越前に来て8年。浪人生活を送る光秀(演・長谷川博己)。

6月7日以来の放送再開となった大河ドラマ『麒麟がくる』。再開第一回(第22話)は、後半戦の鍵を握る人物が続々と登場してきた。何でもないようなシーンにもクライマックスに向けての伏線疑惑が飛び出す展開になった――。

* * *

ライターI(以下I):11週もの中断期間を経て『麒麟がくる』が再開されました。

編集者A(以下A):中断前の第21話では桶狭間の戦いが描かれましたが、後半戦のスタートは桶狭間の4年後からになっていました。信長は桶狭間後に松平元康(後の徳川家康)と清須同盟を結んでいますが、それが端折られた形です。

I:冒頭では、越前にいる光秀が書物を読んでいました。

A:そう。何を読んでいたかというと鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』でした。『吾妻鏡』といえば、後の徳川家康の愛読書として知られています。もしや光秀が家康に〈『吾妻鏡』面白いよ〉と教える設定になるのかと思いました(注目シーン(1))。光秀が幼い松平竹千代に甘柿を与えたシーンが懐かしいです。

I:その光秀が敬愛してやまない将軍足利義輝(演・向井理)の立場がいよいよ危うい感じになってきました。今週は、関白近衛前久(演・本郷奏多)と激しいやり取りが展開されました。

A:前久と義輝は従兄弟(前久の父と義輝の母が兄妹)なんですけどね。それはともかくついに後半戦のキーマンのひとり近衛前久が登場しました。映画『キングダム』で始皇帝の弟として悪役を演じた本郷奏多さんが演じているだけに、期待の存在です。もっともっといやらしい京都の公家の雰囲気を醸し出してほしいですね。この先、怒涛の展開が待っています。

I:永禄の改元を知らされていなかったことを義輝は怒っていました。

A:弘治から永禄のへの改元の際に、本来であれば将軍職から帝に改元を求めるという慣習があるのに、現職将軍であるにもかかわらず蚊帳の外だったわけですから、軽んじられていると怒るのももっともです。でもそれだけ将軍の権威が地に堕ちていたということですから。

I:あの場面でそのことが視聴者に伝わっていますかね?

A:そこまで細かいところが伝わらずとも、関白近衛前久と将軍義輝が対峙する場面は記憶に留めておきたいですね。 前久などは本能寺の変まで京の公家のいやらしい部分を演じてくると思います(注目シーン(2))。 。

将軍足利義輝(演・向井理)と謁見する関白近衛前久(演・本郷奏多)。露骨に不快感を顔に出している。

越前の光秀を訪ねて細川藤孝がやってきた

I:京都の情勢が蠢く中で、細川藤孝(演・眞島秀和)が越前の光秀を訪ねてきて、いつの間にか生まれていた光秀次女のたまを抱くシーンがありました。この女の子がやがて藤孝の嫡男忠興に嫁いで戦国の荒波に翻弄される細川ガラシャになるわけですね(注目シーン(3))。

A:そうなんですが、なんか細川藤孝が怪しい雰囲気を醸し出しています。この男の挙動は常に注視しておいた方がいいかもしれません。何か怪しいんですよね。

I:いつもは人見知りをする赤ちゃんのたまがおとなしく抱かれるくらいですからね。

A:今回は後半戦のキーマンを紹介していく回でもありました。すでに登場済の朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)は相変わらず煮ても焼いても食えない雰囲気を醸し出していました。

I:越前一乗谷に五代百年君臨した大大名家の当主なんですけどね。

A:一乗谷朝倉氏遺跡は仕事でもプライベートでも何度も訪ねていますが、戦国の悲哀を味わえる絶好の遺跡ですよ。このあと、しばらく一乗谷はドラマに登場してくると思いますが、一度訪ねてみてほしいですね。

I:永平寺や越前大野城、恐竜博物館とか、少し足を伸ばせば面白い旅になりそうな地域ですよね。

A:ドラマでも朝倉義景の存在にも注目してほしいです。五代百年栄華を誇った名家がなぜ滅びることになったのか。それをドラマではどう描いていくのか。 ああ、なんか楽しみですね。

I:〈京で見たこと、聞いたこと逐一わしに伝えるのじゃ〉というせりふ回しなど、ユースケ・サンタマリアさんがいい味を出しています。今後もさらにいい味を出して来るはずです(注目シーン(4))。

やはり松永久秀の最期は爆死であってほしい

A:今回特筆すべきは、松永久秀(演・吉田鋼太郎)の多聞山城が登場したことです(注目シーン(5))。天守の嚆矢ともいわれる高矢倉がしっかり描かれていました。古都奈良では東大寺、興福寺などの世界遺産に隠れて目立たぬ場所ですが、『麒麟がくる』絡みで訪ねても良いかもしれません。

I:大和にいる松永久秀がどういう道を辿っていくのか楽しみです。爆死しますかね?

A:松永久秀の最期に関しては史実がどうのこうのを度外視して派手に爆死させてほしいですね。吉田鋼太郎さんがどう爆死シーンを演じるのか楽しみですし。

I:松永久秀の装束が花火がモチーフというのも、そういう意味で興味深いです。大和の場面では将軍義輝の弟で興福寺の塔頭で僧になっている覚慶(後の足利義昭/演・滝藤賢一)が登場しました。向井理さんの義輝の弟が滝藤さん?という野暮な突っ込みはおいておいて、貧しい人々に施しをする姿が描かれました(注目シーン(6))。

A:大和の覚慶が大河ドラマで描かれる日が来るとは感無量です。施しをするシーンが今後の伏線になっているかもしれません。注目してほしいのは、足利義昭と光秀がどう絡んでいくのかです。

I:このふたりの関係の描かれ方次第で、どういうクライマックスに向かうのかだいたいわかってきますものね。

A:そうですね。さらに気になるシーンがありました。将軍義輝が〈夢に観音菩薩が現れて越前から助けがくる〉という話をしたことです(注目シーン(7))。光秀はここまで徹頭徹尾いい人キャラで来ています。

I:しかも生真面目で律儀。周りからみたら息がつまりそう。そういう光秀の生きざまにも注目ですよね。

A:今回は、通常回の中に注目のシーンが7つもありました。見る人によってはもっと見つかったかもしれません。そうした場面が積み重なってクライマックスに至るというわけですね。

大和で貧しい人々に施しをする将軍義輝の弟覚慶(演・滝藤賢一)。覚慶もまた、「麒麟」の到来を願っている。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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