取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司
長生きして欲しい大切なわが家の愛犬ですが、最近、何となく衰えを感じることがあります。一般社団法人 高齢動物医療福祉協会(Elderly Animal Medical Welfare Association:略称EMWA) 理事で、高齢ペットのケアを行ってきた動物看護師の佐々木優斗さんに、シニアライフの快適な過ごし方について教えていただきました。
佐々木さんによると、ペットと飼い主の両方が快適に暮らせる介護のポイントは4つあると言います。
1)スキンシップをたくさんとる
2)些細なことでもほめる
3)生活スタイルを変えないこと
4)うまく手抜きをして一人で抱え込まない
この4つがシニア犬との快適な生活には欠かせない重要ポイントだと教えてくれました。
ポイントその1)スキンシップをたくさんとる
高齢になり、筋力が衰えてくると、自分の周りに興味が薄れて、寝ていることが多くなります。飼い主さんは、寝ているペットを起こすのは可哀想だと思っていませんか?
「犬は大好きな飼い主さんに構ってもらえないと感じて、そのまま寝続け、筋力もどんどん衰えてきてしまいます。若い頃、日常的にやっていたのと同じように、飼主さんはたくさんスキンシップをしてください」と佐々木さん。
「寝てるのに、さわっていいの?、と聞かれますが、大丈夫です。ぐっすり寝ているのに可哀想に、と言われることもありますが、本当にぐっすり眠っていたら起きません。嫌がるそぶりを見せたらやめればよいのです。たいていは嬉しそうに頭を持ち上げて、そのまま撫でられているでしょう。触れ合うことで脳が活性化して老化防止にもつながります。飼い主さんの愛情を感じ、周りへの興味も出てきます。スキンシップは本当に大事なんですよ」
ポイントその2)些細なことでもほめる
高齢期になった犬は、トイレを失敗したり、今までできていたことができなくなってきます。飼い主さんも動揺したり溜息を出してしまいがちですが、高齢期のペットこそ、ほめることが大事だと佐々木さんは言います。
「ペットは飼主さんに『すごいね!』ってほめられることが大好きです。ほめられるともっとやりたくなって、元気が出てきます。高齢になると失敗続きでほめることが少なくなってしまいますが、ペットシーツの上で半分トイレができただけでも、『すごいね!半分よくできたね!』ってほめてあげてください。次から一生懸命シーツの上で頑張ってくれるようになりますよ」
ほめる内容は何でも良いそうで、どんなことでもできたらほめる。お散歩できたらほめる。お水を飲み終わったらほめる。食事を食べ終わってほめる。ほめる内容は大したことではなくても良いそうなので、わが家でも簡単にできそうです。
ポイントその3)生活スタイルは変えない
高齢ペットは視覚や嗅覚、聴覚といった感覚や筋力が衰えていますが、環境の変化に関しては敏感に察知しているそうです。いつも水を飲んでいる場所を変えたり、トイレの位置を変更するだけで、水を飲まなくなったり、トイレを失敗するようになるので、なるべく変化させない方がよいと佐々木さん。
「部屋のレイアウトを変えたりして、どうしても水飲み場所やトイレの位置を変えたい場合もあると思います。そうした時は、元の場所も確保しておきながら、新しく移動したい場所にも水やトイレをつくっておきます。しばらくして両方使うようになってから、元からあった方を無くすようにすると、失敗が少なくなります」と教えてくれました。
ポイントその4)うまく手抜きをして一人で抱え込まないこと
佐々木さんが高齢ペットの介護をする飼い主さんに言いたいのは「一生懸命になりすぎないこと」だとか。「ショートステイ、訪問介護、往診の獣医さんなどを積極的に使って、なるべく介護の手抜きをすることを考えてください。絶対に一人で抱え込んだりしないことです。そして、どんなことでも介護経験者に相談すると良いですよ」と、プロのサポートを提案しています。
なぜ多くの人を巻き込んだ介護を提案するかというと、介護が原因で犬とうまく付き合えなくなることが一番困るからだと佐々木さんは言います。「ペットを一番可愛がって、心から愛してくれるのは飼い主さんです。ペットは高齢になっても、飼い主さんが大好きなんです。その大好きな飼い主さんが笑顔で幸せでいてくれるのが犬の幸せです。介護で不幸になることを、あなたのペットは望んでいません」。
犬はいくつになっても、飼い主さんの優しい手で撫でてもらうのが大好きで、楽しいことに貪欲で、ほめられることと飼い主さんが好き……、そんな当たり前のことを忘れそうになっていました。犬が好きなことを、生涯、犬にしてあげることが大切なのだと、佐々木先生に教えていただきました。
佐々木さんは高齢ペットと安心して暮らせる社会構築を目指す一般社団法人高齢動物医療福祉協会の設立メンバーのひとりです。「ペットとの生活の先にあるものが、悔いとならないよう、今のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大切にし、悔いのないQOD(クオリティ・オブ・デス)実現のお手伝いをしたい」と言います。
「最後の時に、こうしてあげればよかったという飼い主さんの声をたくさん聞きます。そうした悔いをできる限り減らしたい」という佐々木さんの提唱するペット介護の4つのポイント。次回はペットが若い今からできる老後の備えについて、教えていただきます。
取材協力/動物介護・看護師 佐々木優斗
11年間動物看護師として0.5次予防医療から救急医療まで幅広い分野を経験。愛犬の死を機に、もっと「わんちゃんの為にできる仕事」をと考え動物介護士としての道を選択。犬の大型介護施設勤務、ハイホスピタリティ老犬ホームの立ち上げ、老犬&老猫ホームのマネージャーを経て、新たに動物介護+動物看護の提供と人材育成をかかげ株式会社B-sky統括マネージャーに就任。理念を共にする者と一般社団法人高齢動物医療福祉協会を設立し専務理事就任。
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。
写真/木村圭司