放送再開第二週目が台風特番で延期になり、本日第23話が放送された『麒麟がくる』。光秀が敬愛する将軍義輝から人心が離れ、将軍暗殺計画の噂が京を駆け巡る。いつの間にか信長に仕官していた藤吉郎、将軍義輝から離反した細川藤孝……。物語は怒涛の展開を迎えることとなる。
* * *
ライターI(以下I):やっぱり『麒麟がくる』後半戦は怒涛の展開を見せています。
編集者A(以下A):前回、将軍足利義輝(演・向井理)が光秀(演・長谷川博己)に〈織田信長を連れて来てくれ〉と懇願していました。今週は、光秀が義輝の御内書(ごないしょ)を持って信長(演・染谷将太)のもとを訪ねました。
I:御内書は将軍の名で発給される室町幕府の公文書。光秀がそれを信長のもとに持参していたというわけですね。
A:ところが信長は斎藤義龍(演・伊藤英明)の息子龍興と美濃を巡って争っている最中でとても義輝のために上洛する余裕がない。義輝があてにしていた越後の上杉謙信は、この年、関東に出陣して関東八屋形の小田氏治と合戦に及んだり、夏には甲斐の武田信玄と川中島で戦ったりしていますから、上杉、武田ともに上洛する余裕がなかった。義輝は不運といえば不運な将軍でした。
I:信長も軍議などで忙しく、〈あとはあの者と〉といって登場したのが、なんと藤吉郎(演・佐々木蔵之介)。びっくりしました。いつの間に!という感じです。しかもその登場の仕方が私には『半沢直樹』の台詞回しに似ているように思いました(笑)。
A:なんともインパクトのある登場でしたが、すでに百人組の組頭に出世していた。ここで藤吉郎はなんと『万葉集』の歌を詠み出します。
I:〈わがやどの 花橘は散りにけり 悔しき時に 逢へる君かも〉(1969番)ですね。
A:花が散ってしまった後に来るとは残念なことです。って歌ですよね? 光秀は気付いていませんが、藤吉郎は「今さら義輝の書状を持って来ても遅いよ」ということを暗に伝えたかったのではないでしょうか?
I:なるほど。ついこの前までは『徒然草』を読みながら文字を覚えていた藤吉郎格段の進歩です。さて、その藤吉郎は光秀に対して将軍義輝に暗殺計画があることを知らせます。
A:各地を放浪していた時に情報網を築いたんですね。信長が藤吉郎を紹介する際に、この男は〈使えるぞ〉といっていただけのことはあります。
I:私は信長の〈使えるぞ〉という台詞に戦慄を覚えました。〈使える〉家臣がいる一方で〈使えない〉という烙印を押された家臣がたくさんいたんだと思うと悲しくなりました。
A:何はともあれ、光秀が敬愛する将軍義輝に暗殺計画があることが露呈しました。朝起きた義輝が〈たれか ある?〉と側近を呼んでも誰もいない。孤立した義輝を象徴するシーンが描かれました。
I:本当に悲しいシーンでした。いくら落ちぶれたとはいえ、将軍の側近が全員いなくなることなんてないから、夢想の中のシーンなのでは?と思いたくなるほど。夏が終わって、庭に紅葉が散り敷いていて、この先に起こる義輝の最期を連想させるようでした。
細川藤孝〈寝返り 告白〉は重要な伏線シーン
A:さて、将軍暗殺を止められる男は松永久秀(演・吉田鋼太郎)しかいないと藤吉郎から聞いた光秀ですが、そのまま大和に赴いて、久秀を訪ねます。
I:多聞山城にいた久秀は堺の商人が持ってきたという壺を吟味していました。
A:この光秀と久秀のやり取りはいろんな意味で名場面でしたね。〈わしが名器といえば名器になる〉〈将軍の値打ちも人がつくる〉〈都から追い払う。それだけじゃ〉……。印象的な台詞がありました。
I:壺を吟味する久秀なども今後の重要な伏線ですし、名器を愛する信長と久秀がどう絡むのか期待していいかもしれないですね。
A:そんなやり取りの中で仰天したのが、多聞山城に細川藤孝(演・眞島秀和)がいたことです。
I:〈なんと申し上げても無念の極みで〉〈都の人心は義輝様から離れて〉とかいい出しました。先週の当欄で〈怪しい雰囲気を醸し出している〉と指摘したばっかりですが、その翌週にこんなシーンが描かれるとは衝撃的な展開ですね。
A:いやあ、このシーンは最終盤まで引きずる最重要な伏線ですね。まさか最側近の藤孝が義輝から離反しているとは。
I:光秀はなぜ、この男の心根を気づけなかったのでしょうか。
A:身内や自分が同士と思っている人物には甘いということではないでしょうか。今後の細川藤孝と光秀との絡みは要注目ですね。
I:そういえば、松永久秀は将軍義輝のことを〈息子には討つなと申しておる。案ずるな〉といっていました。本当ですか?という思いですが、今後も久秀の台詞には要注目ですね。
駒の丸薬は今後どこまで大きくなるのか?
A:話題を変えますが、前回も今回も駒(演・門脇麦)の丸薬が登場しています。
I:駒は近衛前久(演・本郷奏多)や覚慶(後の足利義昭/演・滝藤賢一)にも会って人脈を広げています。今週は伊呂波太夫(演・尾野真千子)の口利きで販路が広がる展開になりました。伊呂波太夫は、永久寺の僧から丸薬の注文が入っているといっていましたが、永久寺をここで登場させるのは憎い演出でした。
A:大和の永久寺ということは、わが国最古の官道である山辺の道沿いにあった内山永久寺のことですかね?往時には西の日光とも称され、大和では東大寺、興福寺、法隆寺などと同等の格式を誇ったという大寺院ですが。
I:その大寺院が明治の廃仏毀釈で跡形もなく破壊されました。山辺の道を石上神宮からスタートするとほどなく伽藍の跡にたどり着きますね。廃仏毀釈の猛威を今に伝えるエピソードですよね。
A: 前回は触れませんでしたが、駒の丸薬がどういう風にストーリーに絡んで来るのかこないのか?こちらも注目したいと思います。そういえば、駒役の門脇麦さんが8月から東武鉄道の「日光・鬼怒川の旅」のイメージタレントに採用されました。東武線の駅には彼女のポスターがたくさん貼られています。癒されますね。
I:(苦笑)。なにはともあれ、今週のラストは、京で一大事変が勃発したというナレーションで終了しました。 剣豪塚原卜伝の弟子だったとも伝えられ、剣豪将軍ともいわれる義輝がどう描かれるのか? 次週の注目ポイントですね。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり