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歯ぎしりは就寝時にストレスを感じると起こる|交感神経の影響を強く受ける顎関節

文/藤原邦康顎関節モード切り替えで、身体機能をチェンジ|本能の影響を強く受ける顎関節

これまで、口をリラックスさせることがアスリートのパフォーマンスにとって重要だという話をしてきました。食いしばると体は緊張して固まり、アゴが緩めば体はしなやかに大きな可動域で動きます。もちろん口が緩みっ放しなのも良し悪しで、競技シーンによっては適宜、口元に力が入ることも重要です。噛み締めることで瞬間的なパワーやスピードが出てメリハリのある体の動きができます。食いしばりとポカン口、2種類の顎関節モードを切り替えることで、自動車のギアシフトのように身体機能を切り替えることが可能です。

ただ、顎関節の切り替え機能は自動車のギアのように無機的な制御とは事情が異なります。顎関節には”操縦者”の意思に反し、不意にスイッチが入って緊張することがあります。顎関節はプリミティブな”臓器”なのです。「プリミティブ」とは、原始的・根源的の意味。三叉(さんさ)神経という最も太い脳神経で支配されている咀嚼筋は、本能の影響を強く受けます。日常生活や競技の中で、自分の意思と関係なく緊張したり弛緩したりすることがあるのです。

不安や恐怖を覚えてストレスを受けると交感神経にスイッチが入る

例えば、就寝時にストレスを感じると歯ぎしりが起こります。またストレスや恐怖を感じる場面では、交感神経優位になりアゴが緊張して食いしばり体が硬直し防御姿勢になります。ヒトを含めた動物は危険を回避するために、大脳辺縁系の扁桃体を通じて不安や恐怖という感覚を持ちます。不安や恐怖を覚えてストレスを受けると交感神経にスイッチが入ります。交感神経が優位になると顎関節にも力が入ります。

食いしばりと姿勢の関係性についても以前に触れました。(アゴと背骨は連動している|歯を食いしばると猫背に、アゴの力が抜けるとリラックスする)心理ストレスだけでなく姿勢の影響によっても顎関節は緊張します。歯を食いしばることが引き金になり蝶形骨から前縦靭帯への筋膜コネクションによって背中が丸まりますし、背中が丸まると自然とアゴに力が入りがちになります。食いしばりと姿勢はちょうど「卵とニワトリ」のような関係。どちらか一方がきっかけになって他方を引き起こします。食いしばりモードでは「交感神経優位によって猫背になる」と覚えてください。

人間の本能に刻まれた恐怖の一つは「落下」の感覚

前回のスキーヤーに話を戻しましょう。人間の本能に刻まれた恐怖の一つは「落下」の感覚です。例えば、初心者スキーヤーの場合は、落下の恐怖から逃れるため、脚をつっぱり背中を伸ばしてのけぞってヘッピリ腰になる傾向があります。不格好ですが、危険を回避するための極めて合理的な体の反応だと言えます。

通常は落下の恐怖から体が伸び上がって後ろに反る姿勢に自然になるはずが、アスリートの場合は本能を上書きして訓練の力で前傾姿勢を取れるようになります。自然に背中を丸められるようになれば、スピードに乗ることができます。本能に反して落下スピードを高めるのですから、心身は興奮して交感神経モードになります。恐怖を上回るワクワク感を得られるのも交感神経が働いているからです。

ただ、交感神経優位になれば顎関節が緊張しやすくなるのは先述の通り。スキーヤーの前傾姿勢はどうしても食いしばりが起こしやすい傾向があるとも言えます。姿勢の要素に加えて、タイムトライアルともなれば焦燥感も生じますから食いしばりが強くなる傾向があります。食いしばりが強い選手は猫背になり、体を屈めることは得意ですが伸び上がることが苦手になります。スキーは重力を味方につけることが重要ですから、体をコンパクトに丸め弾丸のように落下できることはメリットもあります。一方、ターンをする際の伸び上がる動作がしにくくなります。スキーにおいても、いかに顎をリラックスさせるかが競技パフォーマンスを向上させるかの鍵になるというわけです。次回は、プロスキーヤーの例を取り上げて解説しましょう。

文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。

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