源宗于朝臣『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)は、光孝天皇の皇子・是忠親王の子として生まれた平安時代の歌人です。寛平6年(894)に臣籍降下して源姓を賜り、皇族から身を退きました。

その後、相模・信濃・伊勢など複数の国司を歴任しながら、文化的な活動を続けました。天慶2年(939)に右京大夫となり、正四位下という官位に至りましたが、天皇の孫の身分としては低い昇進にとどまりました。この不遇な境遇を嘆く和歌を叔父の宇多天皇に送るなど、昇進の願いが叶わなかったことへの悔しさが伝わってきます。

一方、歌人としての評価は高く、三十六歌仙の一人に数えられています。紀貫之と親交があり、『古今集』『後撰集』『新勅撰集』などに和歌が収められました。また『大和物語』には右京大夫として登場し、官位が上がらないことを嘆く逸話が多く記されています。

政治的には不遇でしたが、文化の担い手として平安時代を代表する知識人の一人でした。

源宗于朝臣の百人一首「山里は~」の全文と現代語訳

山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば

【現代語訳】
山里は冬はとりわけ寂しく感じられる。尋ねてくれる人も途絶え、慰めの草も枯れてしまうと思うので。

『小倉百人一首』28番、『古今和歌集』315番に収められています。この歌の最大の特徴は、「かれぬ」という言葉に二つの意味が込められていることです。

一つ目は、「草木が枯れる」という意味。冬の山里では、緑の草も枯れ果て、木々の葉も落ちてしまいます。その単調で寒々しい景色が目に浮かびます。

同時に「かれぬ」には、「人めが離れる」「心が遠ざかる」という意味も隠されています。つまり、訪れる人がいなくなり、かつての親しい関係が冷え込んでいく様子も表現しているのです。

この二重性こそが、この歌を単なる冬景色の描写から、人間関係の疎遠さへと一気に深める仕掛けになっているのです。

また、もう一つ注目すべき工夫があります。それは「倒置法」の使用です。

通常であれば、「人めも草も枯れぬと思へば、山里は冬ぞ寂しさ増しけり」となるはずです。つまり、「草が枯れ、人が来なくなったので、山里は冬が寂しい」という論理的な流れです。しかし宗于は、この順序を入れ替えました。「山里は冬が寂しい」と先に強調しておいて、その後に「人目も草も枯れぬからこそ」と理由を添える形にしたのです。

この倒置により、冬の寂しさが一層強調されます。読み手の心に、まず「寂しさ」という感覚的な衝撃が訪れ、その後で論理的な説明が続く。このリズムが、この歌を味わい深いものにしているのです。

源宗于朝臣『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

源宗于朝臣が詠んだ有名な和歌は?

源宗于朝臣が詠んだ他の歌をご紹介します。

ときはなる 松のみどりも 春来れば 今ひとしほの 色まさりけり

【現代語訳】
常に不変の松の緑も、春が来たので、さらに一際色が濃くなるのだった。

『古今和歌集』24番に収められています。松は一年中緑色です。春になったからといって、急に色がガラリと変わるわけではありません。しかし、宗于はこう言いたいのです。

「春の光、春の空気の中で見る松は、昨日までの松とは違う。より深く、より瑞々しい生命力に溢れて見える」と。

これは、鋭い観察眼と豊かな感受性があってこそ生まれる表現です。

源宗于朝臣、ゆかりの地

ここでは、源宗于朝臣ゆかりの地をご紹介します。

大乗寺

京都市山科区にあります。毎年秋になると、1300本以上の酔芙蓉(すいふよう)が境内に咲き誇り、境内には源宗干朝臣の歌碑があります。

最後に

源宗于朝臣の「山里は~」の歌は、単なる風景描写ではありません。それは、自分の思い通りにならない人生を受け入れ、その中にある「静寂」を美しさに昇華させようとした、一人の男の心の叫びでもあります。

冬の冷たい空気を感じた時、あるいはふと孤独を感じた時。この歌を思い出してみてください。「寂しさ」の先にある、凛とした美しさが見えてくるはずです。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『全文全訳古語辞典』(小学館)
『原色小倉百人一首』(文英堂)

アイキャッチ画像/『百人一首かるた』(提供:嵯峨嵐山文華館)

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

●協力/嵯峨嵐山文華館

百人一首が生まれた小倉山を背にし、古来景勝地であった嵯峨嵐山に立地するミュージアム。百人一首の歴史を学べる常設展と、年に4回、日本画を中心にした企画展を開催しています。120畳の広々とした畳ギャラリーから眺める、大堰川に臨む景色はまさに日本画の世界のようです。
HP:https://www.samac.jp

 

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