文/倉田大輔
私は「カレー」が大好きで、最低でも週に1回は食べています。
「カレー」は子供たちの学校給食でも非常に人気が高く、日本人の国民食とさえ言えるかもしれません。
海上保安庁「船飯カレーコンテスト」という存在を知った私は、医師の立場から船とカレーと健康について考えてみたいと思います。
全日本カレー工業協同組合の統計から計算すると、日本人は1年にカレーを約73回も食べています。乳児から超高齢者までを含めた平均ですから、カレー好きな方はもっと高い頻度かもしれません。家庭では日曜日・夕食、外食は土曜日・昼食で食べる傾向があります。
カレーは本当に海軍発祥?
艦内で食べたカレーの美味しさに水兵たちが感動して、民間に広めた「カレー日本海軍発祥説」を聞いたことはありませんか?
カレーを初めて口にした日本人は江戸時代末~明治時代初め、英仏の外国船に乗った留学生が船内で食べたようです(米ではなくパン)。
明治9年(1876年)「少年よ、大志を抱け」で有名な札幌農学校クラーク博士が、「日本の食事は栄養に乏しいが、ライスカレーなら良いので、1日におきに食べること」と校内で広めました。
明治41年に発行された海軍最古の料理教科書「海軍割烹術参考書」にカレーは登場しますが、材料や作り方を細かく記載されてはいません。明治30~34年頃に書籍や婦人雑誌でのレシピ紹介、明治38年頃に日本初国産カレー粉が発売され、一般社会に広まった後に、海軍に広まったと伝わります。残念ながら海軍発祥の可能性は低いようですね。
船の上でカレーを食べるワケ?
一般家庭ではカレールウを使いますが、元々はカレー粉を使った料理です。カレー発祥の地インドでは、「マサラ」と呼ばれる10種類近くのスパイス混合物を各家庭で作ります。スパイスは、食べ物の保存料や調味料として世界中で重宝され、スパイス戦争まで発生しました。
英国がインドから持ち帰って、英国人好みでスパイス混合の手間を無くすために作ったのがカレー粉で、1800年頃「C&B社」で販売され広まりました。当時の英国は、アジア圏はじめ世界中に勢力を拡大させていましたが、飛行機もなく、船による長い航海が必要でした。カレー粉は、長期保存が可能で、具材も自在(寄港地で肉や野菜などを現地調達)、調理も簡単で様々なバリエーションが作れることも好まれた一因でしょう。
カレーは体に悪そうな料理?
カレーは体に悪そうなイメージがありそうですが、ラーメン、ミートソーススパゲッティと比べてみましょう。
カロリーは「カレーライス:658キロカロリー、ラーメン:478キロカロリー、ミートソーススパゲッティ:726キロカロリー」
食塩は「カレーライス:2.2グラム、ラーメン:5.9グラム、ミートソーススパゲッティ:3.1グラム」です。
香辛料を多く含むカレーは、塩分を少なくしても味がしっかり出やすい特徴があります。
鶏肉の皮を取る、脂身の少ないヒレ肉、肉の代わりに大豆や水煮缶を使用するなど調理に工夫をすれば、糖尿病などを患う方も食べることが出来ます。
海自カレーと海保カレーどちらが先か?
広島県呉市で海上自衛隊の基地や艦艇で実際に食べられている30種類のカレーを市内飲食店で食べられる「呉海自カレー」があり、以前に私も取材しましたが地域も盛り上がっていました。
1945年終戦で日本海軍が解体されたことで、密輸の増加、放置された機雷や沈没船が日本の復興に支障を来しました。これらの事態に対処するため、旧海軍や商船関係者が集まり1948年海上保安庁、その後1952年に海上自衛隊が設立されました。旧日本海軍が担っていた業務を現在は、海上保安庁と海上自衛隊が協力して行っています。
もし「海軍カレー」が元祖なら、伝統としては「海保カレー」が古いはずですが、食料供給が難しい時代で残されている資料も乏しいため、はっきりはしません。
海上自衛隊は毎週金曜の昼はカレーと決まっていますが、海上保安庁は船が港に入る日や長い航海の折り返し地点など船ごとにカレーの日が決められています。
「伝統の海保カレー、盛り上がりの海自カレー」と言えるかもしれませんね。
船飯カレーコンテストとは?
海上や船上という環境で働く海上保安官に「食事」はとても重要です。電話やメール、SNS、家族や友人たちと連絡の出来ない状況はなかなか想像できませんね。船での食事「船飯(ふなめし)」を通じ、海の安全や犯罪対策など幅広い任務を行う「海上保安庁」への関心を高めてもらうために2018年「第四管区海上保安本部」で「船飯コンテスト」が企画されました(第1弾がカレー)。
巡視船艇の中で食事を作るのは、経理や物品管理なども行う「主計科」職員です。料理だけでなく通常の乗組員の仕事も同時に行っていて、なかには「潜水士兼料理人」という人もいます。
海上保安官は、陸上勤務や航空機乗務もあるため、全員が「船飯」を食べている訳ではありませんが、「日本の海は船飯が守っている!」と言っても過言ではないでしょう。
「船飯カレーコンテスト」第1位に輝いた「南国ビーフカレー」は、パイナップルをミキサーにかけて、1時間ほど牛肉を浸すほど手が込んでいます。
「赤ワイン」を使用していますが、飲料用ではなく「調理用ワイン」で、料理の過程でアルコールを飛ばしています。決して酔って仕事をしてはいません。
これらは実際に「船飯」として船内で出されているメニューですが、パイナップルの器は、コンテスト用です。
カレーはアンチエイジング食?
カレーに含まれるスパイスは、シナモン、ローズマリー、唐辛子、生姜、サフランなど約30種類もあります。中でも、カレーの黄色成分「ターメリック」は日本名「ウコン」で飲酒対策として愛用している方もいるのではないでしょうか。「ターメリック」はインドや東南アジアでは紫外線対策として肌に塗られることもありました。
「ターメリック」に含まれる黄色成分「クルクミン」は、抗炎症作用(⇐慢性肝炎・腸炎)、健胃作用(⇐消化器潰瘍)、抗アレルギー作用(⇐アトピー性皮膚炎)への効果が報告されています。さらに抗腫瘍効果(癌の増殖や転移抑制)やコレステロールの低下や動脈硬化抑制など細胞の老化を防止するアンチエイジング作用に加え、「ストレス抑制、冷え症改善、ダイエット」効果などがあり、女性にも喜ばれそうですね。
カレーライスは、「ご飯(主食)野菜(副菜)肉魚貝類(主菜)」が一度に食べられる栄養バランスの良い食事ですが、デザートにフルーツやヨーグルトを食べるとなお良いでしょう。
【取材・写真協力】
海上保安庁 第四管区海上保安本部 広報・地域連携室
海上保安庁 政策評価広報室
【第四管区海上保安本部について】
愛知県、岐阜県、三重県の東海三県とその周辺海域(沖合700海里まで)、伊勢・志摩など海岸線が複雑で日本の国土面積とほぼ同じ大きさを担当しています。
自動車産業をはじめとする中京工業地帯、船が多く通行し事故の危険性が高い伊良湖水道(幅約1200m)や中部国際空港(セントレア)がある地域で、2016年には伊勢志摩サミットが開催されました。巡視船艇など25隻、航空機(ヘリ)4機(2019年3月現在)を擁しています。
文/倉田大輔
池袋さくらクリニック院長。日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医、海洋安全医学・ヘルスツーリズム研究者、経営学修士(明治大学大学院経営学研究科)
2001年 日本大学医学部卒業後、形成外科・救急医療などを研鑚。
2006年 東京都保健医療公社(旧都立)大久保病院にて、
公的病院初の『若返り・アンチエイジング外来』を設立。
2007年 若返り医療や海外渡航医療を行う『池袋さくらクリニック』を開院。
「お肌や身体のアンチエイジング、歴史と健康」など講演活動、テレビやラジオ、雑誌などへのメディアに出演している。
医学的見地から『海上保安庁』海の安全啓発への執筆協力、「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く“美・食・宿”<国際観光施設協会>』を連載。自ら現場に赴き、取材執筆する医師。
東京商工会議所青年部理事
東京商工会議所 健康づくりスポーツ振興委員会委員
東京商工会議所 豊島支部観光分科会評議員
【クリニック情報】
池袋さくらクリニック
http://www.sakura-beauty.jp/
住所 東京都豊島区東池袋1-25-17-6F
【お問合せ】
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