文/藤原邦康
喉が乾燥するこの季節…。声にも潤いがなくなり、かすれてしまうこともしばしばありますね。喉を守ることはもちろん大切ですが、体を上手に使えば喉にできるだけ負担がかからないように発声することは可能です。今回は、年齢を重ねてもいかに若々しい声を保つかについて、整顎の視点から解説しましょう。
年齢は声に現れる
見た目の印象は姿勢や立ち振る舞いに現れますが、意外と見落としがちなのは声に年齢が現れるということです。外見はメイクやファッションである程度カバーできますが、声はごまかすことができません。逆に、年齢を重ねても、声に張りがあり艶やかだと若い印象を持たれます。
私は大学時代にアメリカ留学で映画専攻をしていたのですが、良い俳優の条件の一つに美声や個性的な声があげられるということを授業でも学びました。当院にも、ときどきアナウンサー、歌手、声優、俳優など声を大切にするクライアントが訪れます。日本でも従来からある発声練習法に加え、欧米式ヴォイストレーニングも浸透してきたのは喜ばしいこと。現代の歌い手やしゃべりのプロたちも姿勢や声帯を整える重要性を十分に理解しています。彼らに対しては強化トレーニングに加え、アゴをリラックスさせることや関節の負担や偏りを整える重要性を私からは提言しています。
例えば、元メジャーリーグプレイヤーのイチロー選手は体幹トレーニングの実践者であったのと同時に、体をケアし道具を大事にしたことで有名です。歌手やアナウンサーにとって重要な声を出すための体の手入れは重要です。でも、喉のケアはしてもアゴのケアはなかなかしないもの……。「楽器の重要パーツであるアゴも調律しませんか?」とご提案しています。整顎の施術をし、セルフケアについてもアドバイスをしています。
昨年、井の頭公園で「キン肉マン」「北斗の拳」などの代表作で有名な声優の神谷明さんのイベントに遭遇したことがあります。公園散策だけのつもりだったのですが、思わずその声に振り返り立ち止まってました。私の少年時代にテレビから聞こえてきたあの声! お世辞抜きで、30~40代と言っても遜色のない若々しいお声です。実年齢の70歳代とは思えないある張りのある声でパフォーマンスをされていて、その活力に圧倒されたことを今でも思い出します。声というのはそれほど人の頭に残るものなのだと実感します。
顎関節症から滑舌の悪さにつながる可能性がある
今年のはじめ、あるラジオ番組で神谷さんが「実は、声は現役を続けてさえいれば維持できる」と、話されているのを聞きました。確かに、今年に20年ぶりのリメイクされたアニメでもハマリ役の主人公を何の違和感もなく吹き替えされていました。何しろキャラクターは歳を取らないので大変なはずですが、ヒロイン役の声優さんも(神谷さんが聞いても)変わらなかったとのことで、プロの力量や人間の声のポテンシャルには驚かされます。
ただ、神谷さんによると「アーティキュレーション(滑舌)は50代くらいから徐々に(変化が)来ます」「筋肉を傷めると復帰するまで時間がかかる」とのことで、「鍛える」だけではなく「整える」アプローチも必要だと考えさせられます。
私の場合は20~30代の頃に顎関節症だったため、滑舌が悪く、調子が悪くなるとろれつが回らないこともありました。決して声帯が衰えていたわけではありませんが、むしろ筋トレを
発音や発生が困難なケースを「構音障害」と呼びますが、舌小帯や舌の形状の問題など先天的な器質性障害だけとは限りません。後天的には、顎関節症によって口がスムーズに動かず言葉を発音しにくくなる機能性の構音障害も起こり得ます。「構音障害」という診断名はつかない軽度の場合でも、顎関節症から滑舌の悪さにつながる可能性があります。これらのケースおよび口腔機能が低下するオーラルフレイルにおいては、「鍛える」アプローチだけ一辺倒では事態はなかなか改善しません。では、どうしたらよいかというとアゴの正しい使い方や整え方を学び、上手に体と付き合うことです。次回、詳しくお話ししましょう。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。