足利家のいる阿波には蜂須賀家が入封し、以後、明治維新まで阿波の大名として君臨した。蜂須賀家は、平島足利家の当主に「足利」を名乗ることを禁じ、平島の名字を使わせた。足利家というすこぶるつきの「名門」が家中にいるのは、領主である蜂須賀家の権威を損なうと考えたのだろう。

しかし、蜂須賀家も平島家を家臣ではなく、あくまでも「客分」として扱い、所領を保障するなど、それなりに尊重する態度を取り続けた。地元の人々も、平島家の「高貴」な血筋を尊重し、「公方様」と呼んでいたという。

ところが、江戸時代も後期の文化2年(1805)、平島家当主の義根は、蜂須賀の殿様に待遇改善要求を拒否されたのをきっかけに、阿波を離れて京に移り住み、足利姓に戻した。蜂須賀家と断絶したため、阿波時代に得ていた収入は途絶えてしまう。

しかし、紀伊徳川家や京の足利家ゆかりの寺社などの経済的支援を受け、なんとか名門として体裁を保ち続けた。徳川将軍家の直臣になるという要望は、ついに採用されることはなかったが、「足利将軍家の末裔」として近代を迎えた。

明治維新後は、足利家の末裔であることをアピールして、華族に列せられるように運動をしたが、却下されて受爵に失敗。さらに阿波徳島藩から脱藩して京に来たという経緯があるため、士族になることもできず平民となり、農業に従事するようになった。

現在、室町幕府将軍家とゆかりのある市町村、寺社などでつくる「全国足利氏ゆかりの会」というグループが活動しているが、平島足利家当主の足利義弘さんはその特別顧問を務め、昨年(2019年)10月に栃木県足利市で開かれた総会にも、85歳の高齢ながら出席をしている。

安田清人/1968年、福島県生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集・執筆・監修などを手掛けている。 北条義時研究の第一人者山本みなみさんの『史伝 北条義時』(小学館刊)をプロデュース。同書は現在、鋭意編集中。

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